7.幽霊船の正体
ゴーストが現れだしてから、戦局が少し怪しくなってきた。
ゴーストは強いというわけではないのだが、厄介なのだ。
まず、普通の物理攻撃が効かない。僕やデュルゲルさんのように魔力を込めたり、魔法の付与された武器を持つものは対応ができるが、それでもスケルトンやゾンビの様な手ごたえがあるわけではないので、調子が狂う。船員などのもつ只の鉄製の武器では、空を切るだけで対応ができない。
そして問題なのは、空を飛ぶというか空間を超えて現れることだった。
主力が幽霊船に移ってしまっていたので、いきなり現れたゴーストに船員が対応しきれなかったのだ。
ゴーストの甲高い悲鳴が、精神を蝕み、ポルターガイストによって、樽のような物の破片や船員が落とした曲刀などが飛んでくる。
といっても、所詮はポルターガイスト。数が多くなければ、躱すのも弾くのもさほど難しくはない。精神が正常ならば。
そのため、ゴーストの叫び声に慌て慄いてしまった船員の何人かがケガをしたり、躱しそこなって海に落水したりしてしまっていた。
海面から、それなりの高さはあるが、よほどのことがなければ落水で即死するようなことはないだろう。流石に、海の男が泳げないということもないだろうし。だが、暗闇の海に長く放置するわけにもいかない。
海にも鮫のような魔物もいるし、いかに屈強な海の男とて、体力は無尽蔵ではない。
光属性の攻撃魔法・・・。
不死人には絶大な効果があるが、それ以外にはほとんど役に立たないため、僕は光属性魔法を使ったことがなかった。初級のものなら本で読んで知っているが、ぶっつけ本番で効くかどうか。
『聖光』
僕は、拳ぐらいの大きさの光球を掌に浮かべると少し離れたゴーストに向けて打ち出す。
その光球はゴーストを貫通し、そしてしばらくして破裂するようにして眩しく光って消滅した。
貫かれたゴーストは、悲鳴をあげて霧のように霧散をした。
「ちょっと、予定と違ったけれど、効いたからいいか・・・。」
本来の聖光は、目標の近くで破裂した光の粒子によってダメージを与える魔法って書いてあったんだけれど、流石にぶっつけ本番でそこまで上手くはいかないか。
ただ、これならなんとかなりそうだな。
『聖光』『聖光』『聖光ぉぉぉ』
火線ほどではないけれども、初級のものだけあって慣れると連発が十分に可能だった。破裂させる位置もかなりコントロールができるようになってきた。
<光属性魔法のレベルが上がりました。>
『光魔法か・・・。なんとも器用な奴よな。闇魔法の使い手ながら光魔法も使うとは・・・。
それよりもアル、気づいているか?スケルトンやゾンビがまた増えてきている。』
確かに、あれだけ倒したはずなのに、またスケルトンやゾンビが増えているように見える。
船倉から上がってきているのか?
そう思って船に注視しながら聖光を連発し、ゴーストを殲滅していく。
スケルトンやゾンビにも聖光は効くのだが、正直ゴースト以外には効率が悪い。
「あれは・・・・。」
船倉からも吐き出されるように何体もの不死人が飛び出してくる。
自ら上がってきたというような感じではなく、まるで放りだされるかのように甲板に打ち付けられ、そして立ち上がると襲い掛かってきた。
『あれは、船が不死人を産んでおるのだ。
あれでは、倒しても倒してもキリが無いじゃろうのぉ』
『不死人を産む?』
『そうじゃ。あの不死人は、あの船によって死ねない者にされておる。あの船自身に縛られておるのじゃ。どうやら、我が感じた精霊の正体は、あの船自身のようじゃな。』
『船が精霊??』
『うむ。おそらくは、嵐なのか海賊に襲われた船が死体を載せたまま海を彷徨っていとったのじゃろう。おそらくは死した者の強い怨念じゃと思うが、それらの魂が集まり、その依代となった船に精霊を宿したのじゃ。非常にまれなケースではあるがのう。我とおなじ闇の眷属よな。』
『そういえば、シャナも闇の精霊だったね。』
『そうじゃ。じゃが、本来闇自体は何の悪さもせぬものじゃ。闇があるから光があり、闇があるから人々は休むことをする。じゃが、あれは強い怨念にとらわれておる。まぁ、我も封じられて復活した時はあのような物に近かったがの。』
『で、どうすればいいの?何かあるんでしょ?』
『そうじゃな。じゃが、まずはもう少し弱らせねばならん。
それに、あれの上で戦こうておる者達も危険じゃ。今は船の形をしておるが、あれは仮初の姿。はよう引かせるんじゃ』
あの幽霊船が仮初の姿・・・・。
『船の形は、単なる依代よ。あのようなオンボロ船が沈没もせずにこの船に迫ってきておるじゃろう?あれは、船としての力ではなく、精霊としての力よ。すなわち、このまま精霊を弱らせれば、船ごと海の藻屑となるぞ』
なるほど・・・それは不味い。
「このままでは、幽霊船が沈みます!皆さん、急いで船に戻ってください。」
僕は目一杯の声で叫んだ。




