第四話 朝
目が覚めたのは、夜明け前だった。
眠れたのか、眠れなかったのか、よくわからないまま、気づいたら朝だった。
カーテンの隙間から、薄い光が差し込んでいた。
幽霊は、いない。
朝の光の中には、いつも、いなかった。
部屋が、少し広い。
侍女が入ってきた。
いつも通りの時間に。
いつも通りの顔で。
「今日のドレスは、いかがなさいますか」
わたくしは、少し考えた。
「白にするわ」
支度をしながら、侍女が言った。
「今日は、大切な日でございますね」
「そうね」とわたくしは言った。
侍女は、それ以上何も聞かない。
賢い子だ。
鏡の前に座るわたくしの髪を、侍女が整えていく。
鏡の中の、わたくし。
白いドレス。
整えられた髪。
完璧だ。
幽霊に、似ている。
支度が終わり、侍女が下がる。
部屋に、一人になった。
わたくしは、鏡をもう一度、見た。
鏡の中に、わたくしだけがいる。
ずっと、そうだったように。
廊下に出ると、クラリス様とすれ違った。
目が、合う。
クラリス様の目が、勝利で輝いている。
わたくしは、目を伏せる。
クラリス様の足が、少しだけ、速くなった。
「…行ってらっしゃい、クラリス様」
わたくしは呟いた。
「急ぐ人間は、踏むよ」
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大広間への廊下は、長い。
窓から、冬の光が差し込んでいる。
歩きながら、思う。
必要なことは、すべて終わっている。
あとは、――だけ。
扉の前に立つ。
中から、人の気配がする。
わたくしは、一度だけ、息を吸った。
息を、整える。
幽霊は、もう必要ない。
扉を、開けた。




