第一話 錠菓(じょうか)
白いシーツの上で目を覚ました私は、身体を起こし、あたりを見回した。
白を基調とした、薄い青がアクセントのモダンクラシックの部屋。
――知らない部屋。
「目が覚めましたか」
部屋に、男が入ってきた。
ダークブラウンの、無造作なオールバック。
腕まくりされた白いシャツ、ダークネイビーのズボン。
「……だれ?」
男はひどく優しく微笑む。
「あなたの保護者、のようなものでしょうか」
「のようなもの」
首を傾げる私に構わず、男が口を開く。
「今日は、何をしますか?」
しばし考える。
いつも――何をしていたんだっけ。
目覚めるまでの記憶が、曖昧だ。
分厚いカーテンの向こう側にあるような。
そこへ手を伸ばそうとした時。
「紅茶、飲みますか?」
男の声に、意識が引き戻された。
いつの間にか、デスクに2人分の紅茶が湯気をたてている。
「甘くしますか? いつものように」
男の質問に、私は少しの後、頷いた。
向かい合って、紅茶を飲む。
熱すぎず、冷めすぎていない――私の好きな温度。
ちら、と男を見る。
誰か分からない。
でも知っている気がする。
袖口のカフスが、男の動きにあわせ、時々光る。
「……トランプ」
なぜか、突然思い浮かんだ言葉。
男が一瞬、動きを止めた。
そして、困ったように笑う。
「……まだ、思い出すには早いですよ」
男は立ち上がり、壁際のキャビネットの引き出しを開けた。
小さな透明の小瓶から、中身を取り出し――私へと差し出す。
「どうぞ」
白い、丸い錠剤。
薬ならばあるべき表記のない、真っ白な。
見つめるだけで手に取らない私の手を、男が取る。
私の手に、錠剤が転がった。
飲みたくない、と顔に出ていただろうか。
男がくす、と笑った。
「お好きでしょう、甘いもの。……大丈夫ですよ」
匂いを嗅いだ。
甘い。
知っている気がする。
男と錠剤を見比べて。
一粒、口に運ぶ。
口の中に、甘味がひろがった。
錠剤は、口の中ですぐに崩れた。
この香りは。
「……ラムネ?」
「はい」
「……紛らわしい……」
ちょっと睨むと、男は悪びれず「すみません」と笑った。
男が紅茶の容器を下げに、部屋を出た。
私はキャビネットの引き出しを開けた。
左上をホチキスで止められたコピー用紙が4つ。
『最初から、もう一度』
『石を、お投げくださいませ』
『ねぇ、見てくれる?』
『今日は、必要ありません』
男の足音が聞こえて、引き出しを閉めた。
ベッドの上に、戻る。
4つの物語。
作者の名前は滲んでいた。
かろうじて読み取れたのは「青木」という2文字だった。




