31.卒業する者と進級する者
下期は、ほとんどが魔法薬の作成と”闇魔法”の習得に時間を費やした。
もちろん、朝は棒術をはじめとした鍛錬もしてはいたが、力のかけ方が違った。
魔法薬は、半ば強制的に。そして、”闇魔法”は覚えるのが難しかったので時間がかかったのだ。
覚えた”闇魔法”は3つ。
1つは、”暗視”。暗闇でも普段とかわらないように視界を確保できる魔法だ。
スキルや他の魔法でも暗闇で視界を確保できるというものはあるが、それらは、わずかな月光などのわずかな光でも視力を強化する類が多いのだが、この魔法は、闇そのものを操って感じるらしく、本当の暗黒状態ですら見通せるらしい。
2つ目が、”闇の癒し”。
光の少ない夜の間だけ、通常の10倍以上の回復力を得る魔法になる。
ちょっとした切傷などのケガなどなら1~2晩で治ってしまうらしい。
まぁ、ちょっとしたケガなら魔法薬を使うだろうが・・・売るほどあるし。
使っている感覚で言うと、「寝る前にかけると、眼ざめスッキリ」という感じだろうか。
どんなに体力や魔力を使っても一晩経てば回復するような気がした。
3つ目が、”闇の賢者”
3つの中で、最も難しかった魔法だ。
こちらは、自らを守る守護者を召喚するというものだ。
召喚できる守護者は、鴉のような漆黒の翼を持っている一見”フクロウ”
といっても、普通のフクロウではもちろんない。
賢者の名のごとく、危険感知能力と知能が高いらしく、魔法に長けているのだとか。
ただし、こちらも日中はただの”フクロウ”で、あまり役には立たないらしい。
3つとも、使い方を選ぶ魔法なのだが、凄いのは夜であればほぼ魔力消費なしで一瞬で発動できることだろうか。
シャナ曰く、精霊ですら休息は必要らしくもっとも危険な時らしい。
そのため、その休息をいかに効率的に安全にとれるかに年頭を置いた魔法から順に覚えさせたそうだ。
もっとすごい魔法もあるらしいが、僕にはまだ早いらしかった。
・・・・
そうこうしている間に、下期の授業もあと1週間。
3年生は卒業を迎える時期になってきた。
といっても、3年生だけでする卒業式とその後に入寮の時と同じく寮でささやかな宴があるだけだ。
いつも一緒にいてくれたシド兄、寮で同じ部屋のアドル先輩、下期は毎日一緒に魔法薬を作り続けたセドナ先輩など、皆卒業になってします。
本来は、1・2年生はこの時期は昇級テストがあるのだが、僕は特例でSクラス昇格が決まっていたので、少し暇だった。
シド兄は冒険者、アドル先輩は騎士団見習い、セドナ先輩は王国魔導省に行くことが決まっている。
僕もなんだかんだで、あと1年もすれば進路を決めてそれに向かって試験を受けるなどしないといけない。
実は、シャナにもそれとなく相談したのだが、とにかく「誰かに仕えたり、1か所のとどまるというのは止めた方がいい」という返事だった。自分が普通じゃないということを認識しろということらしい。
「失礼な」と思わなくもなかったが、すぐにシャナに諭される。
「”悪霊付き”というのは不本意だが、他人から見たらよく似た状態じゃろぅ。
精霊を内住させてこうして会話できる者など聞いたことがない。
魔石をおやつのように貪り食う者など見たことがない。」
確かに、最近魔石を食べる量が増えている。それは自覚していた。
特に、シャナを宿してから、”闇魔法”を使うようになってからは普通に魔石・・・しかもクズ石よりももう少し質もよく大きさも倍程度の物を飲んでいた。
万一普通の人がそんなことをすれば、中毒症状をおこすだろうが、僕にはなくてはならないものだった。
「アルは、見る人によっては”人の形をした魔物”よ。
今はまだいいが、いずれこのような生活ができなくなるように思うぞ。
まぁ、その魔法薬学の知識だけでも、食うに困ることはないし、それもまた良いのではないか。
ただ、おもしろそうな本だけは、ちゃんと買ってくれよ。」
とひどいことを言われた。
・・・
「本当にお世話になりました。」
僕は、そういうとシド兄にいくつかの瓶を渡す。
「これが傷薬で、こっちが解毒剤。有効期限は、多分1年ぐらい。」
今までも時々、渡していたが、学園卒業後はなかなか頻繁に渡すことが出来なくなりそうなので、プレゼントとして魔法薬を渡した。
一応、”獅子の咆哮”という中堅のクランに入るようだし、よさそうな先輩とパーティーを組むことになったと聞いたので、心配はしていないが、駆け出しの冒険者は無茶をしがちだというから。
「お前も、気をつけてな。最後の1年楽しかったよ。」
「シド兄がいたので、なんとかやってこれました。本当にありがとうございました。」
この言葉は嘘ではない。シド兄がいたから、貴重な体験をいくつもすることができたし、力もついた。
だが、必ず別れの時は来る。
「泣くなよ」
そう言われたが、自然と涙が止まらなかった。
この1年は、おそらく人生で一番充実した1年だった。
食事などの基本的なこともそうだが、授業にしろシャナのことにしろ、いろんなことがあった。
思えば、良く笑うようになったとシド兄に言われて気が付いた。
僕は、この生活を失うのが怖いのかもしれない。
「それが、大人になるっていうことだ。」
そういうと、シド兄は昔のように僕の髪をぐしゃぐしゃとかき回した。
あのころと違うのは、身長ぐらいか。シド兄と僕はもう背が変わらない。
・・・
卒業式が終わって、寮の送別会が終わると春休みになる。
卒業生だけではなく、帰省する人たちが一斉に寮からいなくなった。
1年・・・。長いようで短い期間だった。そして、もしかしたら人生で充実した期間だったかもしれない。




