56.任務達成
「制圧終了しました。」
「ご苦労。後は外の状況だが・・・」
「凄い爆発が起きていたが、いまは大分収まっています。」
「急いで駆けつけるぞ。」
操舵室を制圧したアレックが、甲板に戻った時に見た光景は、甲板に倒れた幾多の海兵と巨大な狼、陸上に散乱する軍用馬車の破片、そして焼け焦げ悲惨した帝国兵とその血の跡だった。
「あ、アレックさん達が出てきました。」
僕が、甲板に現れたアレックさん達を指さして、ロッソさんに告げる。
あやうく火線を撃ちそうになったのは内緒だ。
既に、魔法攻撃と船に飛び移ったマロウによって、甲板の海兵は沈黙していた。
僕達の近くでは、下方へ逃げ遅れ、さらに爆発や竜撃砲などの魔法を運よく回避することができた数名だけが、捕虜として捉えられていた。
既に、精神的にもかなりまいっているらしく、ガタガタ震えるて抵抗する様子もなかった。
しばらくすると、こちらは十数名の捕虜を連れたエリック達が山道をゆっくりと登って来た。
ざっと見る限り、血まみれの者は多いが、皆自身で歩いているし、欠けたメンバーはいないようだ。
おそらくは、返り血だろう。
デュルゲルさんが手を大きく振り、何やら叫んでいる。
結局最後になったのは、ローさん率いる銀の旅団のメンバーだった。
「まさか、ここまで上手くいくとはな・・・・。」
「な。言ったろ。」
アレックさんとディーン副団長がお互いの生還を祝しながら、肩をたたき合っていた。
「まぁ、喜ぶのはまだ早いがな。この船を王都まで運ばなきゃいかん。」
「動かせるのか?そのための捕虜だからな。」
そういって、艦長であったラドフェルと数人の海兵を顎でさす。
ラドフェル達は、後手を縄で縛られて項垂れている。
当初の威勢の良さは見る影もない。それも周りの惨劇を考えれば無理もないだろう。
僕も少し前ならば、吐き気を催していたに違いないが、今は慣れてしまった。
「いくらなんでも、この人数では難しい。」
「それでも、動かしてもらわなければな。」
こういう相手を威圧する時のローさんは、敵でなくてよかったと心底思う。
強い云々の以前で、『怖い人』なのだ。
実は、生物がいない・・つまり全員が下船した状態であれば、僕ならば封魔紋に収納が出来そうな気がするが、流石にそれは控えた方が良さそうだ。馬車をしまっただけでもかなり驚かれたのに、このサイズのものを格納するのはちょっと危険だろう。
「とりあえず、騎士団と冒険者の諸君は、陸上部隊の捕虜を連れて馬車でマロールへ向かってくれ。我々は、船で王都へ向かう。」
「大丈夫ですか?」
「誰に物を言っている。と言いたいところだが、君たちが相手だとな。
だが、大丈夫だ。万一彼らが反乱を起こそうとしても、我々であれば対処できる。」
「しかし、海に飛び込んだりして逃亡されると、船を動かせないのでは?」
「まぁ、こいつらに、足首を切断した状態で海に飛び込んで生き残る自信があるならな。だが、念のためにディーンは王都へ船乗りの応援要請を頼む。」
「至急、早馬を出しておこう。」
「あと、彼らへの報酬の手配も頼む。」
「それは、任せておけ。今回の件は、我々にとっては死活問題だったからな。」
こうして僕達は、マロールへの帰路につくことになった。
「ところで、アーディル君。このあと君はどうするつもりだい?」
アレックさんが尋ねてくる。
どうすると言われても、正直直ぐには答えられなかった。
本来、僕は王都の学生で、学園の指示でザッカートに本来ならばいるはずだったのだが、まわりまわってここにいるのだ。
ザッカートに戻るのも今では簡単ではないだろう。
「まぁ、今は少し休むと良い。だが、君の力は今この国必要とされている。
これからも、頼むよ。」
そういうアレックさんの言葉の意味を、僕はその時正確に理解できていなかった。
とりあえず、黎明編はここで終わりになります。
小説って、難しいもんですね。




