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煉獄世界の死神  作者: 敗北の貴公子
第3章 少年時代
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第六十七話:見も心も少し軽く




殴りあいの喧嘩して仲直りした俺達は、とてもそんな気分ではないのだが、それでも学校にいかなければならない。


だが俺は身体を起こそうにも起こせないでいた。


全身打撲。身体中が痛い。

起き上がろうにも足にキてて立ち上がれない。


ヤバい…。



「ホラよ。」


バルザが俺に手を差し伸べてくれた。

ありがたいな。


「これで喧嘩は俺の勝ちだな。」


ああ、お前の勝ちでいい。

俺の完敗だ。

身も、心も。お前には勝てないよ…。


バルザの手を取った…。


その時、急に全身が脈動したような感覚に陥った。バルザの手を離し、思わずその場に(うすまくま)る。

心臓の鼓動が大きく聞こえる…。


「おい、ファロイド…どうし…。」


バルザが俺の方を見て驚いている。


おっ、これは…久々の…。

パアッと髪がレモンイエローに光って薄暗い広場を淡く照らした。瞳が輝いて踞った先の地面を灯す。

既にボコボコに腫れた顔はキレイサッパリ元通り。


『覚醒』か。

思えばカトラ皇国に来てから初めての覚醒だ。


「驚かなくていいよ。バルザ。これがさっき俺が言った能力だ。…あ、そうだ。ちょっとごめん。」


立ち上がってバルザの顔に手をかざし、白い光を放つ。

俺のパンチを受けて腫れた頬も切れた唇も、みるみるうちに治っていく。それから全身。一応、バルザの拳には俺の血がついてるしな…。はい、元通り。ツルツルの肌だ。


「すげぇな。まさに魔法だ。」


「いや、なんか魔法じゃなくて呪いの類いっぽいんだけどね…。よし、解毒も完了。」


「それが言ってた『不死』なのか…?」


「いや、それ以外にも色々ありそうだけどね。…それに何だか今ならできそうな気がするんだ……。」


「は?何をー」


言う前にバルザをお姫様抱っこし、大きく息を吸い、丹田で練って、息を吐くと共に足に魔力を集中させるイメージを浮かべる。そしてジャンプ!



地面から勢いよく飛び上がり、三階建ての屋根の上に余裕の着地。やっぱりだ。


バルザは目を丸くしている。


「じゃあしっかりしがみついててよ!」


「…え、ちょっと待てぇえええ!!!」


右足、左足…

跳躍の瞬間には魔力を足の土踏まずから爪先へ…。

着地の時は膝へ…。踏ん張るときは股へ…。

股から脹ら脛へ…。

右へ…左へ…。


屋根の上を、家を跳び越え飛び降り跳び上がり、獣のように超スピードで駆けていく。

そのスピードは全速で馬を駆っても出せない速度だ。

少なくとも60km/hは出ているだろう。

目に映る景色が飛ぶように流れていく。

通りはジャンプで飛び越える。

気分はスケールの大きい走り幅跳び。

ひとっ飛びで軽く10m。

力を込めれば20mくらいは跳躍できる。

バルザを抱く重みも大して気にならない。



思った通りだ。

やはり魔力による身体能力の向上は可能だ。

だが『普通の人間』にはこれほどの跳躍は無理だろう。

かなり疲労がキツイ。

1回の跳躍に大量の魔力を持っていかれる感じがする。

それを連続して行い、駆けているのだ。

以前試して昏倒した理由はこれだろう。

コスパが悪いのだ。

そして超人的な跳躍は肉体への負担が大きい。

生身の人間ではあり得ない動きなのだ。

物理法則すら侵しうる不可能な跳躍。

普通の人間では筋が切れ骨が砕けるだろう。

全てはこの『覚醒』した身体のおかげと考えられる。



だけど…いやしかし、楽しいな!

まるで猫のよう。まるで鳥のよう。

身も心も非常に軽やかだ。


イヤッホォオオ!!!



「止まれぇえええ!!」


バルザにはお構い無し。

そして最後の大ジャーンプ!!!


ビル5階の高さに相当する学校の校門…の屋根に見事着地である。


素晴らしい。

最高に爽快だ。

ドロドロした心がふっ飛んだ。


「ふざけんなバカ野郎!!降りろ!!」


バルザはカンカンだ。

はいはい。降りますか。

シュタッ!グキッ!


目がチカチカするほどの激痛に(しば)悶絶(もんぜつ)


ビル5階から飛び降りればさすがに骨折するか。

しかし覚醒状態の俺は超速再生により一瞬で完治。

痛みは残るが、軽やかに動く。


辺りを見回す。

この俺の超人的な跳躍力の目撃者はいないようだ。

残念なような、ラッキーなような。

時間は…おっと、もう1限目終わるところじゃないか。

でも2限目は間に合うだろう。

ダッシュだ。足に力を込めて…GO!!


……?


あれ?何も起きな…


突如視界が歪み、崩れ落ちる。

あれ…ヤバ…調子乗りすぎた…。

髪の毛の輝きは無くなった所を見ると、覚醒終了。

いつもの猛烈な眠気が襲ってきた。

このままでは…せめてバルザに…


「バルザ…遅れた理由は…具合悪くなった俺を介抱したとでも言ってくれ…くれぐれも…この能力は…」


「お、おい!ファロイド!しっかりしろ!!」


「後頼むわ…」



そして俺の意識が途切れた。







次に目を覚ますと、そこはベッドの上。

差し込む西日からして、もう夕方か。

結局ほぼ半日寝込んでしまったか。

覚醒した時間が短かった分、反動も短かったのだろう。

ここは…孤児院じゃないな。医務室か。


「今ごろ気付いたかよ。」


隣でバルザが座っていた。


「あ……バルザ……おはよう?」


「おはよう、じゃねぇ!!!バカかお前は!!」


痛い!叩かれた!


「いやー、実験失敗。ダメだったかぁ。」


「お前…意外と後先考えないタイプだったか。」


「いや?ソンナコトナイヨ?」


「はぁ~。まぁいい。それよりコレ、今日の二限目からの授業のノートだ。」


「ん、ありがとう。俺の考えた言い訳は通じた?」


「まぁ何とかな…。ルザルたちには気付かれたが。」


「そっか…。」


そうか、皆、分かってたか。

後で謝らないといけないな。


「それよりすぐにファロイド、もう帰らないとヤバいぞ。ホームの門限に間に合わなくなる。起きれるか?」


「ああ、平気。行こう。」


立ち上がると若干よろけた。

それをバルザがとっさに支える。うーん、イケメン。



バルザって顔立ちはかなりのイケメンだ。

成長したらかなりの美青年になるだろう。

その上に「心」もイケメンとは。

うーむ、俺では辿り着けない境地だ。


最も、今の俺も『美少女』風の『男の子』なんだけど。

膝まで伸びる金髪。華奢な体格。

角のないツルっとした顔。大きくて赤い瞳。

まぁ見た目完全に女子ですよね。男子にモテそうだ。


そんな俺がイケメンに支えられてるのは絵になるな、と、医務室の姿見に映る俺らを見て思うのだった。



と、その時。

バァーンと医務室の扉が開く。


「ファロイド!!大丈夫か!!!来てやったぜ!!……あ、いや、その…そういう…」


「違う!違うんだジル!誤解だよ!!」


「いや明らかいい雰囲気だったぞ!!」


「何で男同士でそうなるんだバカ!!!」


「お前見た目ほぼ女じゃねぇかよ!!!」


「…おい、二人とも、医務室では静かに。」


「バルザも何とか言ってくれ!」


「ハハハ。まぁ元気になったようで何よりだ。」


「…ジルも、来てくれてありがとな。心配させてごめん。」


「…ま~、最近のお前、何か変だったしな。お前の事だから、また何か変なこと考えてんだろ、って感じだったけど。お前らしくはなかったぜ。」


「なるほどね…。でも大丈夫。サンキューな。」


「いいってことよ。俺達は『家族』だからな。」


ジルも…俺を家族と思ってくれている。

出来の悪い年長者ですまない。

見本になれなくて申し訳ない。

でも、それでも家族と思ってくれていることが、涙が出るほど、本当に、本当に俺は嬉しいよ…。




「さて、帰るぞ。本当に大丈夫か?」


「平気平気!走って帰ろうか!?」


「「やめなさい。」」


ジルとバルザの息の合った一言。

馬車で帰ることになった。


ジルにセイラとピコに宜しく伝えるように言って別れる。


この時間に馬車で帰るのは初めてだな…。


夕方のカトラ皇国。

窪地にあるため日の入りの時間が早く、オレンジ色の空とは対照的に街中は既に薄暗い。日光は既に地面の中だ。

ガスを燃料とした街灯。

それに登り、ロウソクで火を(とも)す商人たち。

家々の灯りも徐々に点いていく。

松明を灯す飲み屋の店員。

店じまいをする八百屋のおっちゃん。

帰宅途中のガタイのいい兵士らしき大男。

それを勧誘する美人のねーちゃん。


……。



「飽きないだろ。カトラって。」


「そうだな…。俺がいた元の世界とは全然違う…。違うけど、どこか似ているというか。」


「元の世界?」


「いいや、こちらの話さ。気にするな。」


「お前…まだ俺に秘密あるのか。」


「話したって仕方のないことだよ。」


「まぁいいさ。話したくないなら聞かねぇよ。」


「じゃあ今は秘密ってことで。」


「今は、って何だよ。勿体振るな。」


「ハハハ。」



馬車は夕暮れのカトラを駆けていく……。




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