兆し2
調査に出発する朝、慎二は食堂に降りる。
まだ夜も明けてないというのにアリサと旦那さんは朝食を準備してくれていた。
冒険者相手の仕事とはいえありがたいことだ。
「おはよう、シンジ兄さん」
「シンジ兄様、おはようございます」
「ふんっ」
おかしい。慎二は目を擦った。
確かにディバリー・ティバリー兄妹は誘った。
兄のディバリーが斥候だ。慎二とフェンには気配探知と鼻があるとはいえ、潜入調査が出来るかと言われると疑問符がつく。
妹のティバリーは魔弓士で目がいい上、[気配探知]も使える。
なにより彼らは二週間ほど前、カーム村でのゴブリン発見の報告が増え始める直前に小鬼の森に入っている。現在の森との違いに何か気付くかもしれないと思ったのだ。
しかし…何故かシンジに挨拶もしないあんぽんたんまでいる。
今日は休みだと言いふらしていたのでこの時間に起きているのはおかしい。というより、どう見てもフル装備だ。
「なんでノクシーがいるんだ?」
慎二はディバリーとティバリーを手招きして訊ねる。
「昨日兄さんに話を聞いた後そのことをティバリーと話していたのは知ってるけど…まさか着いてくるなんて知らなかったよ」
「シンジお兄様、ノクシーさんは私が誘いましたの。断りもせずにごめんなさい。でも誘ったほうがいいかと思いまして」
確かにノクシーの魔術は探知でも戦闘でも役に立つが…
「でも、昨日は今日は休みだって言いふらしてたじゃん。わざわざ連れ出したからあんな機嫌なんじゃないの?」
せっかく昨日髪飾りを渡して機嫌を取ったというのに。
これでは台無しだ。
「はぁ…シンジお兄様もなかなかですわね。これではノクシーさんのことを言えませんよ?」
「どういうこと?」
「それは自分で考えたほうがよろしいかと」
何か落ち度があったのだろうか?
髪飾りは店の女性店員に聞いたから流行りのもので間違いないはず。
もしかして縦巻ロールに髪飾りはおかしいということだろうか。
でも、それと依頼に着いてくるのは関係ないような…
いくら考えても答えはわからないと思い、慎二は思考を打ち切る。
「まぁいいや。とりあえず行こうか」
手早く朝食を済ませると宿を出る。
入り口前には馬車が止まっていた。
昨日のうちにヴァレンに頼んで手配したものだ。
ちょうどカーム村に向かう商人がいるということでそれに同行出来るようにしてもらったのだ。
慎二とフェンだけであれば走っていってもいいのだが、ディバリーとティバリーはそうはいかない。ましてノクシーは魔術師で騎獣もいないのだから言うまでもない。
頼んでおいて正解だった。
「はいよ、今日の分の弁当だ。キバッてきな」
「フェンちゃん、気を付けてね」
「……気を付けろ」
ひいらぎ亭一家に見送られて一行はラパームを出発した。
馬車は順調にカーム村に到着した。
馬車に乗るのを嫌ったフェンと目のいいティバリーが御者台に座ったため、散発的に魔物が見られたようだが馬車に近付く前に処理したためなんの問題もなかった。現に護衛代が浮いた商人はほくほく顔だ。
ただそれは馬車の外の話。中は大変であった。
慎二への恨み節から始まり、それを諌めようとしたディバリーに飛び火。
慎二が今度の休みに奢りでスイーツの店に連れていくということでなんとか火事は未然に防いだとだけ言っておこう。
慎二達は村に着くと村長宅に向かった。
宿泊場所の確保と近況の確認のためだ。
「……というわけで困ったもんです。幸いまだ若い衆と警備兵の方々が対応して、追っ払ってます。大きな怪我をしたものもいません。ですが、朝も夜も関係なくくるもんですからおちおち畑仕事も出来やしませんよ。領主軍に応援を要請しようにもちょっとゴブリンが多く出るくらいでは増兵は出来ないと言われてましてね」
村長にも疲れの色が見える。
「大変ですね。とりあえず、我々は明日から森に入って調べてみます。それで何かわかるかもしれません」
「お願いします」
ラパームが冒険者の街と言われるだけあり、ラパーム領はガンタルシア王国でも魔物被害の多い地域だ。必然領主軍も忙しい。
理由もわからず、単にゴブリンが少し多いだけでは対応は後回しになるというわけだ。
慎二達は借り受けた家に集まり、夕食を取りながら相談を始めた。
慎二はヘレンとナーシャの運んできてくれた料理を噛み締める。
これから3日間はまともな料理が食べれない可能性が高い。何故なら誰も料理が出来ないののだから干し肉と堅く焼いたパンで我慢するしかない。
ディバリーとティバリーはともかく、冒険者が長いノクシーは良くやってきたなと思ったが、彼女は日を跨ぐ依頼を受けるときは料理の出来る女性としか組まなかったらしい。
では何故今回はついてきたのか。謎は深まるばかりだ。
次回は15日0時更新予定です。




