27.変異種
「あれじゃない?」
「あの色、大きさ。間違いないでしょうね。」
肌の色は紫色。毛皮でできた腰巻を申し訳程度にまとった筋骨隆々の大鬼。
手には大きな両手持ちの大斧を持ち、周りには、オークだったと思わしき肉片がいくつか転がっていた。
それは、視認すると大きく唸り声をあげる。
「マロウ!」
僕は、魔狼のマロウに指示を出し、火線をオーガ目掛けて放つ。
なんと、オーガは斧を構えると、斧で火線を受けとめ、わずかに斜線をずらして避けた。
「なんだって!」
奴は、体格に似合わず、ベテラン冒険者のようなとても器用な技を使った。
火線は、見た目からもわかるぐらいレベルアップしていて、そんな簡単に対応できる魔法ではなくなっているはずなのだが。
しかし、斧を火線の防御に使ったことで隙が生じ、マロウがオーガに噛みつく。
左の上腕を大きく抉って血しぶきが舞った。
「ギャァァ」「グゥ・・・グオォォーン」
2つの叫び声が、大気を震わす。
1つは、紫の大鬼。そして、もう一匹がマロウだった。
大鬼は、抉られた腕を抑えながら咆哮をあげ、マロウは大鬼から離れて、咽ながら、胃の中のものを吐いていた。
さらに、オーガに向かってエリックが剣をふるい、セドリックが槍を突き刺す。
分厚い筋肉は鋼の鎧のように武器を遮り、皮膚の皮一枚程度しか刃が通っていない。
それでも、皮膚に何筋もの刀傷ができ、時折血がにじみオーガが動くごとに振りまかれる。
ティアさんの火球がオーガにあたると、また血しぶきが舞った。
「ゴホ・・ゴホ・・・」
「む・・・・これは・・・。」
「おい!やばい!引くぞ!!」
有利に戦えていたはずであったが、エリックとセドリックが急いでオーガの元から逃げようとする。
何かおかしい・・。
僕は、簡易版爆発を発射し、援護しながらマロウに指示を出そうとするがマロウが突然消えた。
「とりあえず、階層境まで引くわよ。」
オーガにも少なくないダメージを与えたはずだが、命あっての物種ともいう。
何よりも、逃げてくるエリックとセドリックの様子がおかしい。
何発か簡易版爆発で攪乱したところ、オーガも分が悪いと思ったのか逃げ出してくれた。
「エリック、セドリック大丈夫?!」
明らかに血色が悪くなって息が上がっている二人の様子を診る。
くちびるや指先などの皮膚や粘膜部分が青紫色に変化している。
これは、いわゆる酸素欠乏症だろうか。だとしたら”解毒の魔法薬”で改善するはず・・・。僕は封魔紋から念のために用意していた魔法薬を二人に渡す。
分量は1人分なので十分ではないが、ないよりはマシなはずだ。
二人は、魔法薬を一口づつ飲むと効果があったのか一気に楽そうになった。
”シャナ!マロウはどうなったの?!”
”毒によって、召喚の維持に耐えられる体力がなくなって送還されたようだな。
古参の魔狼ならともかく、マロウには毒物の耐性がなかったと見える。
まぁ、仕方がないな。しばらくすればまた召喚できるようになるだろう。”
”そう。良かった。で、あれはやはり毒なの?”
”うむ。あれは、間違いなく大鬼の変異種のポイズンオーガじゃろう。”
”変異種?!”
”なんじゃ、そんなことも知らんのか。”
”いや、一応は知ってるけれど・・・”
変異種というのは、極まれに生まれる魔物である。通常の魔物に比べ、奇形であったり異形の姿をしていることが多く、能力などについても変異する。
むろん、必ず強くなるわけではなく、むしろ弱体化する変異種の方が多いのだが、自然淘汰されるため人の眼につくのは強力な魔物である場合が多い。そして、変異種の能力は子にまで遺伝するものがあるのだ。つまり1体の変異種が生まれると、その変異種と交配して生まれた子も変異種となり進化していくというわけだ。
「変異種みたいですね。」
「毒属性か。アーディルの狼もやられちまったのか?」
「ええ。毒にはあまり強くないみたいですね。思いっきり喰っちゃってましたから・・・。まぁ、しばらくすればまた召喚できるようですので。」
「そうか。だが、ちとばかしつらいな。情報を持って帰ることに専念すべきかな。」
「そうね。別に私達が解決できなくても、相手がわかればギルドがなんとかするでしょうし。」
「でも、惜しかったですよ。結構ダメージ与えていたし。それに、あの状態で放置すると被害が広がる可能性が・・・」
エリーさんは、ギルド側の人なので、なるべく早く自体を収めたいのだろうか。
「まぁ、それも一理ある。アーディルとティアの魔法も効いていたし、なにより最初のアーディルの狼の一撃が効いているからな。しかし、あれでは近づけないぞ。」
まぁ、おそらく僕なら近づけるような気がする・・・。毒物耐性LV8は伊達じゃないはずだ。
さて、どうしたものか




