第九話〈フィオネル視点〉
「どこで……っ」
嘘だ。
「ルーズバイン邸に向かう途中の湖にて入水、だそうです……」
嘘だ。
「ルーズバイン邸に向かう途中の……湖」
一気に血の気が引くのがわかった。
喉の奥がキュッと締まり、息苦しくなる。
……いつか、エオリアが話していた。
『フィオネル様にお見せしたい場所があるのです』
『どんな場所かな?』
『我が家の領地なのですが、愛らしい小動物の姿も見られる豊かな緑に囲まれ、揺れる度にキラキラと輝く水面がとても綺麗で、癒され元気の出る私のお気に入りの湖です』
『エオリアのお気に入りの湖?それはぜひ行ってみたいね』
『フィオネル様は色々とお忙しい身ですから、なかなかお時間は取れないかと思うのですが、いつかご一緒出来たら良いなと……』
少し恥ずかしそうに話すエオリアが微笑ましくて、よく覚えている。
エオリアはその、癒され元気が出ると言っていた場所で命を絶ったのか……。
婚約破棄されたから……?
いつか私と一緒に見たいと言ってくれた……彼女が愛した場所で自ら命を絶つ程に、絶望させた。
――私が……!
「――っ‼︎」
湧き上がった苛立ちから、机の上の物を薙ぎ払う。
「――っ殿下!血が‼︎」
割れたインク瓶の破片が手を切ったらしく、侍従が慌てた声を上げた。
「こんなもの、大した事はない」
エオリアの痛みに比べたらこの程度の怪我など……!
「……下がってくれ」
「――ですがっ」
「下がってくれ!」
「……扉の側に待機しております」
「……すまない」
侍従が部屋を出て一人になると、力が抜けたように膝から崩れ落ちた。
私はこの国の王の息子だ。王太子だ。
私が望めば大抵の物は手に入るし、人を従わせる事だって出来る。
それだけの権力を持っている。
なのに、愛する人を守る事さえ出来なかった……。
どこで間違えた?
何がいけなかった?
どうすれば彼女を……エオリアを死なせずに済んだ?
「――……っ」
どれだけ悔やんでもエオリアは還ってこない。
ルーズバイン侯爵達、エオリアの大切な者達にまで、愛する者を失う悲しみを与えてしまった。
「……すまない、エオリア……っ」




