085(R&M) 会談(2)
ゆっくりとワインを一口飲んだ。
マルデウスはジッと俺を見据えているから、返事を待っているんだろうな。
「マルデウスの軍門に下ることは俺の矜持が許さない。たとえ後ろの島を蹂躙されようともな。だが、軍事以外の協力については惜しむこともあるまい。俺は辺境領主としての立場を貫くつもりだ」
「勝てると思っているのか?」
「負けるだろうな。だが、マルデウスの方もただではすむまい。群雄割拠の土地になるぞ。東のラーメル、西のトーレスの切り取り放題になる可能性すらある」
「脅しか?」
にこりと笑みを浮かべてマルデウスが問いかけて来た。
「脅しだ」
同じように笑みを浮かべてマルデウスに答える。
「俺達も火薬を作れるようになった。流星火の数はリオン達の10倍以上だろう。大砲の数でさえ我等が勝っている。それでも我等が勝利はするが再び覇を唱えることができぬということか?」
「性能の差を数で補う考えでいる以上、多大な犠牲者をだすことになる。当然、銃も作ったんだろうが、2発目を撃つまでにどれだけ時間を掛けるんだ? その2発目はちゃんと発射できるのか? まして数発毎に銃構内を掃除するなどしていて俺達を簡単に倒せると思っていたのか!」
「200年の技術の差が大きいということだな?」
「単純に言うとそうなる。俺は士官でもないし、俺の世界の技術をこの世界で再現するにも、この世界の工作技術にどれだけ泣かされたか……。だが、単純なものは何とか作る上げた」
「それだけ文化の違いがあっても、勝利はできぬということか?」
「無理だ。人数比が違い過ぎる。だから俺はこの島を離れない。離れる時は人数比が無視できたと思えば良い」
「オランブルの次はこの島をと考えていたんだが……」
「後ろの副官はがっかりしてるぞ。さぞや俺達を恨んでいるようだが、流れ矢にでも当たったか?」
俺の言葉に、マルデウスの後ろにいた女性が、端正な顔の半分ほどを隠していた金髪をかき上げた。酷いケロイドが顔の三分の一ほどを覆っている。
あれほどの火傷となれば、ロケット弾の爆発に巻き込まれたに違いない。
陸地で死兵の戦いを見ていたんだろう。当然の報いだ。逆恨みは見当違いだと思うが、顔に治らぬ傷を受けた原因を俺に転化している感じだ。
「火傷か……。女性の顔に火傷となると恨まれることになるのか? 自分達の行為が正しいと考えるから相手を恨むのだろう。俺達を毒殺しようとしたことを棚に上げてか?」
「あれは、ハイレーネン公爵の指示の下だ。当時の俺達には逆らうことができなかった」
首を振りながらマルデウスが弁明しているが、俺はそうは見ていない。
「逆らえなかったのではなく、利用したんだろう?」
それが悪いことだとは思わないが、少し遣り過ぎた。秘密を保持するためにハイレーネン伯爵を処刑したのは、理解できるが、全ての貴族を処刑することは無かったはずだ。
「『善政を期待する』と言ってたな?」
「今でも期待しているよ。政治は難しいと俺は承知している。だから自分で王国を起こそうなんて大それた考えは持たない。だが、自分の手を血で汚す覚悟があれば、マルデウスに期待する外ないだろう?」
「なら、教えてくれ。3つの王国を版図にした時、治政をどのように行うか。色々と考えてはみたが、結論が出ん」
「俺にも分からん。俺の時代も政治には問題が色々とあるようだ。だが、1つ言っておくと、俺の時代には王政を取っている国は少ないんだ。1割にも満たないんじゃないかな」
俺の言葉にマルデウス達が驚いている。後ろの2人も驚いてるんじゃないかな。
国王を頂点とした国家体制がこの世界の王国だからね。
「馬鹿な! それでは誰が政治を行っているんだ?」
「平民だよ。正確に言えば平民の代表者になる。これもいろいろと問題はあるんだが、まぁ、国王を頂点とするよりは少しはマシになるかな?」
「議会……、ということか?」
ナポレオン時代のフランスからやって来たマルデウスには、議会に付いてある程度の知識があるんだろう。
頷くことで肯定しておく。
「議会だけでは国は動かん。議会が決めたことを元に治政を行う部署と、それを支える部署。さらには、議会の決めたことがきちんと守られることが確認できる部署が必要だろう。……ここで、問題だ。王国軍の指揮権はどうする?」
「国王とその副官達が治政を行えば良いだろう。となれば王国軍は国王に指揮権があることになる」
「それは名目か、それとも現実か? 万が一にも王国軍が敗退したら国王に責任が向かうぞ」
悩み始めたな。
答えは簡単ではない。国王から治政の権益を他に委ねて、名目化することはまだ考えることができないだろうな。
マルデウスのいた時代は王国が乱立していた時代だからね。
「やはり、来て良かったと思う。だが、王国内に男爵領を持つことは俺達の政策に反することだ」
「戦は止むを得ぬか……。だが、判断時を間違えるな。それが出来るなら攻めて来い」
だいぶ時が経っていたようだ。いつしか上げ潮になっている。
マルデウスと握手をして彼らが馬で陸地に急ぐのを見送って、俺達も荷物を持って北の玄関に急ぐ。
門を潜った時には、先ほど会談していた広場はすでに海の中だ。
マルデウスと次に会うのは戦の中ということになるんだろうな。
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館の広間に集まって、皆にこれからの見通しを説明する。
マルデウス達がこの島を攻略するのはオランブル王国の戦に決着が着いてからになる。少なくとも来年以降ということになるだろう。政治形態がまったく異なる王国を纏めるんだから、その対応でさらに伸びるかもしれないな。それでも2年は必要ないはずだ。
「今すぐではないんじゃな? なら、たっぷりとカートリッジを作れるぞ」
「食料備蓄も何とかなりそうですね。2つの砦も石垣を高くできます」
「まぁ、それもそうだが、2年後に戦える人数が問題だ。今度は間違いなく北と南からやって来る」
「私達の里から少しは呼べるかもよ」
キャミーの言葉にロディが頷いている。
「呼んで来い。ついでにロディは嫁さんを連れてくるんだぞ!」
ケーニッヒの言葉に皆が一斉に笑い声を上げたから、ロディが顔を赤くしている。まぁ、そうなれば皆で歓迎してあげたいところだ。
「ブルゴス王国にも隠れた兵士がいると思うのですが……」
ラジアンの言葉に俺達も頷きはしたが、それを見つけるはかなり難しいことだろう。
「村人に紛れたら早々見つかるものではないぞ。当てでもあるのか?」
「隠れ里の話を聞いたことがあります。政争に敗れた者達が住んでいるそうです」
どんな王国にでもそんな里があるんだな。要するにかつての落人部落と言うことになる。
だが、そんな部落であれば、現在の王国に喜んで参加するんじゃないか?
「政争に敗れても、代々の国王は援助をしてきました。その里に向かったものは再び王都に戻ることはないとの暗黙の了解がありましたから」
隠れ里に付いてパンドラ王女が補足してくれた。おもしろい仕組みだな。出家みたいだと思えば良いのかもしれない。
「ならば、現政権に対して反意を持つ者もおるでしょう。ここは意向を確認してみてはどうでしょうか?」
「問題は、誰を行かせるかだ。ブルゴス王国はすでにトルガナン王国の版図だ。反乱を危惧してかなり人物改めが厳しいはずだぞ」
結局、書状を書いて商人に持たせることになった。
ブルゴス王国脱出は船を使うことになる。あらかじめ商船に元近衛兵を乗せて置き、乗船時に再度身元を改めることにする。
工作員でも紛れていたら、元も子もないからな。
「それで、目標は?」
「1個小隊規模の増員ができれば十分だろう。北はともかく、南の砦は激戦になる。ラジアンの部隊だけでは防ぎきれまい」
砦の左右に2個分隊ずつ展開すればかなり状況が変わってくる。ハリウス達の部隊を予備兵力として投入することも可能だ。
「そうなりますと、食料の自給がかなり厳しくなりますが……」
「我慢する外に手はなさそうだ。開墾をさらに進めて、イモを植えるしかなさそうだな」
イモや豆で飢えを防ぐ事にもなりかねない。穀物倉庫も作らなくてはならないだろう。西の岬に向かっての開墾が一気に進みそうだぞ。
「燃料の石炭や焚き木も必要だ。船なら一気に運べるじゃろう。その辺りも考えた方が良いぞ」
「了解だ。村に家も作らねばならん。ログハウスを10軒に長屋を3軒で良いだろう。それに、畑の石垣近くに柵を作ってくれ。それだけで攻めるのがかなり面倒になるはずだ」
「村の南にも柵を作ります。それと盾は農民兵の分だけでだいじょうぶですか?」
北と南の砦にも10個ずつ届けてほしい。マルデウス達も銃を作ったようだ。銃撃されれば防ぎようがないが、矢とボルトは盾で十分だ」
銃弾を防ぐとなると、トーチカを作ることになりそうだ。通りの畑の一角に作っても良さそうだな。簡易な砦として機能するかもしれない。それと、小型の大砲の射点もトーチカ構造を取れるんじゃないかな。南の砦の守備兵が多くなればさらに小型の大砲を作ることも必要だろう。




