2わ あれ?俺ってヒモじゃね?
ゴッドロープ。
いい加減、自己紹介をした方が良いだろうか。
俺の名前は仕。読み方はつかさ。
名字は言いたくない。
フルネームで呼ばれるとバカにされてる気がするからだ。
ほら、良くあるファーストネームしかいわないアニメとかそういうのあるじゃん?
それにどっかに婿養子にでもつけば…
「事無さーん!事無 仕さんはご在宅でしょうかー?
お届け物ですー!」
…そう、俺の名前は事無 仕。頼むから名前からはよばないでくれ。
そう、心のなかで呟きながら玄関を開けて荷物を受けとる。
目の前のお兄さんが俺のフルネームに気付き、肩を震わせる。
心を読まれたから気づかれたのか?
まぁ、見ればすぐわかるか。
がっでむ。
おいそこ、無職っていうな。
…こっちに住まいを移して大体一月ほど。
こうして彼女の家で自分の荷物を受けとる程度には生活が安定した俺。
急激に変わった俺の日常と常識に順応するのにはそこそこ時間がかかったのだ。
◇◆◇◆◇◆
あの後、彼女が仕事に向かうついでに下界に帰された。
別れ際、ドラマのワンシーンを切り取ったような切ない顔を見せる彼女が
「私の事、忘れないでね?」
と俺の頬にキスをした。
一服盛られてんじゃねぇか、俺?と疑いそうになるぐらいの衝撃が走ったんだが、ここは我慢。
既に2回ほど失敗してる俺達は流石に学んだのだ。
3度目の正直なのだ。
下界に着いた俺はまず、実家に電話をかけた。
今更ながら気付いた事なんだが、何だかんだで一週間も連絡を取っておらず、しかも最後の連絡が「俺、仕事辞めるわ!」だったわけだから普通なら心配するもんだと思ったからだ。
まぁ、心配は杞憂だったんだが。
案ずるより産むが易し。
両親は俺の弟の「まあ、兄ちゃんも旅とかに出ることもあるよ」の一言ですっかり安心したらしく、電話にでたときには「何?家には顔出してくれるの?」位の軽いもんだった。
失踪、自殺、etc...とか考えない?ふつう。
実家に帰ったのだが問題はここからだった。
家族に彼女との同棲を報告すると、家が揺れた。
両親は震天動地の極致で弟は何故か俺に憧れの目線を向ける。
相手がアモラと言う女神だと告げたときには両親は救急車を呼び始めようとした。黄色の方の。
慌てて止めている横で弟は俺を疑うことなく「兄ちゃんが外人をコマした!すげぇ!?」
と眼を輝かせる。
弟よ少し違うんだ。
外人でなくて人外なんだ。
結局、この騒動は休憩中の彼女が様子を見にこちら現れるまで続いたのだった。
◇◆◇◆◇◆
「いつもなら気にしないんだけど…恋人の両親に五体投地されるのはちょっと…」
午後は一時頃、閑静な住宅街の一角、女神様が現れた。
黄色い救急車を呼ぼうとしていた両親に「通神」にてそれを制し、現世にはありえない後光に照らされながら彼女は顕現した。
聖なる衣にこの世ならざる美しく整った顔立ち。
唐突に現れた彼女に疑問を覚えるものはなく、ただ美しくあるものに対しての尊敬と畏怖がこの場を支配した。
…まぁ、アモラがやってきた。
「まぁ…なんというか仕方ないんじゃないか?…ところで止、震えてるようだけど何かあったか?」
「…兄ちゃんすげぇ!?ホントに女神をコマしてる!?」
「こ…コマッ…!?」
「お兄ちゃん、あんまりその言葉は使って欲しくないなぁ…」
というかスルーしようと思ったが誰だ、こんな言葉を教え込んだの。
…ああ、親父か…
◇◆◇◆◇◆
まぁ、こういったやり取りで家族の理解を取り付けたわけだ。
ちなみに、これが面白かったんで別の日に、仕事終わりのアモラに頼んで同じ事をもう一度、友人を集めてやった。
…お陰でその場にいた友人達から他の人たちに伝言ゲームで「事無仕、会社を退職と同時に女神のもとへと殉職する」というとんでもない噂を立てられてしまった。
どう聞いても俺、死んでいる事にされているんだが…
え、どうしよう?
家族には理解を取り付けた方法で誤解を取り付けてしまった。
なぜだ!?
…確かにこれから住むところは一言で言うと「あの世」?なんだろうけどさ?
殉職は尾ひれがつきすぎだろうよ…
とりあえず誤解を解くのは今後の課題として残ったが、家族、友人にも報告したので向こうでの新生活が始まることとなった。
◇◆◇◆◇◆
「と言うわけで新生活な訳なんだが…」
「こう、二人で新しいもの揃えるのってなんかいいね?」
殉職の誤解を解きつつ迎ええたある日の土曜日、新生活を始めるということなので日用品を揃えるために俺達は買い物へ向かった。
因みに日曜日は安息日ですべてのお店が絶賛お休み中とのことらしい。
うーん、スローライフ。
しかし…こっちのお金なんか持ってないので残念ながらアモラに出してもらうんだが、ものすごく申し訳なく思ってしまう。
「もう…私が出したくて出してるんだから気にしなくてもいいのに…」
「こう言うことを考えてしまうのは多分、男の性ってやつなんだよ…」
「ふーん」
あ、これは納得してないやつだな。
でも、こうやって拗ねるような仕草は女神がすると可愛くなってしまうんでズルいと思う。
この、ナチュラルボーンキューティーめ!
…まぁ、調子の良いこと言ってるが結局俺は文無し。
彼女の好意に甘えるしかなかった。
少し締まらないデートの後は家に帰って彼女を労うことにした。
まぁマッサージしてあげたりとか、お風呂に入ったりとか…とにかく労った。
…うん、労った。
土曜の話をするついでに日曜の話もしておこうかと思う。
こちらの世界では世界で一番売れている本を出版されてる団体さんのところで言う「安息日」という日が日曜日に当たる。
まぁ、端的に言うと安息日とは色々とお休みする日だ。
安息…というと俺は彼女の柔らかな胸に包まれてると深い安息を覚える。
他には膝枕とか?
ふとした衝動に駈られて俺は側にいる彼女を確かめる。
ワイングラスのようなしなやかなクビレの見える腰、艶めかしい太股をそっと撫でた後、俺たちは再び休息に移ることにした。
そして昨日の夜。
「明日からまた上司と顔会わせるのか…」
「アモラ、俺ができる事があったらなんでもいってくれよ?」
「うん…ぞれじゃあ…昼の休憩の時に一緒にご飯食べよ?私、戻ってくるし」
「もちろん!…それじゃぁ…今日はお休み…」
休日に彼女としたイチャイチャしながらの掃除や洗濯は初々しい新婚生活を連想させられてとても楽しかった。
そして、再び始まる平日に一時の別れを惜しむ彼女がもどかしい表情をした。
俺は朝、彼女を口付けで起こし、朝食をとらせた後、再び口付けを交わして見送りした。
全てを終えた後、俺はあるとんでもない事実に気がついたのだ。
会社は辞めた。
家事なんかはほとんどアモラとの共同作業。
こっちの世界の就労形態とか微塵も知らん。
…最早、仕事無し。
…あれ?俺ってヒモじゃね?
ちなみに”つかさ”は変換で「仕」と出ない当て字なんですが…大丈夫ですよね?
多分こういう読み方をしないでもないはず…多分。




