52.黒船襲来
「見えました。あれですね。」
「初めて見るが・・・・でかいな。」
「まぁ、あれだけの部隊を運搬可能なのだからな。まったく厄介なもんを作ったもんだ。」
「ザッカートは、を攻城弓を大量に積んだ黒船に囲まれているらしいわね。」
「なんの魔物の素材でできているんだ? 軍用馬車とは規模が違うだろう?」
軍用馬車も魔物の素材を主要構造部分に使用し、通常の馬車よりも過酷な運用に耐えることができるように造られている。もちろん、一朝一夕で設計されたものではなく、試作を繰り返して今の形になったものだ。
だが、黒船はその規模が全く異なる。
王国の持つ最大規模の軍用船の倍以上の大きさを誇り、攻城弓を何門も積む攻撃力を持つ。
防御力は未知数ながらも、主要構造部分が木造の王国軍用船では歯が立たないのは間違いがない。
「鹵獲・・・可能だと思うか?」
「銀の旅団ならな。それより俺達の方こそ厳しくないか?あんたは随分落ち着いているが・・・」
"女神の片腕”のリーダーであるロッソさんと”一角獣の角”のリーダー格の女性、”不死の鷹団”の団長らしき青年が話をしている。そして、ロッソさんが僕の方を何やら指さしていた。
既に、作戦は決まっている。
旅団は、捕虜と一緒に帝国の帰還兵に扮して待機。
もちろん捕虜に渡されている装備は、模造品で実践で使えるレベルではない。
そして、一角獣の角と不死の騎士団、第二騎士団そしてエリック達は岸壁へ登る道の入口付近を囲む場所に陣取る。少数で多数の相手を相手にするために、一度に相手をする人数を減らせる場所になる。
もっとも、一気に多人数を相手にするよりマシなだけで、絶え間ない連戦や後方支援などまともな状況であれば、今回の人数差を覆すほどの効果はない。
その布陣を活かすための役割が、ロッソさん達”女神の片腕”と、僕とマロウの役割になる。
”シャナ。この作戦で行けると思う?”
”ふん。あのアレックとやら、中々肝が据わっておる。
船の潜入して制圧するのもそうじゃが、この作戦も無理難題どころか狂気の沙汰と言ってもいいじゃろぅ。じゃが、悪い気はせんのぉ。この者達も、焦る様子もないしの”
”で、シャナの予想は?”
”下で待っておる者たちに出番があると良いのぉ”
そう言って、ニヤッと笑う。
シャナは、容姿で言えば若くて綺麗な女性に見えるのだが、背は僕より頭一つは低く、その異様に高飛車で古風な口調をする。シャナ曰く、僕が望む姿や口調などに見えたり聞こえるだけらしいのだが、本当だろうか・・・・・。
だが、シャナには何度も助けられてきているし、僕よりも遥かに的確に物事を見れているので、そういわれると安心することができた。
僕達が隠れているのは、岸壁のさらに斜面の上。つまりエリック達の正反対の位置になる。
役割は、端的に言えば追い立て役。
船から相手の交代の隊を引き離し、エリック達のいる本隊側へ追い込み挟撃する役になる。
通常この人数で考えれば、そんなことは実現不可能なのだが、僕やニースさんなどの魔法で一気に攻め、マロウが船への退路を断つようにかく乱をする手はずとなっている。
その他にも"女神の片腕”の弓使いは、一度に数十本もの矢を撃つなどの技を使えるなど、Bランクは伊達ではないらしかった。
「来るぞ」
黒船が近づいて来るが、近づけば来るほどその規模に圧倒される。
アレックさん達は、捕虜からの情報に基づき、赤い旗を振り黒船の接舷を誘導させる。
最悪、偽情報を伝えられたり、捕虜がいきなり救助を求めるなどのリスクもないわけではなかったが、捕虜たちは緊張した表情のまま、おとなしく指示に従っていた。
捕虜を捉えた時の躊躇ない処刑などの威嚇が効いているのもあるだろうが、上級の騎士でもない限り帝国では本来の捕虜としての価値はないらしく、相手に保護を求めても捨て石にされるのが関の山とのことだった。
船から、馬車が2mほどの巨大な渡し板が渡されると、部分的な革鎧に曲刀を下げた浅黒い男が何人か下船してきて、帝国式の敬礼を行う。
アレックさん達もそれに倣い、帝国式の敬礼を行った。
「『三叉の矛』と艦長ラドフェルだ。貴君らの働きに敬意を表する。
ところで、随分数が少ないようだが・・・」
「うむ。他の隊についてはわからぬが、わが隊は襲撃を繰り返すうちにこの人数になってしまった。
隊長も、志半ばにして・・・。私はこの中では最も古参だったため指揮をとらしていただいているアレードという。よろしく頼む」
ラドフェルは、旅団の人たちと一緒にいる捕虜の顔を一通り見ると、頷くとアレックたちを船へと乗船させた。




