第五十七話:カトラ国立学園小等部
「死神感でてねーじゃん」と思った君は正しい
馬車はカトラ皇国の街を駆けていく。
カトラ皇国の町並みは北欧のイメージを彷彿とさせる。
赤色、黄色、青色、黄土色、茶色。カトラ皇国の町並みは色とりどりの家々によってとても映える。大小、形、デザインも様々で、広い視野で町並みを眺めると、まるでポップアートの現代芸術作品を見ているかのよう。常に新鮮なのだ。
しかし全ての家が自由気ままに、無秩序に立てられているかと言うとそうではない。そこには一定のモラルがあり、どの家も決して悪目立ちはしていない。灰色のコンクリートに囲まれた世界、つまり現代大都市もそれはそれで統一感があって、無機質で、ひたすらに機能性とパフォーマンスを追及したドライな感じで格好いいが、それとは大違いだ。視界を流れていく家々をぼーっと眺めていると心が潤う感じがする。
「おーい!お前ら!そろそろ着くぞ!」
今まで会話に入ってこなかった頼みのリーダー、バルザが俺たちに声を駆ける。
馬車は巨大で純白の、絢爛豪華な洋門の前で停まった。
高さで言えば奈良の東大寺よりも大きく、ビルで例えれば7~8階相当はあるだろう。門は100mほどの奥行きがあり、パルテノン神殿のような巨大な石柱が並び、天井には芸術的な西洋風の彫刻が成されている。その奥に白壁の巨大な建物……あれがカトラ皇国が国を挙げて作った学園か。あまりの大きさと立派さに思わず口が空いてしまう。
「おーい、行くぞ~!」
バルザの声でハッと我に帰る。
子供達は皆、馬車の荷台から飛び降りていた。
俺も後に続き飛び降りる。
荷台は少なくとも今の、この6歳児の身長よりも高い。170cmの大人なら2mの高さの壁からジャンプするようなものだ。少し怖かったが、子供の軽さあってのこと。うまく着地に成功した。
リーダーのバルザを先頭に、クヴァ、俺、ソゥ、ジャグラー、ルザルの順で校内に入る。校内といっても正門から俺たちの小等部の建物までは15分くらい歩くことになる。遠目からはよく見えなかったが、学園の敷地で言えばこの広大なカトラ皇国城下町の10分の1を占めるのではないだろうか。規模は日本国内有数のテーマパークより大きい。学園の巨大さ、そして美しさに終始圧倒されつつ進む。実に優越感のある登校だ。
学園はどれもかなり規模が大きい。
7~8階建ての建物が7つ、全てが小等部の建物だ。
大学の規模である。
校舎の前で教師らしき男性に引き留められた。
ん?確かこの人は寮夫の一人の…確か名前は…。
登校初日、編入ということもあり、今日は授業は受けずに学園の説明と見学ということになりそうだ。
バルザたちと別れ、男性職員に着いていく。
皆と同じクラスになれるだろうか?ジルやセイラたちもいて欲しい。誰も知り合いがいない状況というのは人見知りにとって辛い。別れ際に急に不安になった。
その後俺は職員室の前にある簡素な応接間へ通された。
ジルたちは…いないか。残念。
男性職員による説明が始まる。
カトラ皇国国立学園は6~10歳の小等部、11~15歳の中等部、16歳以上の上等部の三部構成となっているようだ。
小等部・中等部に通える権利はカトラ皇国に住まう子供全員、つまり王族や貴族の子供から孤児院に所属する子供や貧民の子供まで全員が持っており、カトラ皇国の教育制度が充実していることの表れとなっている。 小等部に入る金額は全額国負担、中等部は有料となり貧民の子供の比率はほぼゼロに近いが、小等部までで貧民の子供でも自国語や商いに必要な簡単な計算など最低限の教養は得ることができる。
上等部は他国からも入学が許可されており、小等部は一般教養、中等部は応用教育の場で、上等部は例えるなら大学や大学院に当たり、さらなる応用研究や学業を学ぶ。上等部はお金がかかるため、あまり進学率は良くないようだが、それでも中等部までで一般教養はしっかり身に付く。
規模としては6~10歳の小等部・11~15歳の中等部でそれぞれ約1000人の子供が在籍し、全国生徒は約2500人に昇る。学園関係者も含めれば3000人規模にもなる。
勿論これがカトラ皇国の全ての子供の数ではない。この国立学園まで通学が遠かったり、入学するお金がない家は、国内の別の学校や個人塾へ子供を預け、教養を付けているようだ。
最も、俺とジルたち5人はカトラ皇国の無償入学から中等部までの学費・必要経費全額国負担という破格の待遇付きなのだが。
小等部の授業は10時から開始、1限45分間の講義と15分の移動・休憩を含めた60分構成だ。それが5限まである。
途中12時から13時まで昼休憩1時間を挟むが、16時まで授業とは小学生としてはややガッツリである。
ちなみに中等部は授業開始が1時間繰り上がり9時から16時まで、上等部は9時から17時までである。
そしてここは異世界。日本では考えられないが、夏休みも冬休みもなく、年末年始休暇もなければお盆もない。土曜日も普通に登校日である。唯一、日曜日だけは休みなのが幸いだが…。残念ながら日曜日は孤児院の方で「社会奉仕」という謎のカリキュラムが組まれている。つまり基本的に休みはないのである。
「遊び」が子供の社会性を育むのは事実で、子供には遊ぶ時間が勉強と同じくらい、いや、それ以上に重要だ。それ故に現代社会では、より子供の余暇を重要視しているが、残念ながらここは異世界。そんなものは概念すらないだろう。子供は休みの日は家業の手伝いをしたり小遣い稼ぎに出るのが当たり前なのである。
まぁそれでも、余暇の重要性に関してはカトラ皇帝のラキに話してみるか…。
話を戻そう。
6歳から10歳までの小等部の必須教科は『基礎言語学』『基礎数学』『倫理道徳(社会)』『基礎武術(体育)』『農工業酪農学』の5つ。月曜日から金曜日までの平日に、それぞれ決まった時間に行う。
土曜日は『薬草学』『魔法学』『美術』『図工』『建築』『剣術』『弓術』『槍術』『短剣術』『隠密術』などのいくつかの選択授業があり、そこから3つ以上を選ぶ形となる。
中等部になるとそれぞれの応用学に加え、『外国語学』『政治・経済学』『地理・地質学』『兵法』『馬術』『医学』『呪学』などが新たに教科に加わり、より幅広く、より専門的に学ぶことができるのだ。
殆ど現代日本の学業と同じだが、大きく異なる点がある。
それは学業が生死に関わるということだ。
ここには現代日本のように落ちこぼれを救う法律はない。
皆生きるために賢くなり、生きるために鍛える。
それはどんな小さな子にも刻まれている。
どんな小さい子も身に染みて分かっている。
だからバルザたちは年の割に立派に見えたのだ。
子供だからといって、甘えられるのは幼児まで。
見ているのだ。
有能な子供が一生懸命働く姿を。
見ているのだ。
無能な大人がボロ雑巾のように棄てられている様を。
だからこんな小さな子供達も、生きるためにしっかりとした夢を持ち、それに合った選択授業を選ぶことができるのだろう。
…なるほどな。
俺の異世界転生は、夢物語のように甘くない…。
そして俺が生きるべき道は……。
一通り校則や授業内容について聞き、教室へ。
足取りは重い。
途中からだが『倫理道徳』の体験授業を受けた。
半分以上授業の話は入ってこない。上の空だ。
進路選択のことが頭から離れない。
そして教科書の文字が分からない。
俺はこの世界に転生した日から、何故か人の言葉が自然と日本語に翻訳される能力?を持っていた。だから話している言葉を理解するのに苦労せず、自分の日本語もこの異国の地で通用していた。しかし文字は読めないのである。
今は先生の話す言葉が全てなのだが、多分「奉仕に行くときの重要なマナー」みたいな内容を言っていると思う。
冒頭から聞いていないので分からないが。
その上、今は5月。俺が転生してきたのが4月の始めということを考えると、1ヶ月以上周りより遅れてしまっている。
内容が分かるはずないのだ。
体験授業を受けたあと、男性職員に異国の出身のため文字が読めないこと、知識が遅れていてついていけないことを話すと、配慮を検討してくれるそうだ。
ありがたい。
その後は昼食。
人の流れに身を任せ食堂へ。
混雑した場所で食べるのは好きじゃない。
ウインナーと卵を挟んだパンを買って空き教室で食べた。
料金はかからない。
学生証を見せれば全て国が負担してくれる。
ジルたち幼なじみやバルザたち孤児仲間と合流できていない。
授業には集中できるかも知れないけど、少し寂しいな…。
一日の終わりに男性職員に報告することになっているから、とりあえずそれも聞いてみよう…。
人物紹介
○ファロイド
この物語の主人公。肝心な所でいつもヘマをする。
この世界に転生したが本名は思い出せない。
年齢は外見的に6歳くらい。金髪赤目の少年。
勉強は社会と理科が得意。
○バルザ
孤児院で出会った赤毛ショートの男の子。
ラテン系のキリッとした顔立ち。子供なのに男前。
ファロイドが編入した6歳児クラスを纏める活発なリーダー。
○ルザル
茶髪ミドルヘアで東洋風の顔立ち。
キレ長のイケメン。冷静沈着な副リーダー。
○クヴァ
赤毛でボーズ。ガタイが大きい脳筋キャラ。
筋トレと三度の飯が好き。
○ジャグラー
金髪ミドル。瞳は赤い。
飄々としていて掴み所がない謎の男。
○ソゥ
金髪ショート。背が一番小さく華奢。
控えめな性格で、オドオド・ビクビクしている。
真面目で、純粋。グループの中では一番優しい。




