10.精霊の正体
激しい抵抗を受けた後、なんとか封魔紋に少女のゴーストを取り込んだ。
取り込んだ瞬間に、夥しい感情の奔流が僕を襲う。
怒り、悲しみ、嘆き、怨み・・・・
少女の声、少年のような声、青年のような声から夫人のような声、野太い男性の声に、しわがれた老人の声。
魂に直接響く圧倒的な怨嗟の声に僕の意識は、一気に押し流されそうになる。
『焦るな。一つひとつの力は小さい。』
色も形もない真っ暗な闇の中に、怨嗟の声に交じってシャナの声が響いた。
魂の世界では、心の乱れはそのまま弱さに繋がる。
そして、その弱さが波を打つかのように僕の心を揺るがしていたのをシャナが指摘したのだ。
確かに、慣れてくれば一つひとつの感情は受け止められないほどではないかもしれない。
もちろん、気持ちのいいものはない。殺された記憶や、何処か暗いところに閉じ込められた記憶、拷問をされている記憶・・・・。まともに見せられ続ければとてもじゃないと耐えられないかもしれないが、一つ一つが、短く断片的で顔がおおよそ人間のものとなっていないなど酷く抽象的なものがあり、リアリティーにかけているものが多かったのが幸いした。
数は多いが、いつものように徐々に相手を『喰う』
『喰う』度に、何かの力を獲得している気はするが、そのために消費するエネルギーも大きい。
その割に、獲得している力も小さい気がする。
その時、一際大きな塊に『食らいつく』
これは『濃い』。以前の炎の精霊よりもはっきりとした力の塊であり、意思の塊だ。
寂しい・・・。私を一人にしないで・・・。
まだ幼い少女の声・・・。おそらくはあのゴーストの少女のものだろう。
これが、この精霊の核・・・孤独を司っている部分なのだろう。
孤独ゆえに、仲間を集める。そして集めれた霊がこの精霊に取り込まれ一つになっていたのだろう。
霊というと怨念や無念などのこの世に強い未練を持った者・・・つまりは怨嗟の正体は浮かばれぬ霊といったところか。
僕は、周りの小さな塊・・・怨嗟の声をあげる霊魂を無視し、一際大きなその少女の精霊だけに意識を集中し、そして吸収していく。
彼女を構成していた力が、僕の中で混じり、溶けていくと同時に力が湧き上がってくる。
激しい感情を包み込むように僕は、その精霊を受け止める。
そして、徐々に彼女の意識が・・・声が聞こえなくなっていった。
『む・・・まずいな。力を吸収したことで船が消え、身体が海に投げ出されておる』
突然シャナの声が響き、頭を何か鈍器で殴りつけられるような感覚に襲われる。
そして、意識を取り戻した瞬間、僕は今度は溺れそうになる。
僕が意識を目覚めさせたのはそう深くはないが海の中だった。
一瞬パニックになって空気を吐き出し、溺れそうになるが、シャナが直ぐに『魔法!』と指示をくれたので助かった。
水魔法の一つ『空気泡』。
比較的初歩の魔法の中でも無類の使い勝手の良さを誇る魔法である。水の中から空気だけを取り出して、顔の周りに集める。それだけの魔法なのだ。
長時間は持たないが、それでも水の中で数分間は陸上と同じように呼吸ができるようになる。
僕の中には少女の周りに集まっていた霊がおり、気持ちが良いものではないが、とりあえずこの状態だけは何とかしなければいけない。
空気も有限だし、なによりもこんな海のど真ん中では生きていけない。
気持ちの悪さを我慢しつつ、僕は海面目指して必死で泳いだ。
そして、幽霊船に激突したこと生じていた木片に捉まると、火魔法を天に向けて打ち上げた。
すみません。私用につき、今週末の投稿はできません。




