32.僕の封魔紋
Sクラスの授業は最初は、しばらくAクラスと合同で行うらしい。
というのも、そもそも上期のSクラスというのはそれぞれ10人も満たないらしい。
実際、体力は9人、学力は8名しかいない。しかも僕以外は全員3年生だった。
しかも、今年はフェンリル寮からは僕しかいないらしく、ほとんどの人が初めて話すような人だった。
「君が、”あの”アーディル君だね。」
「どのかはわからないですが・・・。僕がアーディルです。」
少し、こまったような表情をしていたような気がする。
話しかけてきてくれたのは、ガルフォード先輩。フェニックス寮の3年生だという。
「ほら、困っちゃってるわよ。」
そう言ってきてくれたのは、スノウ先輩。ペガスス寮の先輩だ。
この二人は、体力も学力もSクラスといういわゆる学園の優等生だ。
まぁ、その基準だと僕も優等生になるのだが、ちょっと実感がない。
「いやいや、君は有名人だからね。2年の上期から両方Sランクなんてのもそうだけれど、試験免除なんて聞いたことない。それに、新種の魔法薬の開発に成功したとか、悪霊につかれたとか、オーガを倒したとか、変わったもんを食うとか噂に事欠かないよ。」
間違いじゃないけれど、ちょっと尾ひれがついているような気もする。
「まぁ、嫉妬半分、興味半分ってところかしら。」
そういったスノウ先輩は、この年にしてはえらく大人びた感じのする女性だった。
華奢なように見えるが、女性ながら体力Sなのだから、見た目通りではないのだろう。
一方で、ガルフォード先輩は、見るからに引き締まった筋肉をしていて、学園生にはもう見えない。
「まぁ、そんなに緊張しなさんな。
アーディル君は、これから封魔紋の授与があるんだろ?
リラックスしておかないと、結構きついぞ。」
「そうねぇ。あれ結構きつかったわねぇ。」
どうやら、二人とも既に封魔紋を持っているらしい。
そう、今日は体力Aランク以上に与えられる封魔紋の授与だ。
既に、少人数ながら封魔紋を持っている人は、フォローにまわるらしい。
今回の授与は僕も入れて40人弱。毎年半数近くは動けなくなるらしい。
確かに、オーガの時に森に行ったのは、これが原因だった。
一応、安全性は確認されているとはいえ、封魔紋とは人工の魔法寄生生物なので、封魔紋を宿すかどうかは任意・・・というか宿すことに証文をとる。
それでも、それを望まない人というのはいないらしい。
まぁ、学園以外で得ようと思ったら、結構なお金もかかるし、簡単ではないらしいからそうなるのは当たり前かもしれない。
実際、僕も入園からの一つの目標にしていたしな。
封魔紋の技術は、王国魔導省の管理下にあるらしく、魔導省より職員の方が来て実施する。
そして封魔紋の授与は、上級生から順に行うので、僕はほぼ最後の順だった。
聞いてはいたが、半数近くの先輩が気絶したり、明らかに体調が悪くなって倒れこんだりしているのを見ると、流石にちょっと怖くなってくる。
宿主になって、精力や魔力などのエネルギーを吸われるらしいのだが、これに慣れるのに時間がかかるのだ。
ガルフォード先輩やスノウ先輩ですら、やっと槍と盾を収納できるようになったぐらいらしい。
しかも封魔紋の育ち方は、まだ未解明の部分が多いらしく、宿しても使いこなせない者もいるのだとか。
そして、いよいよ僕の番になった。
左手を机の上にのせて、手の甲を魔導省の職員の方に見せる。
魔導省の職員の方は、なにやら魔道具をその上に置き、呪文の詠唱を行った。
他の人と何一つ違わない方法で、この後数秒後に、激しい痛みを感じたり、気絶したりする。
左手の違和感の後、全身を激しい脱力感を襲う。
ふと意識を持っていかれそうになるが、しばらくすると落ち着いてきた。
「はい。しばらく、上手く動けないだろうから、安静にしているように。
左手の甲に、赤黒い色の入れ墨のような幾何学模様が浮かび上がってきたら、それから1週間ぐらいは無理しないようにしてください。」
そう言われて、席を立つ。
「あ、ダメですよ。自分で一人で歩くのは危険です。」
そういえば、皆誰かに支えられるか担架で運ばれていたな。
だけれども、最初こそ眩暈を感じたが、今は特に違和感を感じない。
「大丈夫ですよ。ホラ。」
そういって、軽くジャンプしたら、職員の人は驚いていた。
「流石・・・か。だが本当に無理するな。」
そういって、肩を叩いてきたのが、ガルフォード先輩だった。
軽くたたいただけで、力強さを感じる。
おそらく膂力だけでいけば、アドル先輩達より既に強いのではないだろうか。
有無を言わさずに、僕は担架に座らされて寮に運ばれることになった。
封魔紋の授与をした人は、安定するまで授業は免除らしい。
・・・
その夜、僕は夢を見た。
赤子が僕の中で泣いている夢だ。
しかし、その赤子をまわりから薄い影が覆いだすと、徐々に闇が深くなっていく。
それが赤子を包み込むと、徐々に泣き声が小さくなり、跡形もなく消えていった。
あまり気持ちの良いものではないが、なにか意味のる夢のような気がした。
「シャナ!」
闇といえば僕に宿った精霊”シャナ”が浮かんだ。
「なんじゃ。こんな夜更けに。」
シャナはそういうが、相変わらず本を読んでいたようだ。
僕は、夢の話をすると、シャナは何をいまさらといった様子で答えた。
「それは、封魔紋がお主に喰われたということが見えたんじゃろう。
封魔紋というのは、寄生する魔物の類じゃろう。
精霊たる我を喰ってしまうようなお主に寄生なんぞできんわ。
一瞬で、喰ってしまったに違いないわ。」
「もしかして、シャナが喰ったの?」
「いや、我にはそのような力はない。アルの力じゃろう。ギフトとかいうたか。
あれは、我よりも上位の力のようじゃしな。」
一瞬、シャナが喰ったのかと思ったがそうではないようだ。
しかしそうすると・・・・
「そうすると、僕は封魔紋は宿せないってこと?」
「当たり前だ。だが心配せずともお主は封魔紋とやらの能力も喰っておるからな。
寄生などさせずとも、自然と能力を使えるようになるさ。」
「ど・・・どうやって?」
「それは、我にはわからん。が、我と同じように問いかけてみてはどうだ?」
問いかける・・か。
シャナを呼ぶように問いかけるが、名前もわからないし、どうすればよいのだろうか・・・
そう思っていると、自然と頭の中に知識が溢れてくる。
まるで、昔から知っていたかのように・・・。
この感覚は、ギフトを得た時に似ている。
僕はなにやらすごい力を手に入れたようだ。




