8.幽霊船の少女
僕が叫ぶのと同じぐらいのタイミングで、幽霊船の上が騒がしくなってきた。
あわてて、こちらの船に戻ろうとする人たちの頭が急に視界から消える。
「なんだこりゃ!」
「退却!急いで船に戻れ!!」
「ダメだ、間に合わん。海に飛び込め!!」
「こんな装備で飛び込んだら、溺れちまうだろうが!!!」
悲鳴にも似た怒号が飛び交う。
装備の軽い何人かが海に飛び込んだが、旅団をはじめ金属鎧を着ている者達は、そのままではよほど泳ぎが達者でないと、そのまま沈んでしまう。
僕の距離からは、詳しくは見えなかったが、甲板が波打ち、船にあったロープが生き物のように足に絡みついているようだった。そして、そのロープに引っ張られた者が胸を打ち付けるように倒れこむ。
僕が急に消えたように見えたのは、それのようだった。
まるで、幽霊船が仲間を引きづりこむように船倉に向けてロープを引きづりこもうと引っ張る。
それを必死で、剣を甲板に刺してこらえたり、仲間を助けるためにロープを叩ききったりと抵抗をしながら耐えているが、あまり余裕はなさそうだ。これが普通の船員や冒険者だったらひとたまりもなかっただろう。
『早く何とかしてやらんと、まずいのではないか』
『そうはいっても、どうすればいいのさ?』
僕は、聖光を幽霊船に向けて撃つが、手ごたえはほとんどない。
幽霊船や闇の眷属というのだから光属性の魔法が効くと思ったのだが・・・・。
『流石に、そのような初級魔法ではな・・・。光属性は弱点には違いないだろうが、それゆえになんらかの対策はしてあるさ。』
『だけど、光属性の魔法はこれ以外は、回復系しかしらないよ。』
魔法薬を作るのに、回復系の光属性の魔法をつかうことはある。
だが、それ以外は初級の聖光すらはじめて使ったのだから、光属性の魔法に、にこれ以上の引き出しはない。
かといって、まだ仲間がいるなかで、竜撃砲はもちろん爆発で放つのは危険だ。しかも下手に不死人に着火すると、相手の攻撃力をあげてしまいかねない。
「火線」
ぎりぎりまで魔力を集中させることで、燃え広がるのではなく貫通させることに特化したレーザーのような火魔法を放つ。
しかし、ゾンビなどには効くのだが、幽霊船そのものには効果があがっているとは言えなかった。
『しょうがないのぉ・・・。炎の精霊の時を思い出さんか。
これ程の大きな依代じゃ。必ずどこかに精霊の”核”となるものがある。それを探すんじゃ
見つけたら、そこに直接聖光をぶち込んでやれ。』
僕は、ザッカートの近くのダンジョン『太陽の森』で遭遇した炎の精霊との戦いを思い出す。
あの時も確かに精霊には心臓の位置に、珠のような形のものがあった。
そこに、零距離で氷結弾をブチかまして、封魔紋に封じたんだった。
『封魔紋に封じればいいの?』
『気は進まんが、それしか方法はあるまい。あの程度なら、なんとかなるじゃろう。
じゃが、そう何度も使えんし、我も力を使うとしばらく動けんからの。日頃からもっと鍛錬を積んでおくのを忘れんことじゃ。』
どうやら、弱らせて封魔紋に封じさえすれば、シャナが何とかしてくれるようだ。
あとは、『核』がどこにあるかだな・・・・。
『何も球のような形をしているわけではないからの。よう見て感じるんじゃ。核は魂を宿すところ。その象徴で力の源。必ず何らかの特徴がある。』
僕は、聖光で不死人を牽制しながら、幽霊船を観察する。
「どこだ?どこにある?」
そう呟きながら、眼を皿のようにして艦首から艦尾まで・・・・
「ん?あれは・・・・」
そして、僕は気が付いた。
幽霊船の操舵輪の前に、甲板が蠢くのにあわせて明滅する何かを持った少女の様なゴーストがいることに。




