28.悪霊騒動
アドル先輩に呼ばれて、僕たちも寮の食堂に向かった。
既に皆集まっていたらしく、僕たちが最後だった。
「集まってもらったのは、他でもない。
ちょっとまずいことになってな。今日の授業は全クラス休講になる。
あと、指示があるまで寮からの外出も禁止だ。」
ガードナ先生が説明をする。
「何かあったんですか?」
「ああ。ちょっとな。
冒険者ギルドから依頼を受けて解読していた石板があったんだが、ちょっと取扱いを失敗したらしくて、学園内に魔物を召喚しちまったらしい。
急いで学園に結界を張ったので、まだ学園内にいるはずなんだ。
今、ザンビーニ先生達が対応中だが、いかんせん魔物の情報が少なくてな。
危険度合すらわからんのだ。
というわけで、とりあえずは外出禁止だ。窓もちゃんと占めておくように。」
学園では、遺跡などから発掘された珍しい物が研究目的で持ちこまれることがある。
貴重なものは、王宮魔術院か第一学園に持ち込まれることが多いのだが、ちょっとした物は第二学園に持ち込まれることもあるらしい。
ザンビーニ先生は、王宮魔術院にもいたことがあるらしく、それなりの権威らしかった。
「時々、こんなことってあるんですか?」
「いや、稀にちょっとした爆発事故みたいなのはあるけれど、こんなのは初めてだね。」
爆発事故はあるのか・・・・。
「いや、本当に稀にだし、ちゃんと結界を張ってあるから大事に至ったことはないよ。」
僕の表情をみて、アドル先輩がフォローをしたが、シド兄がそれを台無しにした。
「ザンビーニ先生は、好奇心の塊だからな。熱中すると周りが見えなくなる。
実力は折り紙付きだけれど、大体やらかすのはザンビーニ先生さ。」
・・・
というわけで、今日1日は寮から出られなくなってしまった。
魔物の事は心配だったが、ガードナ先生曰くオーガなどのわかりやすい魔物ではなかったらしい。
小型で素早いという感じだったそうだ。
また、ザンビーニ先生達を襲うというより逃げ出したという感じだそうで、寮にいれば多分大丈夫だろうが、できるだけ食堂でまとまっているようにとのことだった。
「折角だから、この間借りた本でも読むかな。」
最近借りた本というのは、歴史小説だ。
何も、僕だって本を食べてばかりじゃない。
実際の歴史を元に書かれているのだが、おそらくかなり誇張されたりして書かれていて、読んでいて面白い。特に最近読んでいるのは、”光武王”ギュスターブ=ヴェルジラスの伝記だ。
光武王は、武人として有名だが、この伝記が正しければ相当な知略の持ち主だ。
何度も自身の軍以上の数の敵を撃破していくのだが、多少誇張されたところがあるとしてもその実績は目を見張るものがあった。
狭所に陣を張ったり、相手の兵力を分散させたりする策を頻繁に用いているのだ。
「アーディルは、本当に勤勉だねぇ。」
「そんなことないさ。この本、結構面白いんだよ。」
「その本、少し文体が古いから読みにくいだろう?」
ああ、なるほど。あまり気にならなかったが、確かに少し違和感があったのはそこか。
でも、この本は他の本と違って、光武王を異様に神聖化してなくて面白いんだよな。
なんだろう、しょっちゅう悩むし落ち込みもする。すごく人間味のあるように描かれていた。
「ちょっと、トイレ」
流石に、生理現象は止められない。
そういうと、僕は食堂からお手洗いに向かった。
「あれ?」
トイレの前に来た時に、何か違和感を感じたが、周りを見渡してもなにもおかしなところはない。
気のせいかと思い、トイレの個室のドアを開けた瞬間に、真っ黒な影が僕の目の前に現れた。
怒った人の顔のようにも見えるその影は、身の毛もよだつような叫び声をあげた。
一瞬僕の身体が硬直してしまう。
不思議と、時間の流れが異様に遅く感じる。体温が一気に下がって背中に冷たい汗が流れるのを感じた。
何かはわからないが、”良くないもの”であることはわかる。
何か魔法的なものなのか、生理的な反応なのかはわからないが、僕は一歩も動けなかった。
そして次の瞬間、その醜い影が、僕に襲い掛かり、すっぽりと覆った。




