7.撃退するも・・・
野獣調教師ヴァルザンは、忌々し気に歯ぎしりをする。
その右腕は、雑に汚れた包帯で巻かれている。
ユート・ラプトルをテイムする際に負傷したのだ。
「昨日のは、まぐれではないか。予想以上に粘る。」
”暗視”のスキルで遠目に見る限り、ユート・ラプトルは相手を一方的に押しているが、かといって被害を与えているかといえば、そうではない。細かい傷などは与えているが、騎士達に防がれてしまっている。
一方、一角狼は既に3匹が倒されてしまっている。
それにしても、相手の動きがいい。
たかが輸送部隊と甘く見すぎたか。ヒット&アウェイで暗闇から襲い掛かる一角狼の攻撃をまるで見えているかのように捌くうえ、2匹のユート・ラプトル相手でも全く怯まない。
「しかたない。不本意だが今日は引くか・・・」
ヴァルザンは、懐から小さな金属の笛を取り出すと、力強く吹いた。
しかし、何も音は聞こえない。・・・・人間には。
僕は、ユート・ラプトルに火線を何発も撃っていたが、身体の大きさの割には動きが素早く、急所に思うようなところにあたらなかった。
火力を集中させている分、攻撃範囲が狭いのが欠点だ。
それでも、時折咆哮をあげて、こちらに向かおうとするが、それをディーン副団長がうまく遮りつつ攻撃を行う。致命打には程遠いが、ユート・ラプトルの気を引くには十分だった。
”ご主人。また犬笛が鳴りました。”
アウロスからの念話が届くとほぼ同じタイミングで、一角狼とユート・ラプトルは大きく吠えると脱兎のごとく後ろに駆け出した。
流石に、予想外の急な反転にディーン副団長をはじめとする騎士も対応できなかった。
「な・・なんだ?!」
「犬笛がなったようです。おそらく撤退の合図かと・・・。」
アウロスの報告でも、魔物たちが離れていくのが確認できている。
例の人影は、一角狼に騎乗して逃げたようだ。
間違いなく今晩の再強襲はないだろう。
しばらく暗闇を見つめた後、僕は糸が切れたように座り込んだ。
「ふぅ・・・。皆さん無事ですか?」
「ああ、多少のケガはあるが、大丈夫だ。」
「へへ、冒険者をなめんなよ。まぁ、ちょっとビビったけどな。」
「こちらも無事です。馬や荷物にも異常ありません。」
「よし、疲れたろうが、気を抜くなよ。」
ティアさんが、回復魔法をかけて傷を癒していく。
ただ、回復魔法では疲労は獲れない。それは魔法薬でも同じことだ。
ディーン副団長はともかく、騎士の皆さんはかなり疲労しているのがわかる。
日中は御者として、夜は野営の見張り。ここまではともかく、2日連続での夜間の戦闘。
宿場町まではあと2日。もう1日は野営をしなければならないのだ。
昨日は、一角狼だけだったものが、今日はユート・ラプトルが2体追加された。
1対1では確実に自分達の手に余る魔物だ。
実際に、ヴァルザンにとってユート・ラプトルはテイムできる野獣の中でも最上位の存在なのだが、それを彼らが知るよしもない。明日も襲撃がある可能性を払拭できないし、さらに強い魔獣の類が襲ってくる可能性もあるのだ。精神的な疲労は想像に難くない。
まずいのはわかるが、僕には打つ手がなかった。精々見張りのローテーションに加わるぐらいだろう。
とりあえず、一角狼の死体を収納すると、その旨を伝える。
ディーン副団長は最初断ろうとしたが、エリックに言われたあと騎士の顔を見て思い直したようだ。
「すまん。」
そういうと、ローテーションに僕を追加し、騎士の皆さんを休ませた。
・・・・
翌日の朝職も馬肉を炙ったものだった。
こういう旅にしては豪勢だが、だからといって疲労がとれるものではない。
「これでも、アーディル君のおかげで荷物も馬も最小限の被害で済んでいる。
思ったよりも、厄介な相手だな・・・。」
「相手は、おそらく一人なんですが・・・」
「まぁ、アルキラ王国の間者だとすれば、それぐらいの力はあるだろうさ。
どこから紛れ込んだか知らんが・・・。」
国境は砦や城塞都市を除けば難所ばかりだ。それを超えてきているのだからそれなりの力量はあるのだろうとのことだ。
しかし、何か手をうたないとまずいな・・・。




