最終話 今日は、必要ありません
アプリに追加された新機能。
セーブとロード。
気づけば、使うことが当たり前になっていました。
リオンさんがケガをした時。
私が判断を誤った時。
上手くいかなかった時。
巻き戻せばいい。
やり直せばいい。
それだけのことです。
少し高いレベルのクエストだって、こなせます。
アプリの推奨行動を確認しながら。
完璧です。
誰も傷つかない。
リオンさんも。
私も。
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ある日の帰り道。
夕日が、長い影を作っています。
いつも通りの道。
いつも通りの景色。
「……なあ、レイナ」
「はい、リオンさん」
「最近、変な夢を見るんだ」
遠くを見るリオンさんを見上げます。
「夢、ですか?」
「ああ。死ぬ夢。……何度も」
私の、歩みが止まりました。
心臓が、冷たい。
「森の中で、魔物に。あるいは、落石で。毎回、違う死に方をする」
リオンさんは、空を見上げました。
「似た状況が起こるから、最初は予知夢かと思っていた。でも、違うんだよな」
リオンさんが、私を見ました。
「レイナ。俺は…何回死んだ?」
静かな目。
事実を確認するように。
「リオン、さん」
「お前さ、言葉の先回りがたまにあるんだ。初めてのはずの場所を、知っているように動いたり。それで、気づいた」
私は震える指を胸の前で組み合わせました。
「最近、何か、なくなっている気がするんだ。……大切な、何かが」
ロードのたびに。
リオンさんが、少しずつ。
傷ついていたなんて。
「……ごめんなさい」
声が、掠れました。
「ごめんなさい、ごめんなさい…っ」
泣きながら謝る私を、リオンさんはそっと腕の中に抱きしめました。
「怒ってない。俺を守ってくれたんだろ? ありがとう、レイナ」
「でも、わたし、リオンさんを何度も…!」
死ぬ夢を何度も見る。
そんな地獄に、あなたをひとりにしていたなんて。
リオンさんは、私の前に屈みました。
視線を、合わせてきます。
「大丈夫。まだ、残ってる。だから、一緒に選択させてくれ」
リオンさんが、私の手をとりました。
「レイナとは、この先もずっと…一緒にやっていきたいんだ」
「ずっと、いっしょ……」
真剣な顔。
リオンさんの手が、少し震えていることに気づいて。
急に、体温が上がるような感覚。
きっと、夕日の中でも、私の顔は真っ赤です。
わたしは、なんとか声を、絞り出しました。
「わたしも、同じ、気持ちです」
わたしたちは、手をつないだまま、微笑み合いました。
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それから。
二人で、無理のないクエストを選ぶようになりました。
以前より、報酬は少ないです。
以前より、効率は悪いです。
でも。
「次はどれにするか」
「これが良いと思います」
「理由は?」
「リオンさんの剣が得意な地形ですし、私の魔法との相性も」
「なるほど。じゃあ、これにしよう」
選ぶのは、アプリではなく。
わたしたち、二人です。
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ある日の戦闘終わり。
二人とも、傷だらけでした。
リオンさんの肩に、裂傷。
私の腕に、打ち身。
でも。
「使っていないな?」
リオンさんが、聞きました。
アプリのこと。
セーブ&ロードのこと。
「…はい」
私は、頷きました。
リオンさんは、少し目を細めました。
「まちがえた時には、連帯責任ですよ」
「望むところだ」
傷だらけで、微笑み合いました。
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夜、宿の部屋。
私は、ベッドに腰かけて、アプリを開きました。
画面に、表示されています。
『セーブ・ロード可能』
今日の戦闘を思い出します。
リオンさんの肩の傷。
私の腕の痛み。
やり直せば。
傷ひとつなく、完璧な一日にできる。
でも。
「……今日は、必要ありません」
私は、画面を閉じました。
窓の外、星がきれいです。
今日は、リオンさんと一緒に選択しました。
少し間違えました。
傷つきました。
でも。
全部、覚えています。
リオンさんの声。
差し出された手。
傷だらけで笑った顔。
アプリの記録じゃなくて。
私の記憶として。
「明日も、一緒に選びます」
私は、ベッドに横になりました。
目を閉じます。
毎日を、大切に生きていく。
リオンさんとの記憶を、何度も思い出しながら。




