ラパーム南区2
昨日は一月ということでお休みしました。
また毎日投稿頑張ります!
南区は慎二の想像よりも遥かに混沌としていた。
もちろん、極々普通の武器屋や飲食店もあった。
むしろそういった普通の店が店前にコウモリなどの死骸が吊るされている店や嗅いだことのない臭いを漂わせる店、驚くほどリアルな生首の人形を飾る店などに混じっているのが混沌としている理由だろう。
この世界の魔術は摩訶不思議なようでしっかりと理論がある。慎二がまだ知識不足で理解出来ないだけだ。そういう意味では科学に近い。
しかし、やはり魔術のある世界でもカルトというものはあるのだ。
そういったカルト的魔術を黒魔術という。
不明な点や倫理に反する部分はあっても実在することは確かな呪術に対して黒魔術は完全な夢想。
動物の素材や薬草を煮詰めて処女の血を加えると不老不死になれるとかそういった類いだ。
もちろんそれらは魔術的に否定されている。
それでも求める人は求めるのだろう。
それとこの地区にはもう1つ特徴がある。
スラムがあることからわかるように他の地区に比べて治安が悪い。
柄の悪い男が路地から通りを見ているのを何度か目にしていた。
しかし、そんな奴等も相手は選ぶのだろう。
慎二の脇を堂々と歩くフェンを見て、目を反らす。
(この感じ、懐かしいな)
幼い頃からしごかれていた慎二は中学に上がる頃には大人相手でも敵なしだった。
中学や高校にいるチンピラもどきにも同じように遠巻きに睨まれていたが、慎二がそれに気付くと目を反らされたものだ。
「このあたりなんだけど…あそこか」
そんな南区にあるだけあり、ルーベンス商会の周りは警備の人数も多い。
中堅どころの商会だが、南区ではダントツに裕福なのだから当然だろう。
商会の前には木剣を携えた男が2人。周囲にもあと二人ほどいるのが気配でわかる。
気配から判断して冒険者ならば金クラスといったところだろう。
とはいえ、気配と実際の強さには差があることもある。
オーガゾンビがまさにそれだった。オーガゾンビの時は運良く気配よりも弱かったから良かったが、それはつまり逆もあり得るということだ。
[気配探知]だけに頼りすぎてはいけない。それが慎二が先日の一件で学んだことだった。
「すみません、ルーベンス商会はこちらで間違いありませんか?」
「そうだが…なるほど、"狼星"さんか。店主に話は聞いている。どうぞ」
ラパームでも狼を連れているのは慎二一人だ。
フェンを連れていれば自己紹介の必要がない。
いちいちギルドカードを提示しなくていいので慎二としては嬉しいことだ。
相手からしても同じだろう。
「どうも」
ルーベンス商会は南区ではほとんど見かけなかった石造りの店舗だ。
内装もそれなりに凝っている。高級店ではないとはいえ、奴隷は高級品。宝石店やクルマ屋が綺麗なのと同じだ。
「いらっしゃいませ。シンジ様ですね。ようこそ当商会においでくださいました。店主が奥で待っております」
慎二をまず出迎えたのは10代前半と思われる少年。
恐らく丁稚と呼ばれる弟子だろう。
この世界で家を継がない者は10~15歳までに奉公に出る。
そうして主人に付いて仕事に必要な知識や技術を学んでいき、ゆくゆくは商会を支える人材になる。
平民はほとんどが日々の生活でいっぱいいっぱいなことを考えれば中堅でも商会の幹部になれるならば十分にエリートコースだろう。
実際少年は年齢の割に敬語もしっかりしている。同年代のテレサと比べればわかりやすい。
もちろん慎二は愛嬌のあるテレサも好きだが。
「ルーベンス様、御約束なさっていたシンジ様がお見えになりました」
「入ってもらいなさい」
部屋に入ると老齢の男性が待っていた。
50代後半といったところだろう。好々爺といった雰囲気にややゆったりとした深緑のローブが良く似合っている。
前世ではまだ働いていても全くおかしくない年齢だが、70に届けば長生きと言われる世界において未だ現役なのは驚くべきことだ。
「ようこそ、当商会へ。私が店主のヴァン・ルーベンスです。シンジ様のお噂はかねがね。相棒様もヴァレン殿に聞いた通り美しいですな」
ヴァレンから聞いた通り一代でルーベンス商会をラパームの中堅に押し上げただけあり、相手を持ち上げるのがうまい。
慎二がフェンを従魔と呼ばれることを嫌っているのも聞いていたのだろう。
そこを押さえながら、しっかりと誉めてきた。
「ありがとうございます。こちらこそ、ルーベンス商会の評判はよく耳にしてます」
正直慎二はそんなに聞いたことので脚色が入っているが、このくらいはマナーだろう。パルヘも話していたので完全に嘘というわけでもない。
それに定価のないこの世界では売る側、今回で言えばルーベンスに好印象を持ってもらったほうがいろいろと融通してもらえる可能性が上がる。
「今ラパーム一話題の御方にそう言って頂けると嬉しいですな。先日も何やら大きな事件を解決したとか」
それから30分ほどは世間話をして過ごした。
途中で丁稚が肉をフェンに持ってきてくれたのでフェンに急かされることもなかった。
ルーベンスが慎二を誉めながら暗に聞いてきたのはやはり先日の一件。
魔術師ギルドがなにやら必死に調べていることは商人にも伝わっているらしい。
電話もネットもない世界において当人に話を聞けるというのは商人にとってはこの上ない機会だろう。それは慎二もわかっている。
とはいえ、ヤドルから禁呪が関係しているかもしれないことは漏らさないよう言われているので、ルーベンスののらりくらりとかわした。
外見的には子供だが、慎二は前世では社会人だった。本気で駆け引きをすれば負けるのは間違いないが、こうした表面上のやりとりくらいかわすことは出来る。
「っと、もうこんなに経っていましたか。どうもいけませんな。若い頃は老人の話は長くていかんと思っていたのですが、いざ自分が歳を取ると若い方と話すのが楽しくてつい浮かれてしまいます。貴重な時間を使わせて申し訳ないですな」
これ以上は聞いても無駄だと思ったのだろう。
「率直にシンジ様はどのような奴隷をご希望ですか?」
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