第八十話:定められていた宿命
「最後にお前達キノコの亜人の運命と宿命についてだ。」
「運命と宿命?」
「お前達キノコの亜人、特にアマニタ一族は協力な能力を持つ超人だ。…だがな。その代償もちゃんとある。さっき言ったように、普通の人間は、殺人的な力を持ち、時に人間を食い、気味の悪いお前達を畏れ、嫌悪する……。キノコの亜人は生涯に渡って『人間から嫌われる』運命にある。それは白い目で見られたり距離を置かれるだけではない。職に就けずホームレスになったり、居場所を追われたり、過激な苛めにあったり、戦場で捨て駒にされたり、時には死に追いやられたりする。」
「…………。」
「それは本来は、人間の持つ恐怖心故の行動だろう。特にお前達アマニタ一族は赤い瞳や身に纏う白い衣から酷く嫌われる傾向にある。お前達キノコの亜人の中には、そんな人間に対して強い憎悪を持つ者も多い。“元は自分達が再興させた人間に追いやられ、嫌われ、虐げられる宿命ならば、いっそ人間なぞ滅ぼしてしまえ”とな。数千、数万年と、転生しても転生しても虐げられ続け、積み重なった苦悩、憎悪、恨みは転生しても消えず、魂に刻まれていった……。」
「…………。」
「そしていつしか、人間を滅ぼさんとする『キノコの亜人の王』なる存在が生まれた。その『亜人の王』は、1億年前に方舟から出てきたキノコの亜人の中で最も協力かつ致命的な毒性を持ち、最も強大な魔力を得た男で、今はこの大陸の中央、ドーナツ状の中心にある島に封印されている。中心の島が『生物が住むのに適さない環境』と言ったのはそのためだ。猛烈な毒成分や魔力は封印された後も漏れ出て、島に立ち入る者をたちまち死に至らせる。」
「なるほどな…。それで? その『王』は、いつ封印から復活すると考えている?」
「我々の見立てでは、30年後がその時だ。」
「……当時はどうやって封印を?」
「さぁ、分からない。何せ100年以上前の出来事だ。最後に魔王を封印したのは、まさしくお前の先代であるタマゴテングタケの亜人を含む数名のキノコの亜人。しかし結果は相討ちになったとされる。目撃者もなく、文献もなかった。ただ言えることは、お前達キノコの亜人でなければ、その『魔王』とも呼ばれる存在に近付く事すらできないということだ。人類に絶望し、滅ぼさんとする『魔王』は、何度も人類を滅亡の危機に追いやってきた。そして何度も夢を阻まれ、何度も転生して、また人類を滅そうとすることだろう。」
「…………。」
選ばれた者、か……。
なーんか一気に異世界転生っぽくなったな。
なんか途端にゲーム感覚だ。
チートスキルを得て、魔王を倒す。
なんだ。結局、王道の異世界転生じゃないか。
ただ英雄でも勇者でもなく、人間からすれば迷惑極まりない人食い毒キノコの化け物という以外は。
………。
ラキは「期待してない」とか言ったけど、結局、俺が『魔王』に対抗できる最後の手段じゃないか……。
嫌な宿命を背負ったもんだ。
そして、なんて酷な世界に転生してしまったのだろう。
死んだら天国に行きたかったとかは思っていない。
天国へ行けるほど、俺は聖人じゃない。
あれほど人を傷付け、怒らせて生きてきたのだ。
相応の罰は覚悟はしていたつもりだった。
でも、こんな第二の人生になろうとは。
酷いな。神様ってのは。本当に。
殺したくなるくらい、神様が憎い。
「さて、とりあえず俺が知り得た情報は以上だ。」
「ラキ、まずは感謝します。これだけの情報をこれだけ短期間で、よくこれほどの情報を…。」
「今更敬語はよせ。…勿論、全て知らなかったわけではない。キノコの亜人の知識、そしてアマニタ一族の知識は多少は持っていた。だがそれも『この世界には人ならざるヒトがいる』『赤い瞳を持つ者達は不思議な力を持ち、我が国と長年、友好関係を築いている』という知識程度だった。シンクバトラから帰ってから、仕事そっちのけで書庫に籠って調べたさ。今日話した話は、本来は皇帝に即位する際にだけ明かされる知識、伝統行事となっていたらしいな。」
「現皇帝が前倒しで教えてくれたのか?」
「いいや?現皇帝である父上は病に伏していてな。喋ることができる状態ではない。勿論大々的には広めていない情報故に、口外してくれるなよ?」
「……。ごめん、悪いことを聞いた…。皇帝が口も聞けないほどの重病と他国が聞いたら、この国の危機となる、ということか?」
「そこらへんの物分かりはいいようだな。その通り。そして悪く思う必要はない。どっちにしろお前達と友好関係を続け、この国を、この世界を守るためには必要な知識だ。」
「なるほど…。」
「さて。何か質問はあるか?混乱しているとは思うが。」
ラキによる俺の能力の説明で、俺の頭は混乱を飛び越えて達観の域にあった。もはや自分の事ながら他人事に思えてしまう。
回らない頭をフル回転させて、説明された能力について振り返り、疑問を感じた点を思い返していく。
まずは『転生』。
俺のケースは矛盾や相違点が多い。
「すまない、転生について一つ分からないことがある。」
「何だ?」
「俺はこの世界に転生した時、目撃者の話によれば、どうやら空から落ちてきたらしい。さっき転生には人一人のタンパク質が必要って言ったな。落ちてくる時点でおかしくないか?」
「そこら辺は分からない。だが『転生』の詳しい説明をしていなかったな。一部を除くキノコの亜人は『転生』する際、その器である肉体を転写したり復元させたりすることは可能だが、その魂は死んでしまうことが多く、転生した後に別の人間の魂が入り込むことが多いんだ。」
「それって転生の意味あるのか?」
「勿論、人格を残したまま転生できる種族もいる。アマニタ一族は転生は苦手なようだな。……『転生』の仕方は主に3種類。1つは無性生殖で、生きた人間に胞子を埋め込み、それを寄代として本体を寄生させ、寄生した人間に転生する方法。2つは自分と縁のある土地や『根』に自らの力を注ぎ、自然発生させる方法。まぁこれにはかなりの時間がかかる。3つは有性生殖で、異性に自らのDNAを送り込み、胎内に宿った命に寄生する方法だ。」
「おい、それってまさか…。」
「そう、孕ませた子供に転生するんだよ。胎内に宿った瞬間に本体とのリンクが形成され、出生と同時に本体は枯れるように死ぬ。」
「………。」
「産まれてきた子供はすぐに『人外』であると分かる。一見すれば普通の子供だが、乳を飲もうとせず、ハイハイが出来るようになったら床に降りて菌糸を張り、床や地面から養分を吸収するようになる。それは不気味な光景だ。大抵はその場で殺されるか、怖くなってそこら辺に捨てられてしまう。もっとも菌糸を張った時点で本体は土中や床の中に入り込むから殺しても死ななくなるんだけど。菌糸を張った赤子は数日して5、6歳程度の子供まで成長し人格が表れる。そこからは普通の人間のように成長する。」
……………。
絶句。
そりゃ忌み嫌われるわ。
そりゃ悪魔と畏れられるわ。
「自分がどんな原罪を背負って転生したか分かったか?」
「……………ああ。」
「…不運、だったな。もっといい転生先もあっただろうに。生まれながらにして忌み嫌われる存在に生まれ落ちるとは。」
「……いや、これで正しいんだろう。俺は元の世界で罪深い男だった。前世の行いからすれば当然の報いかもしれない。」
「そうか……。……ところで、前世、と言ったな。ファロイドは今でも元の世界に帰ろうと思っているのか?」
「…………。」
……そう、願わくば帰りたい。
こんなクソ不便で楽しいこともない世界。
まるで昔の自分を見ているかのようなもどかしい世界なんて。
でも………
何となく分かっていた。
「帰れないんだろ?」
「何故そう思う?」
「何となく、さ。」
「………俺の調べによると、他の国ではどうか知らんが、別の世界からこの世界、カトラ皇国に転生してきた者は何人かいるが、ほぼ100%、元の世界で死亡した後にこの世界にやってくる……。」
「………………。」
死んだとして、どういう状況で死んだのか記憶にない。
だが、今では何だか実感が湧いていた。
俺は死んだのだと。
…………。
「……まぁ、心境は察する。ここで一息入れようか?」
「いや、大丈夫。それより、覚醒すると女になるんだけど。」
「それも初めてのケースだな…。キノコの亜人は本来『無性』だ。どちらにもなれる。子実体を男にすることも女にすることも。転生した先が女という場合もある。まぁその場合は孕んだ子供が新たな転生の苗床になる、というだけなのだが…。自動的に女になる、というのは良く分からないな。」
「先代のタマゴテングタケの亜人は女だったとか?」
「そうだな…確かに女性だったらしい。だが覚醒すると性転換される、というのは聞いたことがないな…。恐らく、空から降って転生した、という前例のない転生をした時に、未知の異変が生じた、としか考えられない。」
人格がない、というワケではないかもしれない。
何度か俺に話しかけてきた、もう一人の“私”。
もしかしたら彼女こそが…。
「あれ?待ってくれ。さっきタマゴテングタケの亜人は『死神の天秤』の能力で『不死』だと言ったよな?それでも死んで、俺が転生した、っていうのはどういうことだ?」
「『魔王』の能力は『全てを破壊する』能力と言われている。記録がないので分からないが、先代のタマゴテングタケの亜人は、『死神の天秤』の能力を破壊されたか、魂を破壊されたのだろう。」
「ふむ……。」
「質問は終わりか?」
「ならもう1つ。俺、『食人衝動』と『煉獄世界の観測者』って今までに殆どそんなこと感じてないんだけど?そんな毎日人の血肉に飢えてるわけじゃないし…。」
「『食人衝動』は、一定以上の能力を使いすぎて魔力が枯渇したり、生命力が極端に弱まったりすると発現する。お前はシンクバトラでは自分の能力で1万人を殺しただろう?それを治療している間どうだった?元気だっただろう?それは『畏怖』の能力により、お前に恐れを抱いた人間から自動的に魔力を吸い取っていたからだと考えられる。無意識だっただろうがな。」
「…………。」
「『煉獄世界の観測者』に至っては、その片鱗をもう体験しているだろう?この世界に来てから何回捕まって、何回殺された?そして、まだ経験していないだろうが、『必殺』の能力を使えば使うほど『煉獄世界の観測者』は発現する。つまり、殺意を持って、自分の猛毒を使って殺せば殺すほど、そのデメリットを体験することになるだろう。」
「……………。」
「さて、お前に関する説明はこれで終わりだ。次はお前の話を聞かせてもらおう。」
会談は続く。




