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煉獄世界の死神  作者: 敗北の貴公子
第3章 少年時代
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第八十五話:特異な能力



喫茶『パンザリナ』

ここは路地の裏手にあり、周囲を高い建物で囲まれているため昼間でも薄暗く、見るからに怪しい雰囲気を出している秘密の店である。


一見さんは基本的には入れない。

いや、普通の人間は入れない。


何故ならここは、『亜人』たちの隠れ家なのだから。




階段を登り、扉を開く。


「いらっしゃい…あら、ファロイド。久しぶりね。」


迎えてくれたのは喫茶店の店長(オーナー)代理で赤髪の美しい淑女、ムスカリアさん。


「さぁさ、腰かけて。何飲む?」


そう優しく声をかけてくれる。

ブレンドコーヒーを注文した。


店には先客がいた。

砂色混じりでボサボサの白髪。

ボロボロの白いローブ。

一見ホームレスのようで、その瓶底メガネの下に輝く赤い瞳は鋭く冷たい光を放っている。


「ヤァ…お久しぶりですねェ…。今日は何用で?」


そう、彼はヴォルバタ。

自分と同じ猛毒キノコの亜人で、同じ『アマニタ一族』。テングタケ科『フクロツルタケ』の亜人だ。

そして転生者でもある。


「ええ、ラキ陛下から『アマニタ一族』について聞かされたもので。」


「そうですかィ。それじゃア、自分が何者で、どんな罪を背負って生まれてきたか聞かされたワケだ…。」


相変わらず何を考えているのか分からない、のらりくらりとした口調。最初は恐怖を覚えたが、コイツと『同族』と思うと自然と穏やかになれる。

彼は続ける。


「ソンデ?どうです?感想は?」


「いや別に。…と言いたいところだけど、結構ショックだったですね。これから先、俺は誰からも祝福されない人生を歩むかと思うと、正直気が滅入りそうです。」


「そうですかィ。ソイツは何より…。ところでファロイド、キミはアタシに敬語で話す必要は無いのだけど?この間はまだ自分が何者か知らなかったみたいだから言わなかったけど。キミはアタシより格上なんだから。」


「今はまだ、その時ではありません。この世界に来て間もないですし、教えて頂きたいこともあります。教えて頂いているうちは敬意を以て接します。」


「ヘェ…まぁいいや…。それで?今日はオジサンに何を教わりに来たのかナ?ファロイド君は。」


「キノコの亜人としての特殊能力について。それと、周辺各国の情勢とかも聞きたいと思ってます。」


「能力ってのは…、例えば?」


「まずは…本当に初歩で申し訳ないんですけど、『覚醒』について教えて頂きたいのですが…。」


「『覚醒』?なんだィそりゃア。」


え?

ヴォルバタは覚醒が何なのか知らない?

おかしいな。

ヴォルバタは髪が光ったりしないのか?

とりあえず『覚醒』について話をした。


「ヘェ~。そりゃ興味深いねェ。」


「ヴォルバタさんは『覚醒』したりとかは無いんですか?猛烈な力が湧いてきたり、光ったり…。」


「無いねェ…。聞いたこともない。そもそも光るって、ホタルじゃアないんだから…。いや、なァるほど…、道理で魔力を殆ど感じないワケだ…。じゃア、魔力放出はできるよねェ?」


ヴォルバタに言われて魔力を放出する。

大きく息を吸い…吐くと共に丹田に、そして全身に力を満たしていく。だが髪は光らない。


「フム…。何も変わらないねェ…。本当に『覚醒』なんてするのかィ?」


「自分でも『覚醒』するきっかけは良く分かっていないんですよ。」


『死にかけると発動することが多い』なんて言ったら興味を持ったヴォルバタに半殺しにされかねない。そのまま殺される可能性もある。信用はしているが信頼はしていないのだ。


「フム、まァいいでショウ。『覚醒』は据え置きということで。…姐さん、適当な植木鉢とナイフあったら持ってきてくだせェ。」


ムスカリアさんが枯れかけの小さな植木が植わった鉢植えと、小さなナイフを持ってきた。


「じゃァ、とりあえず初歩の初歩、『根』と『子実体』の『創造』からやってみようかァ。」


『根』の構築。『子実体』の形成。

キノコとしての基本的な能力だ。

キノコという物体は、よくスーパーで売られているエリンギを見れば分かる通り、基本的には傘と柄が食用として食卓に並ぶ。だが、売られているキノコは、植物で言えば『茎』と『花』の部分。そのままでは育たない。『根』として地中に菌糸を伸ばし、土中の栄養を吸い取っているのだ。

要は『キノコを生やせ』ということ。


まずは手本。ヴォルバタはナイフで指先を軽く切り、滲み出た血を1滴、鉢植えの土に垂らした。

この1滴で人を殺せる殺傷力。


土に染み込んだ1滴の血はすぐに変化をもたらした。枯れかけの植木が急速に腐っていく。血液は菌糸に代わり、土の中で根を広げていく。数分とせず小さな白いキノコの卵が芽吹いた。芽吹いた卵はヴォルバタの魔力でスクスクと成長し、大きくなり、殻を破って柄を伸ばし、傘を開く。

白く、毛羽だったようなボロボロの見た目の白いキノコ。所々、茶色または砂色の模様が着いている。


これが、猛毒菌『テングタケ科フクロツルタケ』。

このキノコ1本で大人3人が死ぬ毒性がある。


キノコが目の前で成長する姿は、神秘的であり、幻想的なものだった。美しい以外の何者でもなかった。


「なるほど…。これが『根と子実体の形成』…。ところで、植木が腐ったのは『ヴォルバタの固有の能力』でしょうか?」


「よく分かったねェ。いかにも、これは『フクロツルタケ』の『ボロボロの見た目』の“イメージ”を『腐敗』という能力に昇華した、アタシ固有の能力サ。もっとも“本家”ほど『腐敗』の能力は高くないし、あくまでハッタリだけどねェ…。」



キノコの中には腐った木や落ち葉に寄生し、養分を吸い取り分解することで、木をもっとボロボロに腐らせるものもある。これを“腐生菌”という。ナメコやシイタケがその例である。“腐生菌”は栽培に適していて、宿主となる木さえあれば比較的簡単に生やすことが可能だ。


一方、逆に寄生した木から養分を吸い取る変わりに、酵素を木に与えるなどして木を元気にするキノコもある。これを“共生菌”という。マツタケがその例だ。

セミの死骸から生えるセミタケも共生菌の一種で、生きたセミの幼虫に寄生し養分をもらう代わりに幼虫に酵素を提供し、病気などから守る。アブラゼミはその仕組みを上手く利用し、種の保存に用いているのだ。

栽培には向いていないとされ、セミタケなど冬虫夏草を除いては基本的に土の上に生える。


ではテングタケ科はというと、共生菌に当たる。

土の上に生えるのだ。まぁ魔力を以てすれば木の上にも生やすことは可能だが…。基本的に生やしたからといって急激に木が弱ったり枯れたりすることはない。


それを無理やり『フクロツルタケのボロボロの見た目』から『腐敗させボロボロにする能力』に昇華したのだ。かなり無理やりな能力のため、例えばナメコのような本家“腐生菌”の腐敗能力には敵わないだろうし、何らかの制限があると見える。


それでも恐ろしいのは『致命的な毒性を持つ上に腐らせる能力も持っている』ということだろう。それはつまり『無生物すらも腐らせて殺せる力を持つ』ということなのだから。



「さテ、ファロイドもやってご覧なさいナ。」


おおう、ノーレクチャー。

キノコ生やすのを見せただけ。

コツとか何にも教えてくれないのか。

まぁでも、頼りすぎもいけない。

失敗しても失うものはないし、別に信頼関係もないし、時間はたっぷりあるし、気が楽だ。


ナイフで指に傷をつけ、血を流す。

さっきヴォルバタの生やしたキノコと少し間を離して血を垂らしてみる。ここからが問題だ。

恐らく全て『イメージ』の力なのだろう。

とりあえず、病気や怪我を治した時と同じ『白い光を出すイメージ』で垂らした血に魔力を送っていく。


凝縮させ、血が広がっていくイメージ…。

根を広く張るように、血が広がっていくイメージ…。

周囲の栄養をを取り込んでいくイメージ。

広げたら中心に向けて栄養が集まっていくイメージ…。

卵ができるイメージ…。



「お、できた!」



白いキノコの卵が土から顔を出した。成功だ。


「ヘェ!やるじゃアないの!一発でできる人は初めて見たよ!」

「凄いわね!才能があるんじゃない?」


ヴォルバタもムスカリアさんも絶賛だ。

うん、キノコの知識を齧っておいてよかった。


しかし成長はここまで。理由は酷く疲れたから。

ヘトヘトだ。顔には汗が滲んでいる。

魔法の授業より疲れたんじゃないか?


ヴォルバタ曰く、『根』の形成ができれば後は自然と成長するようだ。魔力は成長を促す養分。急速に成長させたいときは魔力を与えるが、魔力を与えなくとも土中や枯れ木の少ない魔力を吸収して勝手に育っていくという。


形成した子実体、つまり自分の血から生まれた自分の分身とも言えるキノコはどうするのか?


そう、『吸収』するのである。


ヴォルバタは生やしたキノコに念じた。

キノコはどんどん成長し、成長しきったキノコはみるみる枯れ、崩れていった。キノコの亡骸から空中に魔力が溶け出していく。空中に漂う魔力は、息を大きく吸ったヴォルバタにスウッと吸収されていった。


これが意図する能力は何かというと、血の1滴からできたキノコが、土中や付近にある多くの魔力や養分を吸い取って成長し、ふんだんに蓄えた魔力や養分を、植えた本人が息を吸うように吸収できるということ。


つまり『一度に吸収できる魔力はとても小さいが、恐ろしくコスパがよくて手間もかからない能力』ということだ。



そして更に言えば、今は含有魔力の少ない土の上にキノコを生やしているのであって、普段から栄養満点で様々な動植物を食べている動物に血を1滴垂らし、キノコを生やしたらどうなるだろうか?


小さなミミズは土の中の微生物を沢山食べて微量の魔力を蓄える。

魚はそんなミミズを沢山食べて魔力を蓄える。

熊はそんな魚を食べてもっと多くの魔力を蓄える。

その熊を食べる人間は?


草は土の中の魔力や養分を吸収して成長する。

牛は一日に30kgの草を食べる。

その牛を食べる人間は?



そう、つまり。

我らキノコの亜人にとって

『分身たるキノコを生やして回収する能力』とは。

『食物連鎖の頂点たる人間にキノコを寄生させ、少ない魔力で大きい養分と魔力を絞り取る能力』ということ。それが本来の力。



シンクバトラ王国では、亡くなった1万人の人の血液から自分の血液と同じ成分が検出されたそうな。


治したよ?治したさ。

俺の毒は俺の能力で消したさ。

弱った人には“養分”をあげたのさ。

時として殺した人から奪った命を与えたさ。



でも、ついでに、どうやら。

無意識に。本当だ。わざとじゃない。信じてくれ。


何故俺が5日も不眠不休の食事なしで治療に当たれたかって?


わざとじゃない。知らなかったんだ。



俺はとっくに、やっていたんだ。

『寄生』と『吸収』を。




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