タコ部屋
まだ日が明るいうちに半田の寮に到着し、一階にある事務所でいろんな
説明を受けた。
広瀬を雇った会社は松村工業という人材派遣会社で、働く工場は半田にある
知多製鉄という鉄のパイプを作っている大手の鉄鋼会社だった。
寮がある場所は武豊町というところで、目の前に名鉄の知多武豊駅があった。
寮の部屋は6畳間に二人づつで、一日3食つき、12時間の2交代勤務で
メシ代と寮費を含めた1000円を仕事が終った後に、日払いされる給料から
差し引かれるシステムだった。
会社へはマイクロバスが寮の前からでていて送り迎えをしていた。
翌朝、出勤のためマイクロバスに乗ると、あとから乗ってきた男が
運転手に一言話しかけながら何かを手渡した。
それは小さな紙きれだった。何だろうと思って見ていたら
隣に座っていた男がそれを察して
「運転手がノミ屋をやってるんだよ、競馬でも競艇でも、
その日の公営ギャンブルならなんでも受ける」
「仕事が終わった時に精算するわけだがほとんどの奴が負ける、
俺たちゃ日払いだから、奴にとっちゃ取りっぱぐれがねぇのさ」
と自嘲気味につぶやいた。
広瀬はここはいわゆる
「タコ部屋」
であることを悟った。
工場に着くと派遣会社の従業員専用の休憩室に連れて行かれた。
ここで作業着に着替えたり昼食をとったりするのだが、夜勤明けの連中が
着替えて寮に帰る準備をしている。
だらだらとした空気が漂っていてまったく生気が感じられない。
行き着くところまできてしまったことを広瀬は実感した。




