↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【連作短編】レーテーのほとりで、虚構とワルツを。―亡霊は白に花を描く―  作者: 蒼樹ろーさ
今日は、必要ありません ~神様のチートアプリより、あなたと選ぶ今日がいい~
PR
21/27

最終話 今日は、必要ありません

アプリに追加された新機能。

セーブとロード。

気づけば、使うことが当たり前になっていました。


リオンさんがケガをした時。

私が判断を誤った時。

上手くいかなかった時。


巻き戻せばいい。

やり直せばいい。

それだけのことです。


少し高いレベルのクエストだって、こなせます。

アプリの推奨行動を確認しながら。


完璧です。

誰も傷つかない。


リオンさんも。

私も。


⊹‧┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈‧⊹


ある日の帰り道。


夕日が、長い影を作っています。

いつも通りの道。

いつも通りの景色。


「……なあ、レイナ」

「はい、リオンさん」

「最近、変な夢を見るんだ」


遠くを見るリオンさんを見上げます。


「夢、ですか?」

「ああ。死ぬ夢。……何度も」


私の、歩みが止まりました。

心臓が、冷たい。


「森の中で、魔物に。あるいは、落石で。毎回、違う死に方をする」


リオンさんは、空を見上げました。


「似た状況が起こるから、最初は予知夢かと思っていた。でも、違うんだよな」


リオンさんが、私を見ました。


「レイナ。俺は…何回死んだ?」


静かな目。

事実を確認するように。


「リオン、さん」

「お前さ、言葉の先回りがたまにあるんだ。初めてのはずの場所を、知っているように動いたり。それで、気づいた」


私は震える指を胸の前で組み合わせました。


「最近、何か、なくなっている気がするんだ。……大切な、何かが」


ロードのたびに。

リオンさんが、少しずつ。

傷ついていたなんて。


「……ごめんなさい」


声が、掠れました。


「ごめんなさい、ごめんなさい…っ」


泣きながら謝る私を、リオンさんはそっと腕の中に抱きしめました。


「怒ってない。俺を守ってくれたんだろ? ありがとう、レイナ」

「でも、わたし、リオンさんを何度も…!」


死ぬ夢を何度も見る。

そんな地獄に、あなたをひとりにしていたなんて。


リオンさんは、私の前に屈みました。

視線を、合わせてきます。


「大丈夫。まだ、残ってる。だから、一緒に選択させてくれ」


リオンさんが、私の手をとりました。


「レイナとは、この先もずっと…一緒にやっていきたいんだ」

「ずっと、いっしょ……」


真剣な顔。

リオンさんの手が、少し震えていることに気づいて。


急に、体温が上がるような感覚。

きっと、夕日の中でも、私の顔は真っ赤です。


わたしは、なんとか声を、絞り出しました。


「わたしも、同じ、気持ちです」


わたしたちは、手をつないだまま、微笑み合いました。

⊹‧┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈‧⊹


それから。

二人で、無理のないクエストを選ぶようになりました。


以前より、報酬は少ないです。

以前より、効率は悪いです。


でも。


「次はどれにするか」

「これが良いと思います」

「理由は?」

「リオンさんの剣が得意な地形ですし、私の魔法との相性も」

「なるほど。じゃあ、これにしよう」


選ぶのは、アプリではなく。

わたしたち、二人です。


⊹‧┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈‧⊹


ある日の戦闘終わり。

二人とも、傷だらけでした。


リオンさんの肩に、裂傷。

私の腕に、打ち身。


でも。


「使っていないな?」


リオンさんが、聞きました。


アプリのこと。

セーブ&ロードのこと。


「…はい」


私は、頷きました。

リオンさんは、少し目を細めました。


「まちがえた時には、連帯責任ですよ」

「望むところだ」


傷だらけで、微笑み合いました。


⊹‧┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈‧⊹


夜、宿の部屋。

私は、ベッドに腰かけて、アプリを開きました。


画面に、表示されています。


『セーブ・ロード可能』



今日の戦闘を思い出します。

リオンさんの肩の傷。

私の腕の痛み。


やり直せば。

傷ひとつなく、完璧な一日にできる。

でも。


「……今日は、必要ありません」


私は、画面を閉じました。

窓の外、星がきれいです。


今日は、リオンさんと一緒に選択しました。

少し間違えました。

傷つきました。


でも。

全部、覚えています。


リオンさんの声。

差し出された手。

傷だらけで笑った顔。


アプリの記録じゃなくて。

私の記憶として。


「明日も、一緒に選びます」


私は、ベッドに横になりました。

目を閉じます。


毎日を、大切に生きていく。

リオンさんとの記憶を、何度も思い出しながら。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。