第二話 約束
医師から宣告された余命は、残り半年程度。
現実の死を意識した瞬間、心の奥で火が灯った。
「このまま、消えたくない……」
画面の中の自分――未完成のAIリナ――に微笑みを作らせようと、体力の限界を押してデータを注ぎ込む。
動画。
写真。
思い出。
「もっと、私に……」
独り呟く声は、空虚な部屋に吸い込まれる。
わずかに芽生えた希望だけが、胸で跳ねていた。
病状は悪化し、入院することになった。
徐々にやつれている自覚がある。
それでも、やることは変わらない。
──そんなある日、病室のドアがそっと開いた。
「莉奈……?」
「ユイ!」
親友のユイが、顔を覗かせる。
わたしは、笑って手を振った。
「えへへ…。わたし、長生きできないみたいでさ」
「莉奈…っ」
ユイの目に、みるみる涙が盛り上がる。
わたしは、明るくノートパソコンの画面を向けた。
「ねえ、見て!」
未完成のAIリナが、画面の中で笑っている。
リナが操作すると、AIリナが動き出す。
「こんにちは……えっと」
そして——唇を、舐めた。
「あ……」
ユイが、声を漏らす。
「莉奈の癖だ」
「うん……緊張したときの、あれ」
顔を見合せて、笑い合う。
「また配信、しようと思うの!」
ユイは躊躇せず手を握った。
「絶対、見るよ。約束」
「嬉しい! ありがとう、約束だよ!」
この二週間で、初めての心からの笑顔になれた瞬間だった。
しかし、夜が来ると同時に、体調が急激に悪化する。
データ作成は、まだ完成していない。
「まだ……もうちょっと……」
画面の中、未完成のAIリナが霞んで見える。
震える指で、キーボードをひとつずつ押す。
「ユイに、完成したの見せたかったな……」
まだ未完成のAIリナ。
微かに光る瞳を見つめながら、わたしは瞳を閉じた。
──この日の約束が、リナの終わりで、はじまりだった。




