31.脱出
ダンジョンというのは、不思議なもので、階層を下って行くのに、出口は最初はいたところよりも高所に出るなんていうことがある。要は、異空間というやつだ。
どうやら、この”太陽の森”には、複数の入り口や出口が確認されているらしい。
ではなぜ、それらが使われないか。
応えは簡単。ダンジョンの出入口がとても不便なところにあったり、入った先のダンジョンの構造が不味かったりするのだ。
「とりあえず、確認されている場所は、普段使うところ以外で3カ所あります。
ただ、そのうち1カ所は、実質使えませんね。湖の底にある洞窟なので。
残り2カ所は、1カ所は第10層、もう1カ所が第20層にあります。」
「それぞれ、使われない理由は?」
「第10層の出口は、出た先が樹海の奥の方になっています。ザッカートからもそれなりの距離がありますし、魔物も多く目印もありませんから、あえてここから入ったり出たりはしません。
第20階層の方は、出入口の先が山岳地帯の中腹にある洞窟になります。一応、洞窟までの道はちゃんとありますが、ほとんど使う人はいないです。正規に20階層を目指すよりも確かに早いのですが、そもそも20階層というとそれなりの力が求められますし、そこを目指せる人達は、順にダンジョンを攻略していくのが普通ですから。」
下層へ向かいながら、エリックが、エリーさんに確認をとっていく。
目指す層は、10階層か20階層ということらしい。
問題は、どちらの方を取るべきかだが、どちらもダンジョンから出ても楽というわけではなさそうだ。
「出た後のことを考えると、どちらが良いか・・・だな。
水や食料の補充も考えると、どうだ?」
「樹海は、サバイバル技術があれば獲物には困らないでしょうし、水も確保できるかと。
山岳地帯は、岩山が中心ですから、この時期だと補給は厳しいかもしれませんね。」
「なら、目標は決まったな。実際、早く着くし20階層までいくより安全だからな。」
どうやら10階層を目指すことになったようだ。
「あと、人間の生命反応がいたら、早めに教えてくれ。
仲間は確保しておきたいし、上にいた奴らには悪いが、なんとかできるやつは何とかしてやりたい。」
エリーさんは、無言でうなずいた。
このあたりの判断力や決断力は流石としか言いようがない。
僕は、ただ頷くしかできなかった。
「アーディル。悪いがお前が生命線になる可能性が高い。
食料・水の運搬なんかはお前に頼りっきりになる可能性が高い。
そこまでの容量のある封魔紋を持っているやつは、聞いたことがないんでな。
水や食料はできるだけ確保してくれ。」
「わかった。」
「セドリックとティアは、アーディルを絶対に守り切れ。アーディルに万一のことがあったら、全滅だと思えよ。」
「そんなのわかってるわよ。」
「まかせといて。」
大げさな気もしたが、この後、エリックの言った意味が良くわかった。
階層を下っていくたびに、数パーティーの冒険者に会うことになる。
エリックとエリーさんは、一通り状況を説明をし、別の出口を通って樹海への道を通っての脱出を提案する。
半数の以上のパーティーは、状況を聞いて直ぐに一緒にいくことになるが、一部のパーティはしばらく様子をみるという結論を出していた。むろん、それに対して無理強いをするつもりもない。
ただ、それでも8階層につく頃には、パーティ数は10を超え、人数も50名近くなっていた。
「なぁ、この人数だったら、1階を普通に突破できるんじゃないか?」
「ああ、1階だけなら多分できるな。
俺が見た限りだと、1階にいたのは1師団40名弱。むろん犠牲はそれなりにでるが。
だが、出た後が問題だな。」
「さらに数師団は近くにいる・・・・だろうな。
きな臭い話はあったからな。」
「ああ。普通はダンジョンだけ抑えには来ないだろうからな。そんなことをしたら、ザッカートから派兵を受けるだけだ。まずは、ザッカートを囲むように兵を展開したうえで、ダンジョンを制圧しに来たと考えた方がしっくりくる。」
「しかし、これだけの人数だと、食料や水は大丈夫か?正直言えば、期間途中だったから心もとないのだが。」
「そのあたりは、現地調達も含め、分け合うしかないだろうな。
次の階層では湖があるから、そこで水はある程度確保する。”浄水”の魔法が使える者がいないパーティーは、うちのアーディルが用意する。鰐を数匹狩るから、封魔紋に余裕がある奴は確保を頼む。」
エリックは、明らかに年上やベテランの冒険者を相手に、実にうまく立ち回りリーダーシップを発揮していた。まぁ、僕が魔物を”火線”で一蹴したのを見てからは、特に誰も文句は言わなかった。
第7階層で流石に1度野営を行う。
魔封紋にしまっていた鰐2匹を丸ごと焼き、それぞれのパーティーに振舞う。
水も、湖でかなりの量を組んで浄化済なので、空になった水筒がある者には分けた。
魔物の肉はまだまだあるし、第9階層にも水場があるらしいので、そこでまた汲めばよい。
「ガハハハッ。お前さん達、若いのに見事じゃのぉ。気に入ったぞ!」
そういって近づいてきたのは、背の低い頑健な身体つきの豊かな髭を生やした男性だった。
鉄版と鎖帷子を組み合わせた見事な鎧と兜を被り、その身体に似合わない大きな斧を持っている。
男の名前は、デュルゲル。このあたりではちょっと有名なドワーフの戦士だった。




