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12.勝利と恐怖

撤退指示を出したガーランドだが、それを実施するのは困難を極めた。

既に周りにはもう4人しか兵は残っていない。

数分。マロウが来てからわずか数分で20名近くいた兵がここまで減ってしまった。

マロウの牙は鋭く、その顎の力は頭蓋を兜ごと噛み砕く。

そして、その瞬発力は電光石火、鎧袖一触。兵たちはその一撃をほとんど躱すことも防ぐことも出来ずになすすべもなく倒れていた。

一矢報いようにも、攻撃が当たらないし当たっても全く傷をつけることができていなかった。


討伐依頼を数々こなす上位の冒険者ならばともかく、特殊部隊とはいえガーランド達の獲物は基本人間。このような上位の魔物への対応に慣れていなかったというのもあるが、やはり相手が悪すぎた。


マロウを背に逃げ出そうとするガーランドの背中を大きな鈎爪が引っ掻いた。

鋭いとまでは言えぬ鈎爪なのだが、それでもその力が強いため、革鎧を剥ぎ取り身体を強く押されて大きく突き飛ばすことになった。そして、そのまま頭を強く打ち付けた彼は意識を失った。


そして、残りの4人を喰いちぎった後、マロウは直ぐに踵を返すとアーディル達のところは駆け戻っていった。



・・・・


アーディル達は善戦していた。

数の上では、敵との数はほぼ同数になっていたし、アーディルとティア以外は、互いに有効打を持たなかったため、戦線は膠着していた。

ただ、本来であればそれはアーディル達にとっては厳しい状態ともいえなくはない。

疲労は蓄積しているし、アーディルとティアの魔力も有限だ。

なによりも、この戦局だけみれば五分でも、相手にとっては一部でしかない。すぐに増援が来る・・・はずだったのだ。


ところが、実際にはやってきたのはアルキラ帝国の増援ではなく、その血で深紅に輝くマロウだった。

そして、マロウは主人に敵対する者達を血祭りにあげるのだった。


それは、戦い慣れたエリック達をしても眼をそむけたくなる光景だった。

跳躍すると、その巨躯で数名の兵をそのまま押し倒し、顎をふるうと兵の身体が舞った。

ただし、その身体に首から上はない。

さらには、敵の腹部に噛みつくと、革鎧ごと喰い破った。

兵は、苦悶の表情を浮かべ、そしてそのまま倒れこみ、二度と動くことはなかった。


もちろん、彼らに同情の余地はない。

これまでに補給部隊を何度か襲い、殺してきているし、何よりも自分達を襲おうとしていた者達だ。

一歩間違えば、立場は逆になっていたかもしれない。


アルキラ帝国は、深紅の悪魔”マロウ”の出現に全く対応が出来なかった。

いや・・ディーン副団長をはじめとした騎士、エリック達・・僕ですら対応できていなかったという方が正しいかもしれなかった。

事実、アルキラ帝国の兵たちは投降するということをしなかったし、僕達もそう呼びかけることも忘れていた。


マロウが戻って、わずか数分。

そこには、アルキラ帝国の兵の死体の山が築かれていた。

マロウは、一際大きく遠吠えをすると、僕のところに戻ってきて座り込んだ。

その風格は狼っというよりも獅子に近い。


騎士の皆さんはマロウを警戒をしていたが、それでも僕が大丈夫です。といって、血だらけの毛をなでるのを見て少し顔をこわばらせながらも構えを解く。そして緊張の糸がきれたのか座り込んだ。

「た・・・助かった。」


エリック達も同じように座り込む。

周りはおびただしい血と死体の山があり、とても休める状況ではないのだが、ディーン副団長までが倒れこむようにして座り込んだ。よく見ると涙を流している者もいた。

色々と限界だったのだ。


「マロウ、よくやってくれたね。」

僕は、彼の首をなでながら、そう語りかけた。

手のひらには返り血がべったりとついてしまうが、彼がいなければ血を流していたのは僕らだろう。

マロウは気持ちよさそうにすると、クゥゥンとひと泣きして、ベロンと僕の頬をなめる。

ついさっきまで、あれだけ人を噛み殺した後だ。その舌は血なまぐさく、僕の頬にその血がべったりついたのがわかる。だが、意外と嫌ではなかった。


「アーディル君。あらためて礼をいう」

ディーン副団長が、僕のところに来て礼を言う。

ただ、視線は、明らかにマロウの方に向いていて、それを見る眼は恐怖以外の何物でもなかった。

まぁ、それはしょうがないのかもしれない。あの死体の山を見れば。

逆に、礼を言いに来てくれただけ立派と言えるぐらいだ。

なにせ、旧知の仲のエリック達ですら僕に声をかけるのをためらっていた。


「さて・・・。どうしましょうかね。」

わずか12歳の子供が仕切るのは生意気かと思ったが、いつまでたっても誰も口を開かないため、僕が切り出した。もちろん、それはこれからの予定だ。誰だって、いつまでも死体と一緒に、こんなところにいたくはない。


「ああ、そうだな。すまん。」

ディーン副団長は、自分がするべき役割をアーディルに押し付けたことを反省したのかそう謝ってから指示をだした。


内容はいたってシンプル。奪われたと思われる補給物資と馬車をできるだけ奪い返し、アルゴスの町に向かう。それだけだった。

魔物が出てしまうかもしれないが、流石に、この状態で埋葬をしてやるほどの余裕はない。

もっとも、一部はマロウの餌としたが。


<スキル:冷静沈着を手に入れました。冷静沈着のレベルが上がりました。>





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