第七十四話:ラキとの再開
孤児院に戻ってからバルザ達に質問攻めにされたのは言うまでもない。
あのオッサンは何者なのか?
危ないことをされなかったか?
などなど。
確かに危ないことはされなかったが、結局ヴォルバタの正体は掴めないまま。
分かったのは“悪いやつじゃない”って事くらいだ。
日曜日。今日はラキとの会談の日だ。
朝食を食べた後、身なりを整え、王宮へ出発する。
王宮は学校の先にある。学校行きの馬車に乗るのが良策、と言いたいが、残念ながら今日は日曜日。孤児院から学校行きの直通馬車はない。
他の馬車だとお金がかかる、が…。
そこは寮夫が出してくれた。
安くはないってのに。お礼を言うと「歩いて王宮に行って道中で何かあったら大変だから。」とのこと。ありがたい。
孤児院を出て南大通り。
そこから南北を走る馬車に乗る。
馬車の運行感覚は1時間に1本といったところか。
ただ、あくまで「馬車」だから遅れはつきものだ。
それを考慮しても早めに孤児院を出た。
「行ってきます!」
「気を付けろよ!」
「無事を祈るよ。」
「が、頑張って…。」
「お土産頼むぜ!出来れば食べ物なー!」
「フフフ…余計なことを言わないよう…。」
はいはい。
相変わらずのクヴァとジャグラーで安心した。
クヴァ。お前はお土産なし!
馬車はいつも通っている通学路を走る。
今日は日曜日。だが日曜日といっても朝の商店街に変わりはない。いつもの賑わいだ。もしかしたらこの国、いや、この世界には『日曜日は休み』なんていう概念は無いのかもしれない。
そもそも日本でも日曜日が休みになったのはいつだろう。江戸時代には日曜日は休みだった?まさか。
少なくとも介護職の俺には土曜日も日曜日も祝日もない。それは飲食店や農家などを営む自営業も同じ。交通インフラ業もまた然り。土日を謳歌できるのはほんの一握りの存在なのだ。
ちなみに学校に日曜日があるのはこの世界も同じ。
この世界の学校が日曜日を休校日としている理由は、きっとこの世界の、奉仕の精神にあるのだろうな……。
その学校を通り越し、更に北へ。
次第に大きくなっていく巨大な純白の城へ近付いていく。
カトラ城は北側の断崖の上に聳える城だ。
城への門は窪地の北側にある1つだけ。
門自体はそこまで大きくない。
しかし、門から先、城へ入るためには、窪地の斜面に建てられた、遠目から見ると白蛇が臥しているかのような長いつづら折りの回廊を登って行かなければならない。
この回廊の初印象としては伏見稲荷大社の千本大鳥居がピッタリ当てはまる。千本大鳥居を真っ白な大理石にして、洋風の装飾をで覆い、平坦な屋根をつけるとまさにこの回廊だ。それが何百メートル、いや、何キロあるかという長さで頂上の城に続いているのだ。
そして頂上の城。
近付けば近づくほど城の巨大さがよく分かる。
日本の城と比べるなら、少なくとも名古屋城より大きい。
その姿はまさに魔法の城。
トンガリ帽子の様な屋根が着いた塔の集合体。どうやら真っ白な城壁はレンガ状に加工された大理石でできているようで、日の光を浴びて細かくキラキラと輝く様は城自体が細かい宝石でできているかのようだった。
「どうだ?凄いだろう?」
「ラキ様…。ご機嫌麗しゅうございます。」
城門にはラキが待ち構えていた。
約束の時間には随分早いというのに…。
「おいおい、お堅い挨拶だな。」
「いや、ここ城門ですし、衛兵たちの目もありますし…。」
「まぁここじゃ怪しまれるな…。」
「待たせてしまいましたか?」
「いやなに、暇なだけさ。」
暇とは言え、皇太子自ら奴隷の子供を出迎えに城門まで降りてくるのは聞いたことがない。衛兵たちも動揺している。人柄の良さは伝わってくるんだけど立場としてはマズイのでは…?
『身分は違えど客人。待たせるのは非礼だ。』
『!』
そうだった。
カトラ皇国次期皇帝『ラキ』は人の心を読むことができるんだったっけ…。ついつい忘れてしまうが思惑や考えなんてラキの前では筒抜けなんだった。
そして、何故か俺はラキとテレパシーで繋がることができる。
本来俺たちの挨拶に会話は不要。だが『読心』と『以心伝心』の能力はラキにとっては奥の手。トップシークレットであるがゆえに、無言の会話が続いて怪しまれないよう、他の人間の前ではあくまで普通に会話するように努めなくてはならない。
また、今日のラキはいかにも『皇太子』らしく正装をしている。黄色ベースのローブに金色の刺繍が施されていて、この俺の纏う白いローブが憎らしくなるほどキラキラと黄金の輝きを放っている。これが身分差か…。俺が肩を並べられるとしたら、ラキも俺と同じ、白いハイカットブーツを履いているという点だけだ。
外見から目に焼き付く身分差に暫く口を開けていたが、ラキの『おーい、早くしろー。』という思念で我に返る。
「…では、本日は宜しくお願い致します。貴族の礼などまだ学校では習っておりませんが、何卒ご慈悲をいただきたい。」
「うむ、では参ろう。ファロイド。ようこそカトラ城へ。」
前門の先はいきなり急な階段になっており、馬で城まで突撃することはできず、皇太子と言えども歩くか、『駕籠屋』(※棒の付いた小部屋を肩に担いで運ぶ乗り物)を頼んで担いでもらって登らなければならない。
なかなかどうして、城の防御力としてかなりのものだ。
絶えず登らねばならず、つづら折りの回廊から幾重にも矢が降ってくるとなると、敵からすればこの上なく攻めにくい。
この巨大な城なら兵糧の備蓄も十分だろう。
「ところでラキ…様、これ、何段あるんです?」
「1000段くらいだったかな?」
「え!?」
最初の数段から先はなだらかな坂となっているが、それでもこの延々と続く坂を登るのは気が遠くなりそうだ。その坂を1時間かけてゆっくり登る。途中何度か大きな関門をくぐり、柱一本一本に見事な装飾がされた千本鳥居を潜っていく。
その間、ラキとは当たり障りのない会話をした。
例えばこの世界のこと。
改めて確認だ。
この世界は外周を大海で覆われた1つの大陸と右端の大きな島『マザマ島』で構成されている。それ以外の大地や大陸は確認されていない。
ユーラシア大陸ほどの大きさの大陸は『フレグラシア大陸』と名前が付けられていて、その中心には『ラーハ湖』という丸い大きな湖がある。中心にはインドくらいの面積の丸い島『キカイ島』がある。
『ラーハ湖』・『キカイ島』は、どの国家にも属しておらず不可侵、そもそも『キカイ島』は島自体が神聖とされており、また、強い有害物質で汚染されているため生物が生存できない環境にある。
この世界には5つの大国がある。
1つはカトラ皇国。そして肩を並べるミノア帝国。
領土における総兵力はお互いざっと50万。
この二つの大国はライバル関係にあるという。
次点でカトマイ共和国。ラカタ王国、マザマ王国。
総兵力20~30万程度の規模のようだ。
位置関係としては、このドーナツ状になっている世界の左上にカトラ皇国、右上がカトマイ共和国、右にある大きな島がマザマ王国、右下にラカタ王国、左下がミノア帝国となっている。
隣接する国はそれぞれ仲が悪く、度々対立しており、『マザマ王国』は不干渉の姿勢を貫く謎が多い国だそうだ。『カトラ皇国』と同盟を結んでいるのは対角線上にある『ラカタ王国』。俺を欲しがっている国だ。
先述の通り、国々はお互い仲が悪い。小競り合いは数年に一度、大きな戦争は最近では20年前にあったそうだ。
この世界における基本戦術は剣、突撃槍、槍、弓。
やはりこの世界には火薬や化石燃料を使った武器はない。
銃や大砲、爆弾はない。戦車に爆撃機は勿論ない。この世界で一番文明が進んでいる二大国ですらその文明レベル。
西洋でいうと十字軍とかそういう時代か?
日本でいうと鎌倉時代とかだろうか?
ちなみに互いの国には『秘密兵器』があるらしい。
それが何かこの場で聞くのは御法度だ。
どこに間者がいるかわからないからな。
ところでこの世界には魔法があるのに、魔導師部隊などはいないのかと聞いた。小規模な魔法しかないこの世界でも、50万の軍勢の中にはきっとエリート魔術師とかいるんじゃないかと。
結論からすると『いない』。いや、『秘密兵器』の話からして、ここでは言わないだけで可能性はあるな…。
天を覆うほどの火炎魔法が飛び交う様を凄く見たい。
まぁ俺は魔法使えないんだけど。
『ないない。そんな夢みたいな話。』
『ですよね~。』
俺の夢はテレパシーで打ち砕かれた。
『ちなみに秘密兵器って?』
『それを言っちゃ面白くないだろ?』
んー、それもそうか。直後にチラッと過った考えがラキに伝わったのか、ラキが口角を上げる。秘密兵器は…。
「おや!ラキ様!お帰んなさい!」
「ラキ様!今日はどちらへ?」
「まーた変なことしてないでしょうね?!」
「ラキ様!今日もいい魚仕入れておきましたぜ!」
道行く回廊ですれ違う者は皆、ラキに気さくに挨拶する。
ラキも気さくに返す。まるでいい兄貴分って感じだ。
総兵力50万、この世界の雄。次期皇帝よ?次期皇帝。
大名行列のように通過中は土下座してもいいレベルだ。
『だから、そういうの嫌いなんだってば。』
『示しとか気にしないのか?』
『勿論、家臣の中には恐怖も必要という考えもある。俺だって時には恐怖を与えるさ。だが常に威圧するようなことはしない。要はメリハリだ。』
『なるほど。』
『それに、そんな柄じゃないからな。』
恐怖ではなく人柄で統治、か。
威厳とは自然と出るものといったところか。
ラキらしい王の姿だ。
………。




