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二人の勇者の物語  作者: paiちゃん
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084(R&M) 会談(1)


 トマス達がバドスの作った長弓の練習をしている。

 飛距離がクロスボウの2倍近いから、かなり嬉しそうだな。普段クワを振るっているだけあって腕の筋肉は俺以上にあるようだ。易々と100m以上に矢を飛ばしている。


「まさか5Cb(1.5m)もある弓を引くとは思いませんでしたな。それにあれほど矢が飛ぶとも思いませんでした」

「クロスボウの天敵だということは理解できたかい?」

「矢は真直ぐ飛ばないということですな。十分に理解しておりますが、命中させるのは難しいところであります」


 それはあまり期待してはいない。命中させるならクロスボウが一番だ。これは相手の頭上から矢を落とすことに意味がある。

 20人近くの増えた農民兵達が一斉に矢を放てば1本ぐらいは当たるだろう。当たらずともその場から動くことはできなくなる。

 遮蔽物に隠れたクロスボウ兵を倒すのはこれが一番だ。矢の数が増えるのは致し方ないが、事前にたっぷりと準備すれば済む話だからね。

 

 そんな農民兵に触発されたわけでは無かろうが、ラジアンの部隊の元弓兵達が同じように長弓の練習を始めたようだ。

 敵に降らせる矢の数が増すのであればさらに効果が期待できるだろう。


 今年のブドウの豊作を見て笑顔で砦に戻った時だ。

 広間にいた連中が一斉に俺に顔を向ける。


「巡視が終わったようだな。こんな物が届いたんだが……」

 今朝の引潮時に北の玄関に届けられた書状らしい。返事は次の引潮時に取りに来ると伝えて引き揚げたらしいが、いったい何の話だ?


 焚き火の傍にあるベンチに腰を下ろしたところで書状の封を切って中身を読みだした。

『会見を望む。場所と条件はそちら次第……。署名、トルガナン国王、マルデウス』

 書かれていた内容が面白かったから、大声で読んであげた。


「何度と! 今頃何のためだ」

「降伏せよ、との事じゃろうな。だが、条件を事らに任せるとは、思い切った決断じゃな」


「受けても良さそうだな。場所は道の途中にある広場で良いだろう。互いに従者を2人であれば、その場で斬り合うことも無かろう」

「俺とハリウスで良いな。ワインの1ビンも用意するか。あの時の礼がまだだった」


 ケーニッヒがハリウスに顔を向けて話をすると、ハリウスも了承したと頷いている。

 とはいえ、毒杯というわけにもいかんだろう。ワインを1ビン持参すれば事足りるな。

 

 了承した旨の書状をしたためて夜半の引潮時にやって来た使者に託す。

 さて、互いに3人の話し合いを向こうは飲むかな? 精々2時間にも満たぬ会談だ。それでも何もしないでマルデウスの来襲を待つよりは良いだろう。

 場合によっては、交戦を避けることができる可能性もあるからな。


「だが、交渉ともなれば我等の武器を知られる可能性もあるぞ!」

「既に作っているだろう? とはいえ、性能が悪いようだな。その原因も分かるつもりだがそれは教えないでおこう。でないと、万が一の時に自分達の首を絞めかねない」


 しかし、あれから数年以上の時が流れている今になって、俺と会談したいというのが今一つ気になるところだ。

 ブルゴス王国を手に入れて、たぶん今頃は西のオランブル王国に食指を伸ばしかけている筈なんだが……。

                 ・

                 ・

                 ・

 書状を交換して10日目のことだ。

 改めて、マルデウスより返書が届けられた。内容は俺の条件をすべて飲んでいるのは、自分達の力を示したいところもあるんだろうな。

 俺達の武器の射程内であることは、十分に知っているだろう。

 書状には、次の満月の翌日の干潮時とある。潮見によれば午後を少し過ぎたあたりになりそうだ。

 小さなベンチを担いでいくか……。


 今日は満月と言う日になって、対岸が兵士で埋め尽くされていると報告が入って来た。大勢の兵士を従えて来たということは、俺達に威信を示したかったのだろうが、あの規模の大軍は2度も見ているからな。

 打合せ通りに仲間を配置に着けて俺達も万全の体制を取って次の朝を迎えることにした。

 

 翌日。昼過ぎに干潮が始まる。

 海の道が出来たところで、ケーニッヒとハリウスがベンチを担ぎ、俺はワインのビンと真鍮のカップを数個カゴに入れて背負い、海の道の途中にある広場へと向かう。

 向こうから3騎の馬がやって来たが、距離が向うの方が長いからな。それに俺達の馬は農耕馬だからね。軍馬と比べると少し見劣りがしてしまう。


 広場に到着したところで、ベンチを南北に置いてマルデウスの到着を待つ。

 マルデウス達は広場の欄干に馬の手綱を結び付けると、広場の中央に歩いてきた。


「アラル島の当主であるリオン男爵だ」

「大トルガナン王国国王のマルデウスである。会談の了承を先ずは感謝したい」

「それは俺達も同じこと。先ずは座ってワインといこう」


 俺はマルデウスを自分達の国王とは見ていないし、マルデウスも俺達を自国民とは見ていない。ここは対等な立場で話し合えば良いだろう。


 粗末なベンチに俺とマルデウスが腰を下ろしたところで、俺達の随行者がその後ろに立った。

 互いに武装しているから、この場でマルデウスを殺めることもできるだろうが、その後を考えるとそれも出来ないだろうな。群雄割拠の泥沼が待っていそうだ。

 マルデウス達が俺を殺めることも出来ないだろう。

 長剣を背負ってはいるが、3人とも2連装の短銃を持っている。この距離で外すことはまずありえない。長剣を抜いた途端に銃を撃てと2人には事前に話しておいた。


「とりあえず互いの命を心配する必要はなさそうだ。ワインを持参したぞ。先ずは飲んでくれ」

 背負っていカゴを伏せると、その上に板を乗せて簡単なテーブルを作る。真鍮のカップを並べてワインを注いだ。

 適当にワインのカップを手に取って一口飲み干す。

 毒ではないが、王宮では毒杯を受けたからな。向こうも気にしているだろう。

 俺の顔色を見ながら、随行人がワインカップに手を伸ばす。時間を空けて1人ずつ飲んでいるのも毒入りを気にしているのだろう。ケーニッヒ達がワインを飲む音が背後から聞こえて来た。

 最後に、マルデウスがカップを取り、ワインを飲む。

 頷いているのは、極上のワインだからだろう。もっと質が劣ると思っていたのかな?


「俺達も王国を広げている最中だ。あまり時間は取れないのだが、リオン達も似たところがあるのだろう。お前なら王国をどうやって治めるつもりだ?」

 

 ストレートに聞いてきたな。と言うことは自分達の治政に迷いが出たか、はたまた体制作りに悩んでいるかだろう。

 王国を大きくすることは容易だが、それを維持することが難しいことに気が付いたのかもしれない。

 政治を理想化することは不可能なんじゃないか? 前にいた俺の時代でさえも進んだ政治体制と言われていた国であってもいろんな問題を抱えていたぐらいだからな。

 マルデウスは俺が考えるよりも純粋な心の持ち主なのかもしれない。

 色々と残忍な事もしているが、それは彼の理想を追求するための手段だったに違いない。とはいえ、殺された方にとっては迷惑以外の何物でもないけどね。


「その質問に答えるのは難しいな。王女救出の勇者に名乗りを上げて帰還した時に俺とお前とでは少し考えが違っていた。俺は簡単な方法を選んだし、お前はあえて困難な道を選んだ。確か言ったはずだぞ。『善政を期待する』とな」

「過去の遺物を粛清した後は民衆を大事にしているよ。リオンの言う『善政』とはそういうことだろう?」


 確かにそうだが、それには隣国への侵攻は入っていないぞ。

 マルデウスの考える治政は、覇道と善政の両立なのか? それでは終わりが見えてこないな。


「マルデウスのことだ。たぶんオランブル王国も視野に入ってるんだろう? 義妹王女を嫁がせて王国を滅ぼすのか?」

「かつてはそれも考えた。だが、今では少し違っているな。オランブル王国は貴族達の権力争いの場になっている。俺が干渉せずとも20年は持たないだろう。さらに西のトーレス王国が食指を伸ばしている状態だ」


 マルデウスが飲み終えたワインカップに新たなワインを注ぎ、ついでに自分のカップにも注いでおく。


「終わりのない戦程、つまらんものはないぞ。歴史で習ったんじゃないか? イスカンダル、アッチラ、チンギスハーン……。それにナポレオンもだ」

「まて、フランス帝国の拡大は頓挫したのか!」


 俺の言葉に大きく目を見開いて、俺に顔を向けた。

 マルデウスはナポレオン時代の男だったということか。しかも連戦連勝となると、ナポレオンの偉業をこの世界で……、ということにもなるんだろうな。

 フランス革命は貴族を放逐したし、ギロチンが登場した場でもある。少し分かってきたけど、あの時代は政治が混乱してたんじゃなかったかな。


「おおよそ、マルデウスの前の世界が見えたよ。ナポレオン軍の士官学校というところだろう?」

「そうだ。大将軍を覇道の仲間に入れるということは、リオンは後の時代と言うことになるが……」

「200年以上後の時代だ。俺にとってのナポレオンは歴史上の人物に過ぎない。その彼の偉業は俺も認めるさ。だが、内政能力は全くない。俺が評価できるのはチンギスハーンだな。彼はそれが出来たが、後継に恵まれなかったし、何より帝国を大きくし過ぎた。ローマ帝国もおもしろい治政をしていたな。ローマ帝国は市民を大事にしていたようだ。市民権があれば最低限の生活保障がなされていたらしい」


「ローマと言えば貴族政治のはしりだ。それを少なくとも打破することが俺の治政の根本でもある」

「貴族政治は必ずしも悪くはない。貴族として本来の役目を果たしていればね。それがいつの間にか自分達の権益だと錯覚するから始末に負えなくなってくるんだ。それに親が優秀でも子供が優秀とは限らないだろう」


「1代限りの貴族制というのもおもしろそうだな」

「チンギスハーンの治政がそれに近い。優秀な人材であれば、征服した敵国民であっても重要な地位に付けたそうだ。だが、兄弟や子供が多かったからなぁ。チンギスハーンが死んだら、直ぐにいくつかの王国に分かれたようだ」


「後継も考える必要があるということか。だが、優秀な人材を登用する考えは悪くはないな。今は人材不足で困っている。どうだ、俺達に加わらないか?」


 やはり、勧誘に来たようだな。

 マルデウスの後ろの2人が俺に顔を向けて来た。返答いかんではというところだろう。


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