18.ホビットに会った
「ここでいいんですか?」
ビュッヘルトさんは、ギルドの外の”訓練場”と呼ばれる一角に僕を連れてきた。
マロウの召喚を含めて、ダンジョンへ行ってもいいか、ギルドに登録させてもいいかなどまで確認するために、職員の方も何人か一緒につきそってきていた。
「では、いきます。”魔狼召喚”」
僕が短く唱えると、身体から一気に魔力が流れて抜けていくのがわかる。
それでも、2回目だったからか少しその感覚にも慣れたようだ。
そして、僕の傍らに黒い闇のような靄が集まるとそれが大きくなる。
そしてすぐに、そこに銀色の見事な毛並みの大きな狼 -マロウ-が現れた。
召喚自体もかなり早くなっているような気がする。
「これは・・・。思ったよりも凄いな。」
「これでいいですか?」
「うむ・・・。その狼の強さは流石にわかるよ。というか、よく懐いているな。」
マロウは、僕の横に伏せた状態でおとなしくしているが、鋭い眼光と僕にでもわかるような威圧するようなオーラは健在だ。
「ところで、どこまで言うことをきくのだ?」
「どうなんでしょう?」
それは、むしろ僕も知りたいところだった。
ビュッヘルトさんは、壁から訓練用の剣と盾をとると、僕の前に構えた。
「悪いが、少し試させてもらう。ああ、一応俺も腕に覚えはあるが、ちゃんと手加減するように言ってくれよ。」
そういって、ニマリと笑って構えるが、僕にもわかるぐらい隙がない。
僕では全く打ち込めないだろう。
「じゃぁ、マロウ。あの人を倒して。でも殺したりしちゃだめだから。」
そういうと、マロウはのっそりと立ち上がって、僕の顔を一瞥すると、小さくウォンと鳴いた。
まぁ、あまり気乗りがしないのか不機嫌そうだが、従ってくれるようだ。
マロウは、ビュッヘルトさんの前を隙を伺うようにしてうろうろとしだす。
何度も行ったり来たりしたが、あきらめたのか僕の方をちらりと振り返ると一気にビュッヘルトさんに向かって駆けだした。
そして、直ぐにビュッヘルトさんの頭を飛び越えると、背面から飛び込んだ。
「おおっと」
ビュッヘルトさんは素早く盾を構えてマロウの突撃に備える。
速度といいタイミングといい、ビュッヘルトさんの動きは素晴らしいのだが、マロウの攻撃はその上を行っていた。
「参った」
ビュッヘルトさんが剣でマロウの攻撃をいなしながら言う。
横には、木製に魔物の鱗の打ち付けられた盾が無残に喰いちぎられていた。
「マロウ!ストップ」
そういうと、マロウはゆっくりと僕の傍らに座り込んでつまらなそうに伏せた。
「これは予想以上だな・・・これだけでDランクで登録しちまってもいいぐらいだ。
いや、まぁそういうわけにはいかんか。だが凄い。とりあえずランクはEからだが、登録はしちまおう。」
後で知ったが、優秀な冒険者をギルドがどれだけ抱えることが出来るかは、ギルドマスターの腕の見せ所であり評価なのだそうだ。そして、実際のどこに拠点を置くかは別にしても、ギルドの登録証明書には、最初の証明書発行場所が表示される。
それは、逆に素行の悪いものやあまりにも実力のないものを安易にギルドに登録させないようにするための牽制でもあるのだが。
なので、ビュッへルトさんはマロウの力を見て、ギルドマスター特権を使ってでも唾をつけたかったようだった。
「さて、それじゃぁ一緒に連れてってもらいたいやつを紹介する。エリーだ。」
そういうと、フードを目深にかぶった小柄な少女を紹介をした。
「エリーは、ちょっと特殊な能力を持っていて、魔物の生命反応を感じ取ることが出来るんだ。もっとも、回復系と神聖系の魔法が少し使える程度で、戦闘能力はお察しレベルだ。
とりあえず、練習もかねてまずは低層から回ってみたまえ。」
「エリーです。よろしく」
少女はぺこりと挨拶をする。
「あ、いっときますけど私これでも60年は生きてるお姉さんですから・・」
少し丸みを帯びた体型と顔立ちをしており、どうやらホビットのようだった。
王国は、人種が9割を占めており、ホビットをはじめとするエルフやドワーフなどの種族は1割程度しかいない。他国の場合はそうでもないようだが、それでもあまり多くはない少数種族であった。
それぞれ人間より得手・不得手の項目があるのだが、ホビットは全体的に人間よりも身体が小さく、俊敏性以外の能力が低い。ただ、長命であり寿命は300歳とも400歳ともいわれている。
成長は、20ぐらいまでは、人間と同じようなペースで進み、そのあとは人間の1/5~1/10に相当するスピードでしか身体が変化しない。つまり、エリーは人間でいえば20代前半~後半にしか見えないのだ。
人間にとっては、羨ましい話だろうが、それ以外の人種にとっては意外とコンプレックスに思う時もあるようだ。要は、舐められるのだ。
「よろしくお願いします。」
僕達は、丁寧に彼女に挨拶をした。




