6.夜襲 再び2
時は少し遡る。
「昨日の奴らは、ちょっと厄介だったな。おかげで消耗しすぎた。」
ディーン副団長が予想した通り、高位の野獣調教師であるヴァルザンにとっては、一角狼が駒の一つに過ぎない。ただ、だからといって簡単に消耗して良いかというとまた別だ。
なにしろ、野獣を補充をするにはその群れを見つけて、テイムしなければいけない。
魔物や野獣というのは、意図しない時に襲ってくるが、狙って探すとなると土地勘や経験が必要になる。
いくら高位の者であっても地元ではない彼にとって、見ず知らずの森や魔境に入って、狙った野獣を探すのは手間がかかるのだ。
しかも、森に出てくるのは、野獣だけではない。ゴブリンやオークなどの人型の魔物は彼にはテイムできないのだ。
とはいっても、彼の手駒はもう一角狼が4匹しかいない。流石に昨日の流れでは戦力不足は否めなかった。
だが、彼は今日もあの小隊を襲う予定にしている。
一気に壊滅させる必要はない。できれば馬を狙い、さらには精神的に追い込むのが目的になる。
昨日の隊は馬をすでに2頭は失ったはずだ。そのため、かなりのスピードダウンしているだろう。
さすれば、中継地点まであと2回は襲うチャンスがある。焦ることはないのだ。
「おっと・・・これはついているな。」
森をしばらく捜索していたヴァルザンが森で探し出した魔物を見てつぶやいた。
甲高い金切声のような咆哮が森に響く
現れたのは、背は2メートルほどの獣脚類と言われる魔物であった。
頭から尾っぽまでの長さは、6mほどだろうか。頭は流線形で身体に対しては小さく、鋭い歯を見せている。発達した前足は、長い指が三本付いていて大きな鉤爪を持つ。
彼らは、前足を手のように扱い2足歩行するのだ。
”ユート・ラプトル”
野獣というより魔獣と一般的にいうが、彼にとってはテイムできるかどうかでしかない。
そして、獣脚類は高位の野獣調教師であるであればテイムが可能であり、力量的には少なくとも一角狼5体よりも強いだろう。
ヴァルザンは、テイムに必要な術式を素早く組むとユート・ラプトルに向かった。
・・・・
夜襲がある可能性が高くとも、いつ来るかという予測は難しい。
結局、見張りの当番は、昨日より人数を増やし2交代で行うことになった。
もちろん、アウロスもフル稼働になる。
ただ、昨日と違うことが2つ。
1つは、馬を馬車で囲むようにして保護し、馬車を囲むように人を配置したこと
もう1つは、”暗視”を見張りの人たちにかけたことだ。
今まで試したことがなかったのだが、”魔法”であるので、他の人にもかけれるのではないかと思ってかけていたら成功したのだ。
”暗視”をかけられたエリックや騎士達の驚きは、なかなかのものだった。
”暗視”というスキルはあるらしいが、魔法はあまり聞いたことがないらしい。
しかし、これで見張りの能力が格段に上がるだろう。
僕は、”闇の癒し”をかけて休む。
相変わらず、僕は見張りを免除されたからだ。
ちなみに、試してみたが、”闇の癒し”は他の人には発動しなかった。
”ご主人、起きて”
アウロスから念話が届く。やはり来たか。
「起きて!」
僕は、直ぐに周りで寝ているエリック達を起こすと、念のため”暗視”を再びかけなおす。
その間にも、アウロスからの情報は届いている。
”敵の数は、昨日と同じ狼が4。その奥にちょっと大きな奴が2。さらに離れて人間が1だね。”
僕は、ディーン副団長にそのことを伝えると、騎士の皆さんを集めてもらう。
「数は減ったが・・・大型か。まぁ、心配するな。アーディル君の魔法のおかげで、夜なのにしっかりと見える。所詮テイムできる魔獣。見えてさえいればどうということはないさ。」
そうやって剣を抜いて敵を待ち構える。
実際、駆け出しでもない限り、昼であれば一角狼など冒険者や騎士にとっては、さほど強敵ではない。
ティアさんも既に”火球”の詠唱をしているし、僕はいつでも”火線”を撃てる状態になる。
”来ますよ”
「来ます!」
そういった瞬間、岩場の向こうからとともに、二回り以上大きな魔物が2体飛び出してくる。ユート・ラプトルだ。
高さ自体は、人より少し高いだけだが、跳躍し走る姿はそれ以上の大きさに見える。
暗闇に浮かぶ長い尾はピンと伸びており、鋭い歯の生えた口を開けて叫ぶその姿は、かなりの威圧感があった。
「しまった。」
ティアさんは、一角狼の一匹を”火球”を直撃させ怯ませるが、
その叫び声に委縮をした僕は、”火線”の初撃を外してしまう。
この辺が、冒険者としてのキャリアの差なのだろう。
飛び掛かってくる一角狼に対して、僕は杖代わりに使っていた槍で打ち払う。
そして、怯んだところを一突き。
これでも棒術には自信がある。獲物が槍になったところで共通する項目は多い。
だから学園では剣術ではなく棒術を教える。極端な話、鋤や鍬だって柄の部分は棒なのだ。
それでも、一角狼は立ち上がろうとするが、かなりの血を流していることもあり足元がふらついている。
僕は、さらに深く突き刺すとその状態で”火球”を使った。
細かい魔法制御をほぼしていない素の”火球”だ。
瞬間、一角狼の腹が爆ぜた。肉片が飛び散る。
ちょっともったいないし、汚れたが今はそれどころではない。
<槍術のレベルが上がりました。>
その横では、セドリックがティアさんが火球を当てた一角狼にとどめを刺していた。
「くっ。手ごわい」
エドガーやディーン副団長達は、ユート・ラプトル相手に苦戦をしていた。




