第八十一話:背中
あまりに衝撃的なカミングアウトが続いたため、俺の頭は完全に真っ白になっていた。
俺は死んで。
転生した世界は2億年後の地球。
世界は一度滅亡していて
この世界は地球にあって地球にあらず。
俺は人外の化け物。キノコの亜人。
その中で最強クラスの『アマニタ一族』
その中でも最強の猛毒キノコ『タマゴテングタケ』
その亜人にして『不死不滅』
人から嫌われる運命にあり、
『魔王』を倒す宿命を背負う者。
………。
……………。
「ファロイド、どうする?今日はもうやめておくか?」
ハッとなる。
いやいや、俺は確かに自分の正体を知りたくてここに来たのだが、俺の目的はそれだけじゃない。
「ラキ…あのさ、とりあえず3つ、お願いがあるんだけど。」
「なんだ?」
「1つ、今度シンクバトラ王国に眠ってる、俺が殺した人間達の墓参りに行きたいんだけど。」
「許可する。専用の馬車を用意するか?」
「いや、普通の旅行馬車でいいよ。その代わり経費を負担してくれ。出来れば今後も定期的に行きたい。」
「いいだろう。ただし、その分学校の授業を休むことになるが、授業に着いていけない、という事のないようにな。」
「……案外、すんなり許可するのな。」
「死者を供養するのはいいことだ。自分が手掛けた死者なら尚更のこと。そしてアマニタ一族の保護はカトラ皇国の使命だ。保証はするし、必要経費も負担しよう。例えば…“喫茶 パンザリナ”での飲食費はカトラ負担でいい。」
「知ってたか。」
「ああ。ヴォルバタに会ったんだろう?」
「ヴォルバタを知っているのか?」
「勿論。…これからお前はその喫茶で情報収集に当たるといい。世界情勢や機密事項などを知ることができるだろう。」
「ありがとう。では2つ目。孤児院に木剣を持ち帰ってもいいかな?学校での週一回の剣術の授業だと、全然進歩した気がしないんだ。孤児じゃない子供達は家に木剣とかあったり親に稽古つけて貰ってるかもしれない。そう考えると孤児院の子供達にとって不平等な環境だろ?」
「不平等、か。まぁそもそも孤児院でかかる孤児全員の養育費や経費は全額カトラの税金から出ているという点では、その時点で普通の子供達より裕福な生活学校出来ていると感謝して欲しいものだな。自由は制限されるが衣食住を確保されているだけ感謝して貰わなければな。」
ヤバ…。
機嫌を損ねたかな…。こうやって、いつも俺は人の気持ちを傷付けるんだよな…。またやってしまった…。
いやいや、今はすぐ訂正して取り繕わなければ。
「いえ、すみません。語弊がありました。確かに孤児院における待遇はとても感謝しています。三食食事が用意されていて量も満ち足りている。しっかりした屋根のもと床に着けるというのは最高の環境だと思います。そこには凄く感謝しているし、文句もないですし、言える立場でもないですけど、木剣くらい、いいじゃないですか?」
「ホラホラ、敬語になっているぞ…。…どうせ俺の機嫌を損ねたとか考えて、焦っているんだと思うが…。動揺している様子がこんなにも漏れ出てしまうのは良くないぞ。…しかし、ふむ…。それに関しては、お前だけ特別扱いという訳にはいかないから、孤児院の規律を変える必要があるな。」
「可能か?」
「勿論俺の名とあらば規律を変えることは容易いことだろう。……ふむ。」
ラキは暫く考えて……。
「…よし、許可しよう。」
「本当か!?」
「ただし!孤児院内で木剣を使った暴行沙汰が起きた場合には、お前が対処するように。」
「え?」
「何を寝惚けたことを言っている?今まで木剣の持ち帰りを許可していなかったのは、お年頃の男児達が武器を手に入れ、不良行為に出ることがないようにする予防線だったのだ。それを解除するとなると、武器を得た一部の子供達は荒れるだろうな。そうした子供達の鎮圧と、他のか弱い子供達の安全確保はお前の役目とする。」
「え!そんな…!俺まだ6歳の最小学年で……!」
「そんな事は関係ない。放った言葉の責任を持て。子供の身なりだからと言って何を言っても言いというわけではない。我儘と交渉の違いでもある。提案はよくリスクと背景を熟考してから行うようにせよ。お前は最早、アマニタ一族の筆頭として、カトラの切り札として、人類の希望として、人の上に立たねばならぬ存在なのだから。」
「……分かりました。よく覚えておきます。」
身から出た錆、なのだろうか。
すっかり忘れていた。社会人感覚を。
人に提案するということは、思い浮かんだことを口に出すことではなくて、当然、リスクやデメリット、経費、必要物品や背景なども考えなければならない。それが社会人としての常識だ。
「フ…。やはりお前は面白いな。」
「何がです?」
「お前は確かに『タマゴテングタケ』の亜人だ。アマニタ一族随一の『畏怖』を持ち、本来ならば俺でさえマトモに目を合わせることもできないほど恐れられる存在のハズだ。だから本来、『敬語を使う関係じゃない』って言ったんだが……。今の俺はあまりお前に畏れを抱いていない。何故だろうな?お前のキャラクターがそうさせていると思うが…。それに、孤児院で人間の友達もできたんだって?普通はそんなこと考えられないが…。万人に嫌われていない、というのはお前にとって唯一持ち得る幸運であり、神様からのギフトなのだろうな。」
「…………。」
神様、殺したいほど憎いとか言ってすみません。なんだ。幸薄い俺にも、ちゃんと立派に祝福をくれたじゃないか。
「今後、俺に敬語を使うか否かはお前に任せる。」
「ありがとうございます。まぁ前世でも年上や上司には敬語が絶対でしたし…。王様に話しかける手前、敬語を使わせてください。」
「フッ…いいだろう。それで?3つ目と言うのは?」
「いや、考えはあったんですが、リスクとか考えてなかったんで、もうちょっと考えてからにしようと思います。」
「ふむ……。フフフ……ハハハハ!!」
「な、何で笑うんですか!」
「いやなに、お前は本当に分かりやすいと思ってな。さっき“言葉に責任を持て”って言ったのは脅し文句に過ぎん。まぁ少しイラッと来て言った言葉に間違いはないんだが。」
「え?」
「実際、言葉通りお前に孤児院の治安維持を任せたとしてできるわけがないだろう。一言お前を律しつつ、ちゃんと裏を取るつもりだったよ。」
………。
敵わないな。
本当に。
まだまだ人間として未熟……。
いや、いつになったら俺は………。
「まぁ3つ目については今日は預かっておこう。腹も減っただろう。食事にしよう。」
「あ、ちょっと待って下さい。」
「何だ?」
「ラキ様。一つ質問していいです?」
「何だ?」
「失礼に当たるかもしれません。いいですか?」
「構わん。」
「アナタは、もしかしてアマニタ一族ですか?」
「何故そう思う?」
「黄色の衣装、黄色い髪、白い靴。円卓の間に入れたこと。」
「まぁ、そういうことだ。俺もアイラも、正体を知ったのは最近だったがな。元々、父上がアイラを連れてきて、許嫁としたのだ。その時はアイラも俺も、自分の正体なぞ露知らず。ただ不思議な力を使えたり、人より強大な魔力を使えたりすることに疑問は持ちつつ、『皇族だから』と思っていた。だが…。」
ラキの瞳が燃えるような赤に変わる。
そう、その赤い瞳は…。
「俺自身も衝撃的だったよ。まさか俺が、皇太子である俺が、人間ではなかったなんて。…俺は捨て子だった。それを父は拾い上げ、今まで息子として、そして皇子として接してくれたのだ。俺は父の血を継ぐ真なる皇太子ではない。二十年余り俺に黙っていた父上に俺は強い怒りと憎しみを覚えたが、血の繋がりがない俺をここまで育ててくれたのも事実…。複雑だった…。」
「………。」
「だが、それでもやらねばならぬことがあった。国を愛し、弱き者を救い、強き者の力を借りて、アマニタ一族と共に、他の国の侵攻を打ち払い、カトラの地を守らなければならん。そして、その先を見据え、来るべき『魔王』との戦いに備えねばならん。」
「…………。」
「だから、どうか、俺に力を貸してくれ!」
「…ひとの悪い王様ですこと。そんな立派な演説を聞かされて、しかも語る相手が大きな貸しのある奴隷ときた。これで断る奴は最早人間どころか人外ですらない。」
「そういってくれると助かるよ。」
……血の繋がった正当な後継者だと、自分こそが真なる次期皇帝だと信じて疑わなかった男が、ある日突然『お前はキノコの亜人だ』と告げられる苦悩、その慟哭。
想像を絶する。
ラキも、何だかんだと苦労した人間なんだな……。
「さぁ、飯だ飯!湿っぽいのは好きじゃない!」
そう言って、食堂に向かうラキの背中は、今までよりも大きく見えた。国民の未来を背負う背中、か……。
どれだけの責任を背負っているのだろうか。
……。




