27.事件の予兆
「天才って、いるんだね・・・。」
2週間が経過したころ、セドナ先輩がため息をつきながらそういった。
セドナ先輩こそ、その名をほしいままにしてきたって聞いたけれど・・。
そういうと、
「いや、君はまだ1年生だろう?
それで、僕が苦労して覚えてきた魔法薬づくりをほとんど完璧に覚えてしまった。
嫉妬を通り越して、尊敬するよ。」
「セドナ先輩の教え方がいいからですよ。」
その言葉は、お世辞抜きだ。セドナ先輩は、人に教えるのが非常に上手い。
自分が失敗したところや苦労したところを、注意深く教えてくれるのだ。
そして、それらは文字に書いたり、それを読んで理解することは難しいポイントだった。
それに、僕はある意味ずるいからな・・・。
魔法薬を作れるようになって解ったことだけど、魔法薬は、そこそこいい稼ぎになった。いわゆる傷薬といわれるような低級なものでも簡単に100コルで引き取ってもらえる。
出血毒や麻痺毒用の魔法薬だと500コルももらえた。
しかも、簡単に作れるのに儲かるのが、滋養強壮・疲労回復に効くという通称”赤蝮”という赤い魔法薬だった。値段は300コルなのだが、材料費が安く大量に作れるのだ。
おかげで、僕はクズ石や参考書をしっかりと買うことが出来た。
そう。優先して”魔法薬学入門”の本を食べたのだ。
この本と、セドナ先輩の指導のおかげで、材料が簡単に手に入る魔法薬は一通り作れるようになったのだ。
セドナ先輩も先輩で、僕に教えることで、腕が上がったらしく、ザンビーニ先生からお墨付きをもらっていた。
セドナ先輩は、卒業後は、騎士団の補給部隊に志願して内定をもらっているらしい。
補給部隊というのは、食料はもちろん傷薬などの医療関係などを一括して行う部隊で、派手さはないがこの部隊無くして騎士団の活躍はないといっても良い部隊だ。
実際に、兵法の中に相手の補給線を絶つというものがあり、戦争になった場合には狙われることもあるので、意外と武に長けた者も多いのだとか。
「僕の父は、既に引退したけれ下級の騎士でね。シモンの砦にいたんだ。」
シモンの砦とは、ヴィルジラ王国と隣接するアルキラ帝国との国境にあるヴィルジラ王国の砦の一つだ。
過去に何度か戦場になったことがある場所であり、その高い壁とそこから発射される”古代龍の息吹”と呼ばれる戦術級魔導兵器は、ヴィルジラ王国の勝利の象徴であると同時に、アルキラ帝国にとっての復讐の対象になっていた。
アルキラ帝国というのは、国力に対して軍事力の割合が突出した軍事大国であった。
ヴァルジラ王国が学園などの設置による技術の開発・伝播、街道の設置による経済交流などの商業や、肥沃な大地による農業・林業が盛んであった一方で、アルキラ帝国は豊富な地下資源と魔物、すなわちそれを狩ることによって得られる魔石による工業が中心に発展してきた国だった。
しかしながら、アルキラ帝国はもともと土地が痩せていたことから、食料事情が良くなく、その解決のために得意な工業・・・すなわち武器などの生産などに力をいれていくことになる。
自然と、アルキラ帝国は皇帝率いる軍隊による武力統合によって巨大な国となってきた。
ヴィルジラ王国が商業とその経済発展のための吸収合併を繰り返してきたのとは対照的であった。
難攻不落と言われたシモンの砦であるが、だからといって安全な場所ではない。
なんども帝国の侵攻を受けており、多くの騎士や兵士が命を落としていた。
もちろん、それ以上に帝国の命を刈り取っているのだが、
「父さんが、シモンの砦で生き残れたのは、補給部隊のおかげだといつも言っていたんだ。
いくら戦術級魔導兵器があろうと、それを動かす魔石がなければ打てないし、いくら優秀な騎士がいても、腹が減っては戦は出来ない。そして、後ろに続くものがいるという安心感があるかどうかで、士気が全然違うんだって。まぁ、前線に立つよりも安全そうだっていうのが一番だけどね。」
・・・・
「この間は助かったよ」
そういいながら、容赦ない一撃をシド兄が打ち込んでくる。
とはいえ、そう簡単にはやられるつもりはない。
一気にバックステップで間合いを散ると、仕切りなおす。
下期になってからも朝練はシド兄と一緒だ。
シド兄は卒業後は冒険者になるつもりだから、鍛錬を欠かさない。
僕も、できれば早く封魔紋は欲しいし、単純にシド兄と鍛錬するのは楽しかった。
助かったといわれたのは週末に傷薬を渡したことだろう。
売るのは100コルでも、買えば200~300コルはするらしい。
そうこうしていると、アドル先輩が急いで僕たちを呼びに来た。
「ああ、よかった二人とも。
急いできてくれ。ちょっとした事件だって。」




