第七十五話:白亜の円卓
随分と登ってきたものだ。
見下ろせばつづら折りの回廊。
上から見ると大理石でできた白龍が足元に座しているようだ。
あれだけ巨大な学校が小道具箱のように小さく見える。
随分登ってきたものだ。
「そういえば、この国は窪地にあるんでしたね。」
「そうだ。」
「何故そのような土地へ首都を?」
「よく見えるからだよ。この国が。人々が。」
「そうですか………。」
「そ。…言いたいことは分かる。勿論分かっているよ。この土地が危険であることくらい。百も承知さ。俺だけじゃない。代々の王も、家臣も、学のある国民も知っている。」
そう、この土地は大規模な火山の爆発の跡にできた窪地。
『カルデラ』という地形。
市街地はそのど真ん中にあり、カトラ城はその北側にできた小高い丘のような側火山の上に立っている。
様相としては阿蘇山と同じ。だがここは国家の首都だ。
火山の中に国の首都がある。
かなりのハイリスク。
自然の気紛れで簡単に滅ぶということ。
………。
「それでも、俺たちは自然の恩恵を受けてきた。」
………。
「ガス灯、温泉。寒いこの土地では地熱が頼りだ。」
「いつかは滅ぶとしても?」
「それはどこも同じだ。海だろうと。山だろうと。平地だろうと。神様は気紛れに世界を滅ぼす。その恩恵の代償に。」
「…………。」
「だから俺たちは日々感謝して生きなければならない。終わりが訪れても、後悔しないように。」
「………ごもっとも、です。」
よく知っているとも。天災とは非情だ。
その前には善も悪も関係ない。平等に死ぬ。
自然にという圧倒的な力によって一方的に殺される。
(俺はその圧倒的な力に魅了されたんだけど。)
『魅了、ね…。』
そんな話をしているうちに、正門に着いた。
ここが、カトラ皇国の中枢……。
1時間、千本大鳥居の様な大理石の回廊を登り続け、ようやっと城に到着だ。前門には早めに来たつもりが、もうお昼近い。
ビルより高い巨大な城は大理石のレンガで作られている。
貴重な大理石をよくこれほど集めたものだ。
遠目からはシルクのようにキラキラと輝き、近くで見るとその見事な彫刻技術に思わず感嘆の声が出る。
「凄いだろう?この城は今からだいたい100年前、四世代前の王が作ったとされている。」
「へぇ、100年…。」
「ちなみに同じように大理石でできた城がもう1つあってね。それが我らが宿敵、ミノア帝国の城なのさ。」
「ライバルと同じ造りの城ですか…。」
「いいや?行ったことがあるが城の形状がまるで違う。ここカトラ皇国は寒冷地で、雪や寒さに強い作りとなっているが、あっちは暑く乾燥した国だからな。より平面的で風通しを良くした作りをしている。」
「なるほど。」
学園の正門やギリシャのパルテノン神殿が頭に思い浮かんだ。
きっとイメージとしては合っているだろう。
正門を潜ると付き人がズラリ。
左に10人、右に10人、それぞれ頭を下げて出迎える。
「「ラーカギーガル第一皇子様のお帰りである!!」」
「「!お帰りなさいませ!ラーカギーガル様!!」」
(ラーカギーガル、って名前なんだ……。)
「ん。ありがと。ご苦労様。変わりはない?」
「は、全ていつも通りにございます。」
「今日は1日フリーだよね?」
「左様でございます。」
「よし、じゃあ今日は夜まで応接間にいるよ。あ、そうそう、こちら客人のファロイド君だ。孤児だけど俺の友達だ。よしなに頼むよ。」
「え…あ…はい、畏まりました!」
20人が一斉に俺の方を向き、全員キッチリ45度おじぎする。
「「ようこそお越し下さいました!ファロイド様!!」」
おおう…壮観だな…。
何か偉くなった気さえする。
それに、俺を孤児として見ていないな。
プロ意識の表れだろうか。
出自で服の色や装飾が変わるこの世界。
孤児や奴隷は豪華な服装を身に纏うことができず、俺のような『真っ白なローブ』を着ることになっている。最近では人々の、ゴミを見るような冷ややかな慣れたし、ここカトラ皇国はそこまで差別を受けることがないから辛い思いもしなかったけど、シンクバトラ王国や村では随分肩身の狭い思いをしたものだ。
カトラ皇国のレベルの高さが伺える。
本当にいい国だ。
城内は日光もうまく取り入れていて適度に明るい。
柱や壁も大理石で出来ており、見事な彫刻が施されている。
天使の像が左右に並ぶレッドカーペットを奥へ進むと、一人の女性が城中央にある泉で祈りを捧げていた。
「やぁ。アイラ。」
「ラキ様…。お戻りになられたのですね。」
オレンジ色と黄色の美しいドレスに身を包んだ美女だ。
靴は白いハイヒール。
髪は赤髪ロングだが、所々に金髪が混じっている。
顔立ちは東洋のソレだろうか。瞳の色は赤。
それにしても……アイラ?妙に和風な名前だな……。
日本人だろうか?
挨拶しよう。
「初めまして。ファロイドです。」
「あら、あなたがファロイドさん?」
「ご存知でしたか?」
「いえ、ラキ様がいつもお話しになるもので…。」
「それはそれは。」
ラキの方をチラッと見る。フフン、と言った自慢げな表情だ。
「紹介しよう。カトラの女神、イブスキ=アイラだ。」
「女神だなんて…。」
「ちなみに私の妻でもある。」
「………///」
…………。
「なんだ。つれないな。」
「いえ、そんなことは。」
くっ…ラキは心が読めるだけに反応に困る…!
ここは話をすり替えて……!
「…もしかして、アイラ様は日本人ですか?」
「様は付けなくても結構ですよ。ラキ様のお友達ですし、それに…。ええ、もしかしなくても日本人です。」
「おお!そうでしたか!!」
このおしとやかな笑顔は正に大和撫子!
日本万歳!!
もしかして21世紀の人だったりして?
「はいはい、そこ。その話は後にしてくれ。時間が惜しい。さっさと行くぞ。アイラ、君も来てくれ。」
「あ、はい…。」
階段を登り、2階にある特別応接間へ。
ここは普通の人間では入ることのできない、ある特定の来客者のみが入ることができる部屋らしい。
扉を開けると、そこは何もない真っ白な空間。
一面の白。
真っ白い床。
真っ白い壁
真っ白い天井。
目の前には真っ白の丸いテーブル。
真っ白の10個の椅子。
あれ、この景色、どこかで……。
突然、ブワッと何か身体の芯から噴き出してくるような感覚を覚える。身体が熱くなり、頭がボーッとする…。
そして、髪の毛が光り始めた。
これは……。
「ようこそ。アマニタの円卓へ。改めて君を歓迎するよ。Amanita Phalloidesの転生者。ファロイド。」
「え…!?」
転生者?アマニタの円卓?なんだそれ。
「まぁ座れ。席は知ってるんだろう?」
…あれ?何でだ?知っている。
初めて城に入るはずなのに…知っているぞ?
俺の席は一番窓側の……。
「さて、アイラ、君も座って。」
「はい。ラキ様。」
とりあえず何となく、何となく見覚えのあるような席に座る。妙にしっくり来るというか、何か懐かしい感じがする。
「ラキ……。説明してくれるんだろうな?」
思わず敬語や丁寧語がぶっ飛ぶ。
「フッ…。いいだろう。あと俺には敬語は使わなくていい。元々俺とお前達はそういう関係と決まっている。」
??
益々ワケが分からない。
「さて、どこから説明したものか…。実を言うとな。俺も最近知ったばかりなのだ。シンクバトラでのお前の復活劇を目の当たりにして、お前に関係することを調べ尽くした。それには王宮の中でも『極秘事項』とされている内容も含まれていた。皇太子の俺ですら、つい数日前まで知らなかったのだ。そして君たち一族とその特性について一から勉強し直した。感謝して欲しいな。」
俺のことをわざわざ調べてくれたようだ。
ラキの優しさと好奇心に本当に感謝したい。
「…ありがとう。では早速。まず、その『アマニタ』という奴だ。俺はそれを『ある知識』として知っている。それと何の関係がある?」
「そのままの意味だよ。ファロイド。」
「質問を変えよう。アマニタとは『キノコ』の一種だ。ハラタケ目テングタケ科テングタケ属。そして『Amanita Phalloides』とは『タマゴテングタケ』。俺が大好きな猛毒キノコだ。それと何の関係がある?」
「そのままの意味だよ。」
「俺はキノコだとでも言うのか?」
「その通り。付け加えるならお前は亜人という存在だ。」
「亜人…?それで転生者というのは?」
「二つの意味がある。1つ目は異世界からの転生者であるということ。2つ目はこの世界で転生を繰り返しているということ。」
「異世界からの転生者であるということは分かる。この世界で転生を繰り返しているというのは?」
「能力の1つだ。」
「能力?」
「そう。お前達キノコの亜人には固有の能力があり、共通しているものに『不滅』という能力がある。それにより長い寿命や転生など様々な派生的な能力を有しているらしいんだ。…まぁ聞け。俺も得たばかりの知識で上手く説明できる自信はないが、順を追って説明してやろう。まずは『亜人』の製作に至った経緯から話さなければならないな…。」
…ラキの説明によれば。
俺は『タマゴテングタケ』の遺伝子を組み合わせた『キノコの亜人』の一人。大昔に行われた生物実験の成功例、その転生者。
現時点で『亜人』は『キノコの亜人』のみが存在するが、実験当初は他の遺伝子融合実験が行われていたらしい。
哺乳類、爬虫類、鳥類、魚類、昆虫、軟体生物、植物。遺伝子結合が不可能だった細菌を除き、あらゆる生物との遺伝子融合。その亜人の形成と保存が全世界の知恵と技術を結集させて行われた。
何故そんな非人道的な実験が行われたか。
それは過去の悲劇の産物だった。




