10.マロウ
ディーン副団長も、多分目まぐるしくかわる状況に情報処理が間に合っていないのだろう。
魔狼に対しての反応は驚きと同時にどう反応していいのかわからないという感じだった。
まぁ、僕もこの時は魔狼の力を厳密に知っていたわけではなかったのだが、なぜか何とかなりそうな気がしていた。
どうせ僕らだけが逃げても、無事に逃げ切れる可能性だって高くはない。
そして、馬までなくした騎士の皆を見殺しにするようなことは、例え助かっても寝ざめが良いものではない・・というか一生後悔するだろう。
かといって、あきらめているわけではない。
少しでは可能性がある方法にかけてみたいのだ。
”シャナ!どうすればいい?”
”あれぐらいなら、魔狼に命じればよい。数が多いから、こぼれてくる奴らから身を守らないといかんかもしれんが、それならこの騎士達でも十分できるだろう。”
”言葉が通じるの?”
”アウロスと同じだ。召喚術で召喚された者には念話が効く。我と同じように語ればよい。ただ、我やアウロスと違って、魔狼は言葉は話せんじゃろう。そのあたりは、慣れじゃな。”
今度、召喚術についても学んだ方がいいな。まぁ、まず生きて帰るのが先だが。
”魔狼・・・って呼びにくいな。まぁ、時間がないマロウって呼ぶぞ。
マロウ!あそこにいる野盗どもを何とかしてくれ。”
あまりに安直なネーミングだが、本人(?)は気に入ったのか尾を振って嬉しそうに頷いた。
まぁ、アウロスも梟を表すアウルを少しもじっただけだしな・・・。
魔狼改めマロウは、荷台から飛び降りると、一声遠吠えをすると野盗・・・おそらくアルキラ帝国の兵士に向かって駆けだした。
・・・
「ウォォォーン」
大気を震わすような遠吠えがすると、半包囲をした馬車から白く輝く獣がすごい勢いで駆け出してきた。
彼らは、ディーン副団長の予想通り、アルキラ帝国の強襲部隊の一つ”黒狼師団”に属する兵だった。
師団長のガーランドは、武人というよりも諜報活動や破壊工作を得意とし、副団長のヴァルザンは高位の野獣調教師で、魔物の襲撃にみせた破壊工作を得意としていた。
今回の任務は、開戦にあたって城塞都市ザッカートへの補給線の破壊の有効性の確認。
城塞都市ザッカートは冒険者も多く戦力も多い。
アルキラ帝国側だが近くにダンジョンがあり物資も豊かで備蓄も一定量ある。素材も鉱物も肉などの食料もダンジョンは算出するからだ。
それでも、食べ物に限れば、消費と生産のバランスで言えば消費の方が多い。
穀物をはじめとする農作物の生産はほぼないのは大きい。
普段であれば、それも豊富な海産物や陸路・海路をつかった輸送があるからだ。
なので、今回の作戦ではまず、ダンジョンのある方面の封鎖と海上封鎖を行う予定だった。
そして、彼らのような工作部隊が、補給線となる輸送部隊を急襲して補給線を破壊する作戦となっていた。
これも、アルキラ帝国がこの数年力を入れてきた造船技術が成果を出したことから実現可能となったことだった。
戦艦の大型化とそれに伴いバリスタの数を増やし、兵の輸送量を飛躍的にあげることに成功。
さらに、魔物の素材をふんだんに使い、耐久・防火性などをの従来の木造船の弱点をカバーしたのだ。
実際に彼らもそれに乗ってヴァルジラ王国入りをしたのだが、輸送能力だけを見ても、これまでとは一線を画す能力だった。
作戦は順調で、既に輜重隊を何部隊壊滅させている。
ヴァルザンが何度か夜襲をかけ、消耗・疲労したところを本隊が急襲する。
もっとも大概は、夜襲の段階で馬車などの輸送手段を奪ってしまうので、本隊での戦闘は数回しかないが、これまでで人的損害は3名しか出ていなかった。
なにより、大量の補給物資を得ており、部隊の運営はその奪った物資で充分まかなえていた。
実験部隊としては大成功であり、実際にこの一団を襲った後は、本国に帰還する予定だったのだ。
略奪した大量の物資とともに。
迫りくる白く輝く獣”マロウ”に対して、”黒狼師団”は直ぐに反応が出来なかった。
3倍近い兵力で半包囲をしての殲滅戦。
もちろん、窮鼠と化した相手によって手痛いしっぺ返しを食らう可能性もあり、油断はならないことはわかっているが、勝ち戦には違いないだろう。矢や魔法への対応は行っていたがそれ以外のことは想定していなかったのだ。
隊としては対応できなかった”黒狼騎士団”ではあったが、数名はその姿を捉え、弓を射たり魔法を唱えようとする者もあった。
しかし、マロウの走るスピードは、普通の狼と比べると数倍。さらにその跳躍力はすさまじく、走るスピードを全く落とさないどころかさらに加速する勢いで矢や魔法を回避したかと思うと本隊に突入し、魔法を唱えていた者の頭を丸ごと一瞬で噛み砕いた。
「ヒィ」
声にならない叫び声が響く。次の瞬間にはその声を発した者も喉笛に噛みつく。
直ぐに次の獲物にマロウは向かって噛みついていく。さっきの喉笛に噛みつかれた者は、顎の下がごっそりと無くなって血まみれになって絶命していた。
マロウが方向転換するように跳躍する毎に血しぶきがあがり、一瞬で兵が倒れていく。
ほとんどの攻撃が躱されているが、斬撃が当たっても鉄の塊に切りつけたような反応で、ダメージを与えられたようには見受けられなかった。
「ば・・化け物・・・」
まぁ、魔物なのだから間違ってはいないのだが、そういう意味ではないだろう。
ガーランドは、次々に倒れていく部下に守られながら呟いた。
「撤退・・。全力で撤退せよ!!」
大きく叫ぶが、既に本隊は半壊。馬車に向かった別動隊はともかくここから逃げることが出来るかどうかは微妙であった。
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