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62の舟券  作者: 広瀬修一
19/22

62の舟券その3


そのときだった、とつぜん榊原が


「1000円貸してくれんか、どうしても6-2が気になるんや」


といいだした。


2号艇の黒田はB2級の選手で成績も6着ばかりでまったく人気が無い、

さらに一番不利な6コース回りが確定的で6-2だと

500倍ちかくの配当がつく。


だから競艇のことをほとんど知らない榊原でも6-2だけは買わなかったのだ。


1000円使っても交通費は充分残るしこれまで榊原にはよくお金を借りていて、

いつもだったらひとつ返事で貸していたに違いない。


榊原の6-2への舟券への突然のこだわりを見て、朝の名四国道での出来事が

広瀬の頭の中にふとよみがえり、なんの根拠もないが


「6-2で決まるのでは」


と思った。


しかしそのとき広瀬の心のおく底には、説明のつかないどす黒い

衝動のようなものが、湧き上がってきて


「2号艇だけはいらんわ、どぶにゼニをすてるようなもんや」


という言葉が勝手に広瀬の口をついて出てしまっていた。


それを聞いた榊原は、だまってしまった。


レースがはじまると、予想どうり内側の

1コースに1号艇の柴田、

2コースに3号艇の深川、

3コースに4号艇の島谷、

4コースに5号艇の高桑、

5コースに6号艇の清原、

6コースに2号艇の黒田と並んだ。


大時計がまわり、各選手がスタートを合わせる、

インの柴田が勝って当たり前という重圧からかスタートが少し遅れた。


トップスタートを決めた4コースの高桑が、内側の艇をカマシ気味に

切れ込むと、抵抗する柴田がレバーを握り込み、2艇が大きく外側にふくれ、

挟まれたかっこうの3号艇と4号艇もまき込まれて行き場を無くし

ポッカリと空いた内側を、遅れて差してきた6号艇と2号艇が、

ゆうゆうと通りぬけていった。


顔色を失った榊原をよこめに見ながら


「そのまま、そのまま」


と、広瀬はゴールをするまで心のなかで念じつづけた。


静まりかえった場内に、払い戻しを告げるアナウンスが、鳴り響く


「連勝単式、6と2の組み、57880円」。


広瀬は興奮しながら


「これで京都に帰ってアパートが借りれるなあ」


と言ったが、榊原はだまったままだった。


払い戻し窓口で、大入り袋とともに578800円の現金を受け取り、

榊原の所に行くと


「伊勢までの電車代を、貸してくれ」


と弱々しくつぶやくように榊原は言った。



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