33.樹海
「ふぅ。やはり、なかなかの使い勝手じゃな。」
デュルゲルさんは借り受けた両刃斧を軽々と振り回して、牙狼の頭を一撃で落とすと豪快に笑った。
「それは、良かったですねっと」
僕は、槍で牙狼の一匹を貫き、零距離での氷結弾を放った。
樹海で火事になったらたまらないので、火魔法の使用を控えたのだ。
「なかなか面白い戦い方だな。魔法槍士とでもいうのかな。
魔法の腕も中々だが、槍もいい線を言っている。」
確か、ロッソさんといったか。流石B級冒険者といった剣捌きで軽々と牙狼を仕留めながら話しかけてきた。
牙狼は、これでもかなりの魔物になる。
一角狼などとは、同じ狼でも格が違う。体躯は倍近く違うし、名前の通りの鋭い牙とその俊敏さで、中堅の冒険者でも気を抜けばあっさりとやられてしまう魔物なのだ。
しかも、群れをつくる習性は変わらず、群れによっては見事な連携をしてくる。
しかし、僕達は危なげなくそれらを処理できていたのは、彼ら先輩冒険者の皆さんのおかげであった。
実際、パーティーによっては、5人がかりでも1匹相手できるかどうかなんていうところもあるが、彼らが補助魔法を使ってくれたり、サポートしてくれるのだ。
あっという間に、牙狼の死体ができると、ベテラン勢が冒険者の小剣を使って、あっという間に牙や食用に向く部位だけを切り分けていく。
「牙狼は、こいつの良い材料になるからな。
肉も、こういう環境では持てるやつは持った方がいい。売るんなら、爪も売れるが、牙ほどにはならんから、今回は置いていく。後は、魔石だな・・・。」
そういいながら、後輩の冒険者に冒険者の小剣を見せながら牙を引き剥がしていった。
「こんな状況じゃなければ、本当にいい勉強なんですけどね。」
セドリックが、苦笑いをするのもわかる気がする。
それぐらい貴重な経験になっていた。
僕は、余った肉や爪も封魔紋にしまいながら、喰えそうなものを”喰った。”
どうせ捨てていくなら、少しでも補給に回したい。
封魔紋の中で”喰う”ことができるようになってから、周りの眼を気にしなくて良くなったのがかなりありがたい。分配が必要なものはなかなか喰えないが、僕の力になる物≠価値のある物というわけではないのがありがたい。
最悪、「魔法薬の材料にした」とか「ゴミになるので廃棄した」で誤魔化してしまえばよい。
特に、僕には内臓や血の類は力になるが、普通はこれらは捨てるもの。むしろ、喰うことで余分な部分だけが処理出来て都合がいいくらいだ。
特に、ランクの高い魔物のそれを喰らうと身体が熱くなって、血肉になるのを感じることが出来る。
今回のように。
「で、その斧の付与されている効果って何だったんですか?」
「ん?身体が少し軽く動く感じがするから、身体強化系の魔法かのう?なんか気分もすっきりするし、そういう魔法もかかっとるかもしれんのう。なんにせよ中々良いぞ。」
デュルゲルさんは、上機嫌の様子だった。
「しかし、いきなり牙狼の群れですか。気を引き締めないといけませんね。
遭遇が、まだ日が高いうちでよかった。」
「逆に言えば、野営地を早めに確保したほうがよさそうね。エリーさん。生命反応は?」
「今のところは、大きなものはないですね。」
「少し開けたところがあれば、そこを確保した方がいいかもな。
日が落ちてから準備したのでは、間に合わないかもしれないし。特に若い奴らは・・・」
ロッソさんが、そういうのも無理はないかもしれない。
このパーティーには、ロッソさん達の様なベテランがいる一方、普段、低層でしか活動していないような若者の集団もおり、現在の疲労状況や顔色を見ても明らかに差があった。当然、キャンプの張り方や道具の有無などもかなり差が出ると考えていいだろう。
「まったく。近頃の若いもんは・・・」
「爺さん。それは言いっこなしだ。俺にもそういう時代があったしな。」
そういうと、ロッソさんは、若者パーティーのメンバーに声をかけに行った。
「デュルゲルさん。私もロッソさんの意見に賛成です。
先ほどの牙狼との戦いを見ても、余裕のあった皆さんに比べて私も含めて苦戦したメンバーが半数以上いました。土地勘もないですし、野営の準備は早く行ったほうがいいかと。」
「いや、野営について儂とて反対しとるわけではない。腹も減るしな。
儂が気に入らんのは、あのこの世の終わりの様な顔つきじゃ。
冒険者というものは、冒険するから冒険者じゃろうに。こういう状況を楽しまんでどうするか。」
エリックの提案に、デュルゲルさんはいかにも彼らしい回答をして、プンプンとしていた。
まぁ、一理あるといえばあるのだが、流石にそういう発想をもてるのは、そうはいないだろう。
「おーい。エリック君。この先に少し開けた場所があるんだが、どうだね。」
遠くから、先頭を進んでいた先輩冒険者から声がかかったのはそんな時だった。




