5.夜襲 再び1
とりあえず、夜明けまでに再度の襲撃などはなかった。
あれから、しばらくは最低限の後処理をして、後半の見張りを少し増やして対策をする。
その分、緊張する時間が増え睡眠時間が減ったのだから、1日だけでも結構な疲れ方をしたはずだ。
ディーン副団長はともかく、他の騎士の人の顔には疲労が隠せていない。
見張りを免除してもらったお返しというわけではないが、僕は、手早く朝食を作って振舞った。
とはいっても、一角狼の肉を乱切りにして、薬草の原料のペーストを塗りこみ、弱火で焼いただけだが、かなり旨そうだ。
やはり干し肉とクズ野菜のスープとは随分やる気が違ってくるだろう。
普通は、肉を焼くのは薪などに火をつけて焼くのだが、僕は魔法で直接炙った。
これまでの授業でやってきた地味な訓練が活かされていた。魔法制御力LV5は伊達ではないということだろう。火力を極力まで落とし、効果時間を長く続くようにした火球を少し離れた地面に撃って調理をする。
そう、火線と真逆に近い制御をしたみたのだ。
もっとも、LVアップ分の効果を見誤って、一回目は火力が強すぎたが。
「さて、幸い人も物資も損害はなかったが、馬2頭が減ってしまった。
補充が可能な宿場町まではあと2日はかかる。さらにその後の工程も考えると、馬車や補給物資の破棄は極力避けたい。」
ディーン副団長が朝食を食べながら話をする。ちなみに、朝食はすこぶる好評だった。
「いろいろ考えたのだが、悪いが、1つの馬車の荷物を分散し、1頭立てで荷物を運び、その間交互になるが徒歩での移動をお願いしたい。」
そう切り出してきた。確かに、1台は僕達が乗っているだけだったのだから、降りて荷物を動かせば対応は可能だろう。
「まぁ、俺達は普段徒歩も多いから、問題ない。」
馬車であろうとも、荷物を載せて動けば、ちょっと早い徒歩程度のスピードでしか動けない。
無理をすれば、それ以上で走れなくもないが、車輪が壊れてしまうだろう。
”疲れる”こと以外は、問題はない。
「そのことなのですが・・・・」
そういって、僕はある提案をした。
それを聞いてエリック達も含めてと全員が驚愕をする。
「そんなことが、可能なのか?」と。
・・・・
結果として、馬車は2頭立てが1つと1頭立てが2つで行くことになった。
これは、ディーン副団長の提案通り。
異なるのは、代わりに誰も歩いていないことだった。
僕の提案は、単純かつシンプル。
1台の馬車に載っていた荷物をすべて僕が収納することだった。
そして、僕とティアさんが、荷物のあった馬車に移ることで、1頭立てでも十分馬車を引くことが出来るようにしたのだ。
「最近、あなたには驚かされっぱなしね・・。B級クラスのパーティーならいざ知らず、普通の冒険者や商人じゃそこまでの容量を収納できはしないわよ。」
話を聞くと、本当にごくごく上位のパーティーには運び屋という役割を担う人がいる場合があり、その人達ならこれぐらいの容量を運ぶことが出来るらしい。
ちなみに、冒険者のランクというのは、SからGまでの8ランクで冒険者ギルドが依頼する依頼の達成状況や試験によって決まる制度で、このランクによって受けれる依頼などが変わってくる仕組みだ。
Bクラスというと上から3番目のだが、これはかなりの上位の冒険者になる。
大抵は、”二つ名”を持つ有名人であることが多い。まぁ、他称だけではなく自称も含まれるが。
エリックとティアさんはDランク、セドリックはEランクの冒険者。ごくごくありふれた”一般”の冒険者ということになる。
余談になるが、シド兄は封魔紋をもっているから、Fランクからスタートしているはずだ。
そして、多くの場合、依頼はパーティーで受ける。その場合は、各ランクの平均値がパーティーランクになる。ただし、切り上げ制なので、エリック達はDランクパーティーになるらしかった。
「これも、前に説明した魔力のトレーニングの成果です。」
と適当にお茶を濁しておいた。
そのあとは、ティアさんと一緒に魔力のトレーニングのために瞑想するのだが、馬車が揺れるので、お尻が痛かった。
・・・・・
順調に2日目の工程を終了し、野営と食事の準備をする。
夕食は、肉は肉でも犠牲になった馬の肉だった。これは、、一角狼と同じ赤身の肉だが、脂が適度に入っていて旨かった。
「さて、見張りだが・・・」
「あの・・・すみません。」
ディーン副団長が話す前に失礼かと思ったのだけれど、伝えておいた方がいいと思って僕は発言した。
まずは、皆の前でアウロスを召喚して見せる。
「こいつは、アウロスという僕の・・・そうですね使い魔みたいなものです。」
エリック達には昨日見せていたが、ディーン副団長にはまだ説明していなかった。
ディーン副団長は、口元が「ほぅ・・」となっているが、すでに驚きなれて来たのか目を細めるだけだった。
「この子は、見た目どおりというか”夜目”がすごく聞きます。もちろん人の言葉をしゃべったりは出来ませんが、僕には大体の情報を共有することが出来ます。」
ディーン副団長は、真剣な目で頷くと発言を促す。何か察してくれたようだ。
「それで、昨日の襲撃なのですが、不審な点が2点ありました。
1点目が襲撃時に一角狼の後ろに人影がありました。
そして、撤退時に”犬笛”が吹かれたようです。僕には聞こえませんでしたが・・・」
これを聞いたディーン副団長は、流石に驚いたようだ。
「なるほど・・・。これは、不味いかもしれんな。」
そういうと、しばらく考え始めた。
「おそらく、今晩も襲撃がある可能性が高い。
最近他の補給部隊で同じようなケースがあったのだが、その時も魔物の夜襲が連続して2回受けて馬を失い隊が瓦解してしまっている。人的被害もほぼなかったので、その時は不運が重なったと思ったが・・・。」
ディーン副団長もどうやら今回の襲撃が人為的なもの・・・おそらくアルキラ帝国の妨害工作だと考えたようだ。
「しかし、そんなことって可能なんですか?」
「野獣調教師というスキルがあるにはある。
獣の類を配下にして、様々な命令をすることが出来るスキルだな。
1~2匹程度ならそう珍しいことではないが、昨日は少なくとも6頭はいたからな・・・。」
「しかし、昨日で結構始末できたんじゃないか?」
エリックがそう言うが、ディーン副団長は首を横に振る。
「できれば、そうあってほしいが、油断は出来んさ。
おそらく、しょせん一角狼は只の駒だ。倒されても、別の魔物をテイムすればいいだけだからな。」
読んでいただきありがとうございます。




