第十一話
ここは冷たい。ここには人が少なすぎる。もっと多くの人がいる場所でないと人は生きていけないのではないか。ここのような場所で心を保つには濃い関係が必要だ。自分の心を壊さないために楓に告白することは人として正しいことなのだろうか。自分のために相手を利用しようとしているように思える。楓を利用したくない。大好きだから、大切にしたい。
「カメラはどこだ」
天井を見る。視線がそこにあるとわかるのであれば、それでもいい。とにかく人の気配が欲しい。萩原が僕たちの部屋に住むようになって、話すことが増えた。月島と鹿島とも会話が増えた。冬野たちがいなくなった分、その代わりを求めているのだ。だけど僕はそれでは満足できない。こんな狭い世界では安心できない。
僕は真っ白な廊下の端から端まで何度も行ったり来たりする。散歩すると言って出てきてからどのくらい経っただろうか。どこにもカメラは見当たらない。教室に行っても食堂に行っても、あしながおじさんの視線は見つからなかった。
冬野たちはどうやってこの地獄から抜け出したのだろう。そうだ、ここは牢獄だ。箱庭ではない。脱出したい。こんな空っぽに近い場所で死ぬのは嫌だ。いつまでも変わらずに生きていけるならいい。だけど僕たちはいつか死ぬ。一人いなくなる毎にここは何も無い場所に近付いていくのだ。誰もいない教室。僕の人生はこれに近いのだろう。誰の心にも届かないで死んでいくのは嫌だ。
「ねえ、どうやって冬野たちは外に出たのかな」
楓に聞いてみる。ただの雑談と思っているのか、楓は読書をしたまま顔を上げずに応じる。
「どうしたの唐突に」
「脱出しないと。ここにいたらまずい」
僕が必死なのが伝わったのか、楓はこっちを見た。そして首を傾げる。
「どうして?」
「だって」
言葉に詰まる。具体的にどうまずいのか、説明できない。
「だって、ここ、人がいない」
そもそも何が怖いのか。考えて、結構な空白の後にようやくそう言えた。
「まだいるよ。ちゃんと残ってる」
「そうじゃない。元から足りないんだよ。人らしく生きていくためには、もっと多くの人がいる場所で生きていかないと」
楓はむっとした。僕の言う通りにはしたくない、と思っているのがよく伝わってきた。
「ここを脱出しようと試みたらどうなるか、祐介はわかっているはずだよ」
「そうだけど、でもここでこのまま死ぬよりかはいいと思ったんだ」
楓は床を見つめた。膝の辺りで彼女の人差し指が文字を書くように動いている。やがて指が止まって、彼女の顔も再びこちらに向いた。
「人らしく生きていけなくてもいいって私は思う。でも祐介にはいなくなってほしくない。大切だから」
長考の末の殺し文句だった。もし彼女が僕の好意をわかっていてその言葉を選んだのなら、卑怯だ。「わかった。楓が言うなら」と言いそうになるのを抑えて「ずるい」と言った。
「そんなこと言われたら、僕は止まるしかないじゃないか」
楓は何も言わず、ずっと僕を見ていた。彼女の無色の表情、眉だけ困惑していた。




