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煉獄世界の死神  作者: 敗北の貴公子
第3章 少年時代
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第五十六話:新生活




大きな鐘の音で叩き起こされる。

どうやら今は朝で、俺は深く寝てしまっていたらしい。上に寝ているソゥはとうに起きて二段ベッドから降りているが、それにすら気付かなかったようだ。

まどろんだ目で周囲を見渡すと、皆起きていて、早い人はもう布団を畳んでいる。俺が一番寝坊助のようだ。


ええと、確か規則では、6時起床、鐘が100回鳴り終わるまでに布団を畳み、着替え、シーツと寝間着を洗い籠に出し、歯磨き洗顔を済まして廊下で待つ先生の所に全員で挨拶に行くんだっけ……。



「おい!ボーッとしてる暇はねぇぞ新入り!」


リーダー格の熱血漢、バルザに言われハッとする。

急いでシーツをまくり取り布団を畳む。


はぁ……。

何が『子供達の手本に……』だ。

出鼻を(くじ)かれるというか、盛大な出落ちもいいところだ。面目丸潰れ。まぁ昨日が初対面だから面目も何もないんだけど。

寝間着を着替えながらそんな風に思うのだった。




何とか鐘が鳴り終わるまでに起床を終えることができた。


というかソゥを始めとして手伝ってくれた。

それもそのはず、鐘が鳴り終わるまでに挨拶に行かないと、ペナルティを受けることになる。しかも連帯責任なので同期全員がペナルティを受けてしまう。

だから鐘が鳴る前に早起きしたり、こうして寝坊した人は皆で手伝ってなんとか挨拶に間に合うようにする。必要な協力だ。


必要な協力だが……。中身27のオッサンが6歳児に起きる手伝いをしてもらうってのはどうよ?朝から屈辱もいいところだ。心境的には最悪な朝である。

皆さんすみません。



先生に挨拶したあとは掃除である。

部屋掃除は基本。6人で協力しサクッと終わらせる。

バルザが俺に仕事を振ってくれる。ありがたい。

その後は各場所の掃除。

各場所の掃除は学年毎の当番制で、今日はトイレ掃除の番だ。

4階フロアのトイレは2箇所。

そこを3人ずつに分かれて掃除する。俺はバルザとソゥの班、ルザルとクヴァとジャグラーは別の班だ。

分かれる時はバルザとルザルが別れることが多いそうだ。


介護福祉の仕事柄、本来トイレ掃除は何の躊躇いもない。

だがこの世界には手袋もなく洗剤もない。トイレ掃除をした手を洗う石鹸はあるにはあるが、果たして除菌効果はあるのやら…。

そう考えると少し戸惑ってしまう。

とはいえ、せっせとトイレ掃除をするバルザとソゥに負けてはいられない。俺も隅々までキレイにする。



掃除が終わったら朝の修練の時間。

身軽な布着に着替えて広場へ行く。

孤児院専用の広場、まぁ校庭のようなものだが、そこには6歳から11歳までの生徒が集まる。総勢70名ほど。では12歳から15歳までの生徒はというと、この時間は奉仕の時間で、外に働きに出ているのだそうだ。


全員で体操、ストレッチを終えて約15分のランニング。

ランニングが終わったら各学年・性別で異なる修練を行う。

6歳の学年は男女分けず、素手での格闘の基本的な構えの練習。

実際に殴り合うことはない。空手で言う「型」の練習だ。

立ち方、腕の位置、足運び、腕の出し方、所作。

先生の手本の動きを見る感じとしては、身を守るための護身術や合気道に近いかも知れない。

「生兵法は怪我の元」という言葉がある通り、生兵法は怪我どころか、この世界では「死」の危険すらある。

特に護身術は、得物を失い負傷した時の最後の頼みの綱、生死を決める技術になり得ると言っていいだろう。

死なない身体だとしても、そう何度も死ぬのは御免だ。


手本の動きをよく見て真似ることに集中する。

足の幅はどれくらいか。目線は?重心は?


もしこの状態で相手が殴りかかってきたら?

突っ込んでタックルをしてきたら?

もし相手が剣や槍で襲いかかってきたら?


そんなことを思い馳せながら観察していく。

修練の時間は体操とランニングを合わせて1時間ほどだったが、集中していたせいかあっという間に感じた。



修練が終わるとやっと朝食である。

時刻は8時。

お腹がペコペコだ。

起きてから朝飯までが辛すぎる。


朝食は簡素なパンとスープだった。

おかわりしたのはいうまでもない。



朝食を終え、登校の支度をする。

と言っても持ち物に教科書はない。

教科書は全て学園で借りることになっている。

借りた教科書や先生の言葉をノートにメモして、教科書は学園に返却して帰宅し、ノートを元に家庭学習をする。まぁマルチコピー機もスキャナーもないこの世界では当然のことだ。製紙技術があって、こんな孤児たちにも配られるほど普及しているだけ素晴らしい。まぁ無駄遣いするほどの量はないんだけど。



筆入れとインクとノートとバッグを寮夫のオク先生に貰い、熱血リーダーのバルザを先頭、冷静沈着副リーダーのルザルを殿(しんがり)に、6人全員で登校する。

学園まではそれなりの距離があるが、スクール馬車が迎えに来てくれる。といっても全員が乗るわけではなく、乗れる「年齢」が決まっていて、10歳以上の男子と12歳以上の女子は学校まで歩いて登校することとなっている。高学年の男子は学校まで走って登校する子も多い。歩いて、または走って登校するにしても、足の早い子で45分程度で着くようだが、学校までは見た感じかなり距離があり、遅くとも90分以内に学校に辿り着かなければ遅刻である。この距離を歩いて登校とか信じられない。どんなアドレナリンしてるんだ。今から数年後が憂鬱である。



孤児院から少し離れたところには、既に何台かの馬車が停まっていた。二頭の馬に小型トラック程度の、屋根も何もない荷台がくっついている。勿論椅子も背もたれもない。晴れた日は荷台に腰を降ろせばいいが、雨の日は悲惨である。

梯子で荷台に乗り、ぎゅうぎゅうとは行かないまでも、そう身動きとれなくなるくらい詰め込められた。頭の中で自然とドナドナが流れる。「送迎」と言うより「出荷」だ。


馬車は駆ける。

大したスピードではない。少なくともママチャリ程度のスピードだ。

それでも(なび)き、髪を踊らせる風が気持ちいい。


時刻は9時。

街は朝市で賑わっている。道端の露店は取れたて朝摘みの野菜を売る者や、まだみずみずしく光沢のある魚を売る者、塩や香辛料を売る行商、それらを買い求める主婦で賑わっている。


異世界の朝の賑わいといえば、シンクバトラ王国の、まるで人混みがカーペットの様に街道を埋め尽くしていた風景に強い印象が残っているが、ここカトラ皇国の人混みはそこまで酷くはない。カトラ皇国がシンクバトラ王国よりも遥かに大国であるにも関わらず、である。広大な城下町であることもさることながら、人口が集中し過ぎないよう、中心に公園、それを幾重にも囲う環状の街道、中央に伸びる8本の大きな街道に加え、人混みが分散するように上手く区画整備をしているようだった。


馬車は朝市で賑わうカトラ皇国の街中を駆けていく。

バス通学は経験したことがないし、馬車通学なんてもっての他だが、まだ昇りきっていない朝日とそよ風の中、コトコトと揺れる馬車というものは気持ちがいい。加えてカトラの朝市の熱気と賑わい。人々の笑顔。過ぎ去っていく色とりどりの建物。ただ馬車に揺られているだけなのに、それだけで「大冒険」といった気持ちになる。まさしく映画の中の世界なのだ。



「どうしたんだファロイド。キョロキョロして。」

後ろに座る年の割に落ち着いた子供、ルザルが問いかける。


「ああ…。スゲェなって思って…。」


隣を見るとソゥが得意げにニコニコしている。

「そっか。ファロイドくんは初めてだもんね。」


「そーいうソゥも新入りみてぇなモンだけどよ!」


「もー!クヴァ!それ言わないでよぅ…。」


「クヴァもカトラの出身なのか?」


「あたぼうよ!バルザとルザルもカトラ出身だ。元々バルザとルザルとオレの三人組だったんだぜ!」


「へぇ。そうなのか。」


「ジャグラーとソゥは孤児院で会ったんだ!」


ジャグラーの方を見る…と、何やら俺の顔を見て薄気味悪い笑顔を浮かべている。何だこいつ。まぁ気にしたら負けだ。


「ソゥはどこ出身?」


「ぼくは遥か遠くの、マザマ王国だけど…。」


ふむ…。カトラ皇国に来た経緯は大体予想がつくが…。


「ジャグラーは?」


「フフフ。ワタシですか?…ナイショです♪」


私情は明かさないタイプか。

相変わらずニヤニヤしている。

若干イラッとするが、これも気にしたら負けだろう。


その後、聞いてもいないし頼んでもいないが、クヴァのカトラ城下町紹介が勝手に始まった。彼なりの親切だろう。じっくり聴くことにした。

今通りかかった通りの名前、店の名前。観光名所etc...


周りの子供達も俺たちの会話を面白そうに眺め、聞いているのが分かる。まるでバスガイドだ。そしてそれに逐一感心していた俺は田舎者丸出しというか完全にお登りさんだ。今更ながら大分恥ずかしい。そんな俺の気持ちなどこの脳筋が知る由もなく、クヴァの観光案内は続いた。



人物紹介

○ファロイド

この物語の主人公。肝心な所でいつもヘマをする。

この世界に転生したが本名は思い出せない。

年齢は外見的に6歳くらい。金髪赤目の少年。

能力発動時は髪がレモンイエローに光り、瞳が輝く。

そして能力発動時は女の子になってしまう。

カトラ皇国の王子様に連れられて孤児院入り。



○バルザ

孤児院で出会った赤毛ショートの男の子。

ラテン系のキリッとした顔立ち。子供なのに男前。

ファロイドが編入した6歳児クラスを纏める活発なリーダー。

その威厳と風格は6歳には思えない。

喧嘩は6人の中で一番強い。

正義感が人一倍強く、弱い人間には手を上げない。

力比べが好きという子供っぽい面もある。

一人称は「俺」。

カトラ皇国の出身。



○ルザル

茶髪ミドルヘアで東洋風の顔立ち。

キレ長のイケメン。冷静沈着な副リーダー。

6歳とは思えないほど落ち着いている。

グループの中では一番勉強ができるようだ。

一人称は「僕」。

カトラ皇国の出身。



○クヴァ

赤毛でボーズ。ガタイが大きい脳筋キャラ。

筋トレと三度の飯が好き。

勉強はテンでダメ。

バルザ同様に正義感が強く、意外と優しい面も持つ。

一人称は「オレ」。

カトラ皇国の出身。



○ジャグラー

金髪ミドル。瞳は赤い。

飄々としていて掴み所がない。他のメンバーも深く関わろうとせず、自分からもあまり話そうとしないため謎が多い。時々気味の悪い笑顔を見せることも。

一人称は「ワタシ」。

出自不明。



○ソゥ

金髪ショート。背が一番小さく華奢。

控えめな性格で、オドオド・ビクビクしている。

真面目で、純粋。グループの中では一番優しい。

勤勉家のため勉強は出来るが決して天才ではない。

運動は本当に苦手。

一人称は「ボク」。

マザマ王国の出身。




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