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煉獄世界の死神  作者: 敗北の貴公子
第3章 少年時代
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第六十二話:才能




適性検査と授業の選択を終えたら早速授業を受ける。といっても俺やジルは1ヶ月以上遅れているので当分は特別に補修を受けることになった。


剣術は獲物の持ち方、構え方から。野球も適切にバットを持って適切に構えなければ打てないのと同じ。ある程度流派によって違いはあるが、剣術には剣術の、槍術には槍術のも相応の構えがあるのだ。

一先ずそれを覚える。

渡されたのは木で作られた両刃の西洋剣。

木で出来ているが、中々に重い。

下段、中段、上段の構えの基本を学び、重く感じる木の剣を支えることから始まる。


上段の構えから兜割の素振り。振り下ろし過ぎないように振り、振り切る前に止め、その剣を元のしっかりとした上段の構えに戻し静止する。基本的な、剣道なんかでよく見る素振り。

見れば簡単。しかし実際に振ってみると剣の重さにふらつき、上手く振れない、戻せない。

身体の軸がぶれているのだ。

その軸を支える体幹筋もない。

イメージは出来ても、こうも身体がついてこない。

コツとかそういう問題ですらないのだ。


天下無双の武?


遠いな…。



昼休憩を挟んで次の選択授業、『槍術』も同じ。

俺とジルは補修授業。

細長い短槍を組み手の前にしっかりと構え、立ち回り、振るえなければ話にならない。棒切れを振り回すだけが槍ではないのだ。構えを覚え、足運びや突きと払いを覚える。

これも道のりは遠そうだ…。


ジルはというと、勉強はてんでダメだが、運動神経は抜群で、何より身軽だ。筋力的には差がないから剣術は俺とあまり差がないが、槍術はまるで孫悟空だ。ひょいひょいと棒を扱っている。

型や構えはメチャクチャだが、身のこなしは軽やかで流れるような動き。真似をしようと思っても真似できない。

こいつひょっとして天才かもしれない。

歴然とした差に、正直焦りを覚えた。



そして次。『魔法学』の授業だ。

ジルと別れ、セイラと合流する。

この授業は適性検査で1以上の数値を示している魔法適性がある人間しか選択することができない。シンクバトラ王国でも魔法を使える人間の少なさを身をもって知ったが、少なくとも数万人の王国で医療魔法を使える人がたった3人しかいないのだ。俺の他にセイラとレイタは魔法を使えたが、ジルやピコは使えない。元々魔力を持っていないからだ。


そう、この世界の魔法は『才能』が全て。

そして魔法を使うためには魔力が必要となるが、それが大きい小さいでも大きく違う。魔力をもっていても小さすぎると魔法は使えない。精々相手に気を送ったり、指先にマッチ程度の火を数秒間灯したり、トイレの水を流す程度である。


その魔力の大小は適性検査の数値で分かる。

隣でワクワクして授業を受けているセイラは『7』

まぁぶっちゃけ治癒魔法使えたしな。

治癒魔法は高度な魔法の1つで習得がとても難しい。

それができるセイラは天才なのだろう。


対し俺は『2』。

『ほぼ魔力をもってない』という扱い。

不死の力、致死の毒血持ちとは何だったのだろうか。

何かの間違い?いいや。多分合っている気がする。

覚醒状態でない俺はほぼ何もできないのだ。



魔法学の授業はまず魔力の流れを知ることから。

今日は座学だ。


魔法の使い方とは、即ち三段階にある。

①魔力を放出し、

②魔力を集中させ、

③化学反応を用いて魔法を発生させる


魔力の放出は、以前シンクバトラ王国で治癒魔法を使った時に偶然できたやり方と同じ。

ヘソ、つまり人間の『丹田』に意識を集中し、息を吸い(空気中の魔素を吸い)それを媒介に魔力を練り、息を吐く際に放出する。

気功と同じだ。

高い集中力とコツが必要とされる。

まぁ俺とセイラはコツをつかんでいるから楽勝だ。

だが維持するとなると話は別。相当な疲労が蓄積する。



また、魔力放出は感情にも左右する。

怒りや悲しみは魔力放出を促し、強める。

逆に怯えや萎縮は魔力放出を妨げ、弱めるのだ。

そして殺気は魔力をより鋭くする。

怒りや悲しみ、殺気は魔力を高める分、熟練者には感付かれやすいというデメリットがある。

この辺は予想通りだ。『暗殺者は殺気を出してはならない』とか『怒りでパワーアップする』とか漫画の世界ではよく見ること。

感情により放出することは簡単にできそうだ。

だが感情を維持できなければ意味がない。



そこから魔力を手先に集中させて化学反応を起こすとなると難易度が一気に上がる。

例えば指先に火を点けるときは、魔力を指先の一点に集中させ、空気を圧縮、高温に加熱して、魔力を燃料として発火させる。

水を作るるとき魔力で気圧を下げ、空気の温度を下げることで空気中の水分を水蒸気にし、魔力でそれを集めて放出する。

風を起こすときは魔力で空気を暖めたり冷やしたりして空気の対流を起こす。

治療するときは人体構造を把握し、魔力でその正常・異常を感知し、魔力を流し込んで細胞を活性化させる。


原理はそんなところだ。


相対性理論や質量保存の法則などを考えたら全く理に敵わないが、それが魔力、それが魔法というものと解釈しよう。



そして魔力には個人差のある『質』があり、適性に左右されるところが大きいとされる。魔力が火の燃料となりやすい人、水を保持しやすい魔力の質を持つ人、気流を起こすことができる人、細胞を活性化させる力のある人、逆に毒となり破壊する力を持つ者、それ以外の人、様々だ。

また、魔力は目に見えないので、魔力の放出からコントロールまで、全て『イメージ』でのコントロールとなる。イメージする力が弱いと魔力を上手くコントロールできないのだ。要は妄想力。



それら全てを含めて、魔法の行使はかなり難しい。


かなりの練習が必要だ。よく漫画にある『呪文詠唱』や『魔方陣』でチャチャっと……なんてものはこの世界の魔法の概念にはない。適性のある者が、しっかりと原理を知っていて、それをイメージできないと魔法は使えない。



セイラは原理がよく理解できないようだ。

俺だって難しい。

熱による空気の対流なら分かる。高気圧低気圧の原理だ。

空気を圧縮して高温にするのも分かる。分子密度を高くすると熱を生むんだったか。空気を冷やすと水ができるのは雲ができる原理と同じだろう。原理は分かってもそれをイメージするのはとても難しい。

だからこそ『純粋』な魔法の使い手が少ないのだ。


おそらく『魔力を燃料にする』ということであれば、元から火が付いた炭火を燃え上がらせることの方が容易だ。池にある水を魔力で包み込んで持ち上げて使えばいい。

だがゼロからとなると…。


ふむ…。骨が折れそうだ。

だが使いこなせばきっと役に立つだろう。

人間が生きるには火と水が必要なのだ。サバイバルキャンプが趣味だった俺はそれがどれほど重要性かを知っている。


きっと応用法もあるのだ。例えば足。ドラゴン●ールの主人公が足からかめはめ波を撃ったことがあるように、きっと足に集中させて足から火を放つとかできるはずだ。

武空術は原理としては使えたとしても人一人を浮かび上がらせるだけの浮力を込めるとなると、少なくともジェット並の出力を出さないといけないから多分無理だろう。

だが例えば一瞬の跳躍に魔力を使えなら?

一瞬の加速になら?膂力にはどうだ?

さすが魔法。妄想は尽きない。



魔法の時間はあっという間に終わった。





さて、俺が選択した授業は3つ。

本来ならこれで帰宅だ。

セイラはジルたちと合流して帰宅するらしい。

家の手伝いもあるからな。



俺は学校に残る。

さっきの剣を手に取り素振りをする。

ひたすらに。基本に忠実に。

教えられたことを振り返りながら。

何度も。何度も。

芯を意識して。ブレないように…。


授業だけでは足りない。

学校に剣を借りれないか許可を取った。

ダメなようだ。

まぁ暴力沙汰になりかねないしな。仕方ない。


その後も日が傾いて空が色づくまで剣の素振りをした。

今日は槍術はいいや。

まずは剣から人並みになりたい。

魔法もいいや。

どうせできることは限られている。



帰宅は今日もランニング。

遅れないようにあまり回り道はしない。

でも緩急を付けたり上半身動作を交えることは欠かさない。

そして意識する。

大きく息を吸い、丹田に集中。息を吐きつつ、足の付け根から(もも)、腿から(ひざ)、膝から脹脛(ふくらはぎ)、脹脛から足首、そして足の指先へ集中。骨の軋みを、筋肉の動きを、腱の伸縮を頭のなかでイメージしながら走る。より疾く、より一歩前へ。軽やかに。伸びやかに。縮地のイメージで…。


身体を動かしながら集中するのは難しい。

息が乱れる…息が切れる。

これはかなりキツイ…。


ちっとも速く走れた気がしないまま早々にバテた。

息が上がり、膝に手を突く。

手をついた途端に頭から大量の汗が滴り地面を濡らした。

心臓が飛び出そうだ。どんなに吸っても酸素が足りない。

口の中が鉄の味がする。このまま血吐するじゃないだろうか。

足を前に出そうにも膝がガクガクして進めない。

顔を上げようにも上げた瞬間に眩暈がして倒れそうだ。


昨日走った限りではこんなことにはならなかったのにな…。

息の乱れが原因だろうか。

集中力を高めたことで精神的に疲れたのか。

それとも少しは魔力を消耗したのか…。

ヤバイ…このままじゃ孤児院の門限に遅刻する…。



「おや?…ファロイドじゃないか!」


何やら馬に乗った騎兵が前から近付いてくる。

兜に覆われているが見知った声だ。


この声は…。


「ジグ…か…?」


「おうとも!久しぶりだな!どうだ孤児院の生活は!?…って、どうした?ヘトヘトじゃねぇか!」


「ジグ…いいところに…。ちょっと頼みがある…。」



そして俺は、カトラ皇国騎兵団に即戦力として採用された初日のジグをタクシー代わりにして孤児院に到着したのだった。



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