2.装備を新調した。
「君が、アーディル君か。
すまないな。君のような子供を前線になる可能性のあるようなところに呼んでしまって。」
そういって、握手を求めてきたのは、40代半ばの精悍な騎士であった。
名前は、ディーンというらしく、補給部隊の副隊長だという。
補給部隊というのは全体で100名程度の組織であり、通常は5人の小隊もしくは10人の中隊で行動を行うのが常らしい。ディーンは当然副隊長の職にあり、一般には小隊や中隊を率いることはほとんどないらしいが、今回は学園に無理を言った手前、自身が小隊を率いるとのことだった。
これに、冒険者ギルドの護衛任務で数名を依頼しているらしい。
「やっぱり、アーディルか。」
そういって、待ち合わせ場所に来たのは、エリック達だ。
どうやら、エリック達は、依頼内容を聞いて、もしかして・・・と思って護衛任務の依頼を受けたらしい。
「まぁ、俺達もちょうどザッカートかシモンの砦かには行こうと思っていたからな。
で、ついでで何か面白い依頼でもないかって見てたら、この話があったもんでよ。」
「アーディル君、君、ちょっとした噂になってたわよ。
シド君だっけ?彼が大事に使っていたポーションの質が駆け出しの冒険者が使うにはすごく高かったらしくって。聞けばあなたの名前が出たもんだからびっくりよ。
おかげで、第二学園産の魔法薬は人気になってたしね。」
ティアさんとセドリックももちろん一緒だ。
「なんだ、知り合いか?」
「ええ。僕の剣の師匠とでもいうんでしょうか・・・」
エリックが、柄にもなく少し照れた。
「まぁ、それなら話は早いな。ザッカートまでは七日の行程の予定だ。
途中は、一か所は町に寄れるがあとは基本野宿となる。ああ、アーディルのためのテントなどはこちらで用意するから心配ない。エリック君達は、悪いが自分達で用意をお願いする。」
「オッケーです。護衛は慣れているので。」
「うむ。食事は基本こちらで提供するが、備蓄優先の補給部隊だから、あまり贅沢なものは出せない。もちろん持ち込みは歓迎だ。」
そういうと、ディーンは、歯をニカッとみせてサムズアップした。
強面だけれど、結構気さくな人なのかもしれない。
「出発は、明日の夜明けとともに街を出る。集合は城門前の広場だ。いいかな?」
『はい。』
こうして、僕達はザッカートに向かうことになった。
・・・・
「ねぇ、エリック。この後時間あるかな?」
「どうした?」
「いや、ちょっとまとまったお金が入ったので、装備が少し欲しくって。
でも買ったことがないから、何をどこで買ったらいいかわからないんだ。」
「装備っつっても結構するぞ。予算はいくらだ?」
「うーん。50,000コルぐらいかなぁ・・・」
「なに?!」
50,000コルは、家族4人で贅沢をしなければ3ヵ月は暮らせるお金になる。
とてつもない大金ではないが、孤児院出身の学園生が持っているお金ではない。
「いや、魔法薬製作の報酬を学園からもらったんだよ。
最近、そればっかりやってたから・・・」
「魔法薬って儲かるんだな・・・・」
嘘ではない。もっとも最近ザンビーニ先生からもらっただけで100,000コル近くあったし、それまでに貰た分も含めると、財産は200,000コル近くあった。
大金持ちではないが、貧乏というわけでもない。
命を守るものをケチってはいけないが、装備の値段は本当にピンキリだ。
シド兄が冒険者になるときにそろえた装備は、槍に革鎧と小型の盾に靴まであわせて20,000コルいかないぐらいだった。
かと思えば、たった一本で100,000コル以上する剣もざらにある。
「まぁ、それだけありゃぁ一通りは買えると思うが、何が欲しいんだ?」
「えっと、まずは槍。できれな金属製のものでサイズは学園で使う棒と同じぐらいのやつ。」
「うん。最初の選択としてはいいな。剣・・・といいたいところだが学園では棒術を習うし、槍はリーチの面でも使いやすいからな。」
それに、剣よりも膂力が少なくても十分な威力を出しやすいのも槍を選んだ理由だ。
剣を教えてくれたエリックには悪いが、僕はいくら体が大きくとも鍛えた大人には筋力では敵わないだろうから。棒という選択肢もないわけではないが、やはり殺傷力に問題がある。
「それから、鎧と靴ですよね。できれば丈夫で軽い物がいいです。」
「まぁ、最初は革鎧と革靴だろうな。」
「あとは、盾に兜、キャンプ道具も一式でしょうか?」
「なるほど。本当に一式か。駆け出し用の中古品や廉価品よりはましな物はそろうかな。」
こうして、僕はエリック達に頼んで装備を調達した。
槍は、いわゆる鋼の短槍で、切っ先には一角狼の鋭い角が付けられていた。一角狼の角は、討伐証明部位であると同時に、鋭いうえに鋼よりも固いなどの特徴があり、優秀な武具などの素材になる。
もちろん、それを上回る素材も沢山あるのだが、駆け出しのもう1ランク上の装備だった。
長さも学園で使っていた棒より気持ち長いぐらいで、軽く振り回したり突いてみたが重さも含めてばっちりだった。
<棒術の派生として、槍術のスキルを獲得しました。>
鎧は、魔物の皮でできた革鎧を、蜥蜴人の鱗で補強をしたものを選んだ。これも駆け出しよりは1ランク上の装備だ。
実際に、この二つで既に4,000コル。予算の大半を使ったが、エリック曰くこの二つは妥協してはいけないらしい。
実際、革靴は標準的な物を選んだし、盾は中古の小型の木盾、兜にいたっては、申し訳程度に額の部分に、金属が薄く張られた円柱の形をした魔物の革の帽子だった。
革靴は消耗品であり、盾や兜は最初のうちは扱いづらいらしくこれで先ず慣れた方がいいということらしかった。
そして、最後のキャンプ用品は、大きめの毛布1枚に水筒。
これだけだった。
「ほとんどちょうどだろう?」
確かに、合計は49,892コル。見事という他はない。
「ありがとう。でも、キャンプ用品とかってこれだけでいいの?」
「まぁ、今回は騎士団が用意してくれるって言ってたしな。
それに、アーディルは火は魔法でなんとかなるんだろ?
一番困るのは、火と水なんだ。あと、少し余裕があれば『冒険者の小剣』を一本お勧めする。ただ、ちょっとお値段がはるのと使い方の教習を受けないと宝の持ち腐れだからな。
今回はパスした。」
そういって、腰につけている刃渡り15㎝程度のナイフを見せてくれた。
刃は厚く、刃背に鋸刃がつき、柄の底が広くなっている。
「これ一本で、魔物の解体の他、調理、藪払い、ロープなどの切断、杭などの打ち込みなどができる。
戦闘にはあまり向いているとは言えないが、素手よりはましだ。
一人前の冒険者になると必ず1本は持ってるもんだ。」
「値段は?」
「まともなのは一番安くて、5,000コルだな。それ以下のは止めといたほうがいい。」
「それなら、一本買っておくよ。選んでもらってもいい?」
「まだいけるのか・・・あまり無理するなよ?」
「まぁ、向こうに行くのも依頼だから報酬がでるみたいなんだ。だから大丈夫。」
追加で『冒険者の小剣』を買うと、一緒に食事にいってごちそうになった。




