9.魔狼
「いったいこれは・・・」
ティアさんは何が起きたのかうまく把握できていなかった。
彼女も魔法使いの端くれ、魔法の一種である召喚術についても知らないはずはないのだが、それだとは直ぐにわからなかったようだ。
まぁ、実は僕もスキル名を知って思わず呼んでしまっただけで、良くわかってはいないのだが・・・。
”シャナ!”
”うむ。初めてにしては、なかなかやるではないか。”
シャナは魔狼を見ると、満足気に頷いた。
”この子は?”
”ん?なんじゃ魔狼を知らんのか。しょうがないのぉ
魔狼は、戦神クベイラが従えていたとされる神狼フェンリルの末裔じゃよ。
むろん代を重ね時代も変わったため、フェンリルと比べれば力はその千分の一・・いや万分の一近くまで薄まってしまって居るがな。それでも、並の魔物を瞬殺する力は持っておる。
本来、魔境のかなり奥の方にしかおらんようなレアな魔物じゃ。”
確かに、そういわれれば王者の風格というか威厳すら感じるような気がする。
”まぁ、その子はまだ子供のようだが・・・子供同士アルとも相性がいいかもしれんのぅ”
魔狼は再び気持ちよさそうに顎をあげて頬を寄せ、僕の顔をベロンと舐めた。
「えっと、なんでしょうか・・・ペットというかなんというか。
一応召喚術のようなのですが、僕もまだよくわかってなくて・・・」
とりあえず、嘘は言っていない。
ティアさんは、僕を訝しむような眼で見る。まぁ、彼女にはエリックと同様隠し事をするようなことはしたくはないのだが、なにせ説明がうまくできなかった。
と、その時、馬車が大きく揺れると急に止まった。
「どうしました?副団長?」
御者台の方にいるディーン副団長に声をかけると、しばらくして返事が返ってきた。
「どうやら、俺達は本当にツイてないようだな・・・。盗賊だ・・・。
しかも、やたらと装備がしっかりした・・・な。」
僕は御者台側の幌の隙間から、前を覗き見た。
するとそこには、いかにも”野盗”というような使い込まれた革鎧にボロボロのローブを纏った30人近い男達が街道を封鎖していた。脇には3台の馬車が留められているのも見える。
「おそらく盗賊に偽装しているが、あいつらはアルキラ帝国の手の物だな。」
こちらが、馬を止めたのを見て、そのアルキラ帝国の手の者と思われる野盗が数名、馬車に乗り込んだ。
逃げ出した場合に、追跡するためだろう。
ディーン副団長がアルキラ帝国の手の者といったのには理由がある。
まずは、野盗の規模が大きすぎること。
20名でも、野盗ではかなり大きな集団である。
街道沿いとはいえ、それだけの規模を野盗で食っていかせるのはなかなかに骨なのだ。
討伐隊や腕利きの冒険者に狙われないようにしながらというと、治安の良いこの国では難しすぎた。
そして、もう一つが、野盗が全員同じ剣を帯刀していたことだった。
野盗になる者というのは様々だが、冒険者崩れや元農夫・木こり、敗残兵など様々だが、一般的にはその装備は略奪品などが主になるし、得手の獲物もバラバラになる。
これだけの数の敗残兵がこちら側にいるのは不自然であるしタイミングも良すぎるだろう。
「通常なら、荷物を差し出して降伏するか、荷だけを置いて逃走するのだが・・・」
ティアさんが露骨に嫌そうな顔をする。
降伏をしたところで、女性であるティアさんには碌なことにならないのはわかりきっているからだろう。
「今回は、その選択肢はない・・・だろうな。
相手の目的は、おそらく補給線の破壊だろう。しかも俺達を生かしておいて人質にする可能性もある。
その場合は、さらに最悪だ。戦意をくじくために、戦場で見せしめに処刑された例もある。」
「ディーン副団長。どうします?」
青ざめた騎士の一人が判断を仰ぐ。エリック達も馬車を降りて集まってきた。
「相手の馬車の馬はすべて2頭立てで、おそらく物資も最低限。逃げても追いつけまい。
降伏しても、碌なことにはなるまい。ならば騎士として一矢報いて他の仲間のために道を開く。」
指示を確認しに来た騎士は、天を仰ぐが反論をすることはなかった。
彼にも、逃げることは困難なことがわかっていたからだ。
「というわけだ。すまんがエリック君達には別の依頼を出したい。馬には乗れるか?
ここはなんとか食い止めるから、ここにいる馬でアーディル君を連れて王都に引き返してほしい。
そして、騎士団に今回の件を報告してほしい。」
そういうと、馬車から馬を外すように他の騎士に指示を出しだした。
「ちょっと待ってください。」
僕は団長に声をかける。そこではじめて団長は僕の横にいる魔狼に気が付いたようだった。
まぁ、この状況であれば外にしか注意が向かなくて当たり前か
「な・・なんだその巨大な狼は?!」
「僕のペットだと思っていただければ・・・といっても今召喚したばかりなんですが、どうも、かなりの強さみたいなんです。どうせなら、ちょっと僕に任せてもらえませんか?」




