第六十話:再起
校門前でジルたちと再会。
たった数日なのに凄く久しぶりに感じる。
あれ?でもジルは俺より1つ上じゃ…?
「あー、それなんだけどよ。俺てんで学ねぇじゃん?よく分かんねぇけど『どうせなら1年生からスタートしていい』ってさ。ありがたい話ってもんだ!」
と、いうことは…!?
「そっ!俺たちゃクラスメイトってことだ!よろしくな!」
グッとくる涙を堪える。ボッチじゃなくてよかった…!
一人で勉強できない人間は仲間がいたってできないのだが、俺は仲間がいなければ勉強できないタイプの人間なのだ。
集中はできなくとも、勉強は楽しむもの。
勉強は遊びと同じ。
一緒に楽しめる友達がいれば完璧だ。
さて、肝心の授業だが…。
一時間目。言語学。
小学校一年生らしく、ひたすら単語の書き取り練習がメインだ。絵でイメージし、手本の字を見よう見まねで書き移す。りんご、とか、バナナ、とかを日本語で読んでしまいがちだが、あえてカトラ皇国の言葉で読み、カトラ皇国の発音を覚える癖をつけなければならない。不思議な能力のせいで日本語で読んでも伝わってしまうし、相手のカトラ語も日本語で聞こえてしまうのが厄介だ。この能力がある日突然何らかの弾みで使えなくなった時、かなりヤバイことになる。
聞こえてくる日本語をカトラ語で返す練習が必要だ。
言うなれば日本語をマスターした外国人にひたすら英語で返答するようなもので、一見かなりもどかしい。でも我慢。
45分なんてあっという間だ。
むしろ足りない。
時々元の世界にはないものがでてくる。
そういう時はジルやバルザ達に教えてもらう。
二時間目。数学。
簡単な足し引きの計算だ。
六桁くらいまでなら暗算でも足し引きはできる。
そんなものに費やす時間は惜しい。
数学の教科書を出して、その影にさっきひたすら単語を書き写したノートを広げて言語学の自習。今は文法よりも、より多く、より沢山の単語を覚える必要がある。
数学は当分、『言語学の二時間目』にできるな…。
今日は皆でお昼を食べた。
ジルに孤児院メンバーは少し緊張気味。
意外にもソゥが一番早くジルたちとすぐ仲良くなった。
クヴァはセイラのペースにタジタジだ。
ルザルはどうやら人見知りを拗らせるタイプか。
ジャグラーは…なんか第三者のように一歩身を引いて、しかし相変わらず何を考えているか分からない笑みを浮かべている。ジル達もスルーのようだ。
バルザはシンクバトラ王国に興味があるようだ。
そうか、バルザはこの国から出たことがなかったな。
実に楽しい、いや、暖かい時間だった。
昼食後の三時間目。倫理道徳学。
これは真面目に受ける。
何せ俺は糞だからな。
内容はシンプル。『目には目を』という内容。6歳児向けとは思えないほどの、たった一言の口喧嘩が戦争まで広がった事例を題材にしたリアルな授業だった。生徒たちは凍りついている。
『やったらやりかえされる』当たり前だ。
だがそこにプライドや虚栄心が働くと歯止めがかからない。
やがては戦争にまで至ってしまうほどに。
戦争になるのは極端な例だが、絶交までなら優にある。
今までも…。
自然と過去の失敗の反省と懺悔の時間になった。
気持ちが沈む。
四時間目。基礎武術。
沈んでいる暇はない。
基礎武術といっても体育だ。
体操とランニング。身体を暖めたら基礎的な護身術。
その流れは昨日とは変わらない。
だが圧倒的に違うのは『レベル』だ。
昨日体験授業を受けた『A』というクラスだったか。
俺は皆のランニングペースに全くついていけなかった。
それは『文武両道に特に秀でている人間が集まるクラス』だったからに他ならない。この国の年齢別トップのクラスなのだ。言うなれば日本で言う『小学生でオリンピック日本代表しかも学年一勉強ができる』奴らの寄せ集め。
だが、この『D』、至って平凡。フツーの6歳児の集まり。
ランニングでは常に上位をキープ…とはいかないが、それでも上から1/3以上を常に保持し、グループの中ではジル、バルザに次いで早く構内を10周した。
武術に関して、俺とジル、セイラ、ピコは1ヶ月以上遅れているが、幸いにもこの『D』クラスは、この1ヶ月間、ランニングなど『走り方』の練習をしていたようで、武術のスキルに遅れはないようだ。
二人一組になり、相手の正拳や掴みかかる手に対し最適な動きで反撃または威力を軽減させる。単純な動きだが、武器のない状況で素手での格闘が避けられない時、必ず役に立つ。
集中し、手本の動きを記憶に刻む。
そしてイメージして実行。簡単ではない。
イメージ通りに動けない。言うは易し行うは難し。
だからこその鍛練。
あっという間の45分だった。
この45分で成長できただろうか…。
ランニングが上位だったからといって満足はしない。
このクラスで上位だとしてもその上に2つクラスがある。
カリキュラムもこのクラスよりも進んでいた。
体力レベルもまるで違った。
そう、あくまで俺は落ちこぼれなのだ。
上を目指さなければならない…。
五時間目。農業工業酪農学。
昨日、全く分からなかった授業も、仲間がいれば違う。
俺が分からないこの世の常識は友達が教えてくれる。
楽しい授業だった。
さて、ここで普通の小等部の生徒は帰宅となるのだが…
俺は補修授業の時間となる。
1ヶ月分、いや、年齢分の遅れを取り戻さなければ。
俺は言語学を集中的に鍛える。
事情を知っている先生にイチから教えてもらう。
文字を読めることの大切さはこの1ヶ月でよく分かった。
文字が読めなければ大事な約束事の一つもできない。
補修授業が終わったら孤児院まで馬車を使わずランニングして帰ることにした。夕食の18時が門限。それまでに帰ればペナルティはない。少しでも体力を。少しでも持久力を。ただランニングしただけではダメだ。緩急を付けて。かがんだり、ジャンプしたり、横走りしたりと身のこなしもつけて。
あえて人混みの中を走って。あえて細い道を走って…。
「…で、5分遅刻した、と。」
「スミマセンでした…。」
で、今俺は夕食に遅刻して土下座している、と。
あともうちょいだったんだけどな…。
如何せん時計がないってのは困る。
時間は完全に俺の感覚が頼みなのだ。
余裕あると思ってちょっと寄り道したらこれだよ。
真っ直ぐ帰ったらあるいは…
言い訳には「忘れ物して取りに帰ったら馬車に乗りそびれた。」ってことにした。苦肉の言い訳だが通じたのか、初犯だからと許された。
「全く、初っぱなからやってくれるな!」とクヴァ。
「まぁ…その…ドンマイ!」と明るくソゥ。
バルザとルザルは特に我関せず。
ジャグラーは相変わらずケタケタ笑っている。
皆には平謝りだ。
いやー、間に合うと思ったんだけどな…。
まぁ『体力尽きて路頭に迷う』最悪の展開だけは避けた。
何とか走りきったのだ。それは確かに自信に繋がった。
マラソンを完走した気分。
ゴールインの晴れやかな心境だ。
途中メチャメチャ辛かったし焦ったけど。
ペナルティがなかっただけ良しとしよう。
現世の問題児は異世界でも問題児であった。
夕食後、風呂に入る。
ドッと疲れが出た。フラフラだ。
自習の時間は眠くて起きているのにやっとだった。
でも瞑想の時間はちゃんと集中する。
『動の瞑想』。
今日1日で覚えた身のこなしを思い出す。
相手の拳の止め方、かわし方。
掴みかかる相手への対応。
人混みを駆け抜ける感覚。
しゃがんでバランスを崩してからの立て直し。
そして、これからのこと。
俺は何を目指すのか。
俺の道は決まっている。
最初からレールが出来ているのだ。
『殲滅兵器』
致死の毒血を持つ俺は戦場に立ち相手に斬られるだけで役割を為す。斬られて俺の身体から血が噴き出し、その血飛沫に触れるか吸い込むかしただけで周りにいる人間は死ぬ。
戦場の真ん中で斬られる事が仕事のようなもの。
さらに不死の能力で何度斬られても死ぬことはない。
それが大量殺人犯の俺をカトラ皇国が匿った理由。それがラカタ王国が他国の問題にまで首を突っ込んで来た理由。
だが、『不死』の能力は過信してはいけない。
死ねば終わりなのだ。魔法なり結界なり、何らかの対策が成され、俺を殺せる人間が現れるかもしれない。あくまで不死身は補助的なものと考えよう。
そのために死なない努力をしなければならない。
かといって俺は運動神経や武術の判定において『平均以下』の烙印を押されてしまっている。
ならばどうするか。
努力するしかない。
努力しなければ死ぬ世界。
生きるために努力する。
なるべく死なないために努力する。
今は『平均以下の運動神経』と評されようとも。
運動神経を鍛えよう。体力をつけよう。
持久力を伸ばそう。瞬発力を養おう。
そして洗練された武術を手に入れる。
そうしなければ…
そうしなければ俺はこの世界で生きていけない。
就寝の時間になった。
今日は考える間もなく眠りについた。
人物紹介
○ファロイド
この物語の主人公。肝心な所でいつもヘマをする。
この世界に転生したが本名は思い出せない。
年齢は外見的に6歳くらい。金髪赤目の少年。
その実、魂が腐ったクソ野郎。
人の気持ちが分からないわけではない。
○バルザ
孤児院で出会った赤毛ショートの男の子。
ラテン系のキリッとした顔立ち。子供なのに男前。
ファロイドが編入した6歳児クラスを纏める活発なリーダー。
○ルザル
茶髪ミドルヘアで東洋風の顔立ち。
キレ長のイケメン。冷静沈着な副リーダー。
○クヴァ
赤毛でボーズ。ガタイが大きい脳筋キャラ。
筋トレと三度の飯が好き。
○ジャグラー
金髪ミドル。瞳は赤い。
飄々としていて謎が多い男。
○ソゥ
金髪ショート。背が一番小さく華奢。
控えめな性格で、オドオド・ビクビクしている。
優しい。マジ天使。




