19.下期授業開始
夏期休暇は、結構すぐに終わってしまった。
それは、僕だけではないらしく、帰省していた者達にとっても。
レオンなどにしても、実質滞在期間は1週間しかない。
往復は、旅だし、その半数は野宿になるのだから、新学期あけての皆は、ぐったりしていた。
僕は、アルバイトと読書に明け暮れた生活を送っていたのだが、かなり読書に夢中になったため、少し寝不足だった。
「アーディル。元気だったかい?これ、孤児院の人たちから。」
レオンはそういうと、1通の手紙を僕に渡してくれた。
中には、孤児院の皆からの応援の寄せ書きが書かれていた。
「お、懐かしいな。俺の時も、そんなのもらったな。覚えているか?」
「うん。覚えているよ。でも、もらう立場になると、嬉しいもんだね。」
「ああ。ちゃんと返事を書いてやれよ。」
シド兄が、僕の肩を軽くたたく。
昔は、頭をくしゃくしゃにされたが、今では、シド兄と僕はほとんど背が変わらない。
「そういえば、クラス分けはもう見たのか?」
「いや、まだだけど。シド兄は?」
そう言うと、シド兄はサムズアップをして、満面の笑みを浮かべた。
「学力はなんとかBランク。体力は念願のAランクだ。
これで、かなり有利な条件でクランにはいれる。」
クランは、冒険者の集まりで、報酬の一部をクランに入れる代わりに、パーティーを組んだり、装備の共有化を図ったり、依頼に必要な情報収集などをする共同組織のことだ。
大きさや役割は様々で、数人から数百人の規模まである。
上位のクランになると、ギルドから直接大きな依頼がもたらされたりするし、報酬も優遇されるらしい。
「シド兄は冒険者になりたいんだ。」
そういうと、シド兄は大きくうなずく。
「やっぱり孤児っていうのは、良くも悪くも・・・な。
誰かに使えるってのも柄じゃないし、色々アルバイトをしてみても、それが合うような気がしてる。」
僕にあわせて、色々なアルバイトにつき合ってもらったけれど、シド兄もしっかりと進路を決めていたんだな。
「アーディル!すごいよ。両方ともBランク昇格してる!」
僕が掲示板を見に行こうとすると、先にレオンが走ってきて結果を教えてくれた。
「おいおい・・、まじか。」
シド兄は、ちょっとびっくりしているようだ。
後で聞いたが、1年生の下期でBランクに行くのは、1割程度。
だけれど、学力も体力もというと、毎年2〜3名しかいないらしい。
まぁ・・・ちょっとズルしてるからなぁ・・・。
「で、レオンは?」
「体力はEだけど、学力はBになったよ!ちなみに、ボロン先輩も学力はB。皆一緒だね。」
「ちなみに、体力は?」
「C据え置きだってさ。」
僕たちは、和気あいあいとクラス発表を見て盛り上がっているが、一方でこの世の終わりのような顔で落ち込んでいる生徒もいた。
「あまりはしゃぐな。テストの結果は残酷だからな。余計なやっかみをかうぞ。」
寮で同じ部屋のアドル先輩が、小声で話しながら寄ってきた。
アドル先輩は、今回のテストでも体力S、学力Aとトップクラスの成績で、卒業後は騎士を目指して試験を受けるらしい。
「しかし、僕も1年の下期では体力B、学力Cだった。アーディルは優秀だね。」
そう褒めてもらった。
・・・
Bクラスの学力の授業は、生活魔法といわれる簡易魔法の授業を受けることができる。
”着火”や”浄水”、それに”微風”などは、冒険者はもちろん、覚えることが出来れば、それだけでかなり生活がしやすくなる。
火は灯りにもなるし、炊飯にも必須だし、水を安全に飲むには”浄水”が欠かせない。
それに、夏の暑さを軽減するのに、”微風”はあるとないとでは大違いなのだ。
それぞれに対応した魔道具も市販されているが、それなりに値段がするのと、燃料として魔石が必要になる。それに嵩張るのもデメリットだ。
もちろん、魔道具は誰でも使えるうえに、魔力消費が0というものがあるから、一概に魔法が使えれば魔道具は不要とまではいわないが、できる限りは覚えていきたいところだ。
皆、このBランクで生活魔法を覚えることを一つの目標にしてきて勉強に励んできたので、この授業は真剣そのものだ。
ただ、僕には正直つまらなかった。なぜなら、生活魔法と呼ばれるものは既に一通りすべて使えるようになっていたから。
そこで、僕はこの時間を使って、魔力の鍛錬をすることにした。
魔法は、大なり小なり魔力というのは使用する。そして、その魔力の量は有限だ。
ただ、魔力というのは鍛えることができるという事がわかっていて、その方法も。確立されている。
これは、Aランク以降で習うことだが、現在このあたりまでは既に”理解”しているので、簡単に実施が出来る。
鍛錬の方法は主に3つ。一つは、過負荷をかけて自分の限界をあげていく方法。もう一つは、逆に極小の魔力で同様の効果がでるように鍛錬する方法。そして、最後が短時間で繰り返し反復させることで、魔力回路と呼ばれる魔力の循環を良くする方法だ。
この3つは、どれも魔力を引き上げるがそれぞれ働きかける効果が違う。
そのため、三角形の頂点を広げるように、効果が重複するとの研究成果が出ていた。
授業中なので、過負荷をかける訓練は向かないため、僕は極小の魔力での効果を出すことと、短時間でそれを反復させる訓練を行った。
見る人が見ればわかるのだけれど、これは他の生徒には、出力の安定しない中途半端な生活魔法に見える。それでも、習ったからといって、すぐに生活魔法が使えない方が普通なので、「発動しているだけすごい。」というのが周りの人の感想だった。
・・・・
Bクラスの体力の授業では、畑仕事などをする下位クラスとはうって変わって、実戦的な護身術や攻撃などを習う。
周りは、2年生や3年生ばかりで、それなりに体力に自信がある人が多い。
将来は冒険者になりたいという人の他にも、村などの自警団などで必要という声もあった。
そのため、基本はやはり棒術になるが、希望者は剣や斧を使っても良いらしい。もちろん練習用の木製だが。
軽く走った後、組手を行う。
棒術も、かなり練習したので、今では剣よりも多分上手い自信がある。
「はじめ。」
その合図とともに、2年の先輩と打ち合うが、3秒も経たないうちに相手の喉元に棒を突き付けて寸止めをした。
その間、放ったのは3撃。一撃目で相手の棒をうち不安定にさせると、2撃目でその棒をからめとるように棒を回転させ、棒を打ったその反対の端で相手の喉元に棒を突き付けたのだ。
先輩は、何が起こったのかわからず、油断したといって、もう一合わせするが、またもや一瞬で決着がついてしまった。
Aランク試験に受かるシド兄相手に鍛錬をしてきたし、理論はすべて理解しているので、同ランクの人の動きは、隙だらけに見えいた。
3回目の組手も同じような結果になったのをBクラス担任のドバン先生がみて、今度はドバン先生が相手になってくれることになった。
・・・
打ち合いは、1分近く続いたが、流石にドバン先生には勝てなかった。
フェイントに見事に引っかかってしまったのだ。
「こいつは、驚いた。ここまでやれるとは。
A・・・いやSランクでも通用するかもしれん。」
そういってドバン先生は褒めてくれたが、流石というか僕の棒術の欠点も教えてくれた。
「基本に忠実。教科書のような棒術だった。努力の量がうかがえる。
ただ、最後のフェイントに引っかかるあたりもそうだが、素直すぎる。
実戦経験がないからしょうがないが、実際の戦いはこんなに綺麗じゃない。
目に唾を吐かれたり、不意打ちをうけたりする。
アーディルの棒術は、相手が綺麗に対応してくれることが前提になっている。
だから、意表を突いた攻撃に弱い。」
最初は、僕に話しかけていたが、途中からはクラスのメンバー全員に向かって指導していた。
「とりあえず、アーディルの組手は、俺がやろう。
同じクラスメイトでは、組む奴に悪いし、逆に見学するだけで、十分に勉強になる。」
こうして、授業は充実したのだが、体力の授業中は気さくにしゃべれる人がいなくなってしまったのであった。




