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煉獄世界の死神  作者: 敗北の貴公子
第3章 少年時代
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第五十一話:カトラ皇国への旅路




「う……ん……。」


目を覚ますと、そこは馬車の上。

そうだった。

俺は今、カトラ皇国への旅路のまっ最中だ。


馬は足を止めており、乗組員は俺だけだ。

遠くの方で子供達のはしゃぐ黄色い声が聞こえる。

どうやら休憩しているようだ。


今、太陽は頭の上にあり、燦々(さんさん)と輝いている。雲1つない晴天だ。季節は4月の終わり。地球の北半球にあると推測されるこの世界は、日差しは暖かいとは言え風が吹けば結構寒い。


辺りを見回すと広大な草原。

イネ科の雑草というわけではなく、どちらかというと芝生の様に背の低い草で覆われている。モンゴルの牧草地のイメージで合っているだろう。寝転んだらさぞかし気持ちがいいのだろう。

遠くを見回すとチラホラと低い山がある。そういった背の低いコブの様な山にはまだ雪が積もっており、春の足音が聞こえるのはまだまだ先のようだ。氷河のようなものは無いが、山や谷が「カール」と呼ばれる、氷河が山肌を削って出来る独特の形をしている様子から、ここは寒冷地帯であると伺える。


ノルウェーやフィンランドのような北欧みたいな風景だ。

とても美しい。



俺が眠って何日経ったのだろうか……。



「おっ、やっと起きたか。」


「ジグ…ここは?俺は何日くらい寝てた?」


「4日ってとこかな?もうカトラ皇国の領内だよ。ジルたちはそこらで駆け回ってる。あとちょっとしたらまた出発だ。」


ジグは見張りをしていたらしい。

髭が少し伸びていて時間の経過を感じさせる。



身体を起こして辺りを見回す。

馬車は5台ほどで隊列を組んでおり、一番前は荷物用、次に俺たちの乗っていた馬車、その後ろがラキが乗る馬車、その後ろが大臣たち、そして一番後ろも荷物用の馬車となっている。皇太子が乗っているからといって特別キラキラした装飾がされているわけでもなく、全て同じ形、同じ色、同じ(ホロ)の馬車であるのは、賊の襲撃を受けたときのカモフラージュの意味合いがあるのだろう。総理大臣や天皇陛下が乗っている車が同じ車で車列を成しているのと同じだ。


しかし馬、ねぇ……。

改めて間近で見るのは初めてだが、どう見ても『馬』だ。異世界モノの小説に乗り物として出てくるような、大きいトカゲのような爬虫類ではない。だからといってサイやゾウではなく、『馬』なのだ。どこにも違和感は感じない。


ここが地球だとして、星空から予想したように数億年先のはるか未来の地球だとして、西暦2000年に存在する動物が原型を留めて存在しているのはどうも引っかかる。


ワニやサメも恐竜と同じ白亜期に“ほぼ同じ姿で”存在していたが、数千万年の時を経て生育環境や餌の変化によりその大きさを随分と変えてしまっている。ワニやサメはまだ原型を留めている方で、例えば爬虫類の一種はこの数億年で羽根が生えて空を飛ぶようになったのだ。馬もペガサスくらい進化しててもおかしくない。


ふむ…。



「ファロイド、起きたか。」


寝起きで回らない頭をフル回転させている俺に後ろからラキが話しかけてきていた。いつの間にこの馬車に!?ってかこれ怒られるパターンや…。

すぐラキの方を向き直り挨拶する。


「これはこれは皇太子殿下、ご機嫌麗しゅう様で。長らく惰眠を貪ってしまい申し訳ございませんでした。」


「全く…。惰眠ってレベルの寝方じゃなかったんだがな。覚醒が解けると本当に何をしても起きないのだな…。」


「え、何かしたんですか?」


「まぁ、ちょっと手荒な事をした、かな…。」



え、凄く気になるんですけど。


「それより、だ。ファロイド。あと1日もすれば我が皇国の城門に辿り着こう。自分で言うのも何だが、なかなかに良い町だぞ?文明も他に負けていないと自負している。」


あれ、話を変えられた。まぁいいか。


「ほう、それは楽しみです。他の国にはなく、カトラ皇国ならではの物は、例えばどんなモノがあるのですか?」


「ふむ、そうさな。まずカトラ皇国の建物だ。まぁそれは彼是(あれこれ)と御託を並べるより、実際に見た方が早い。美しさでは他の国の追従を許さないぞ?文明に関してだが…まぁこれも見た方が早いだろう。」


そこまで言っといて勿体振るなよ!w


「まぁ、ファロイドの驚く顔がみたいだけだ。」


そうだった。

この皇太子殿下は人の心が読めるんだった。

うっかり心の中でツッコミをしてしまったが、それも無礼に当たると考えるとなかなかに恐縮する。ちらっと頭を過った瞬間に不敬罪なのだ。気を使うを通り越して関わりたくなくなる。


「そう思われるからあまり明かしたくないのだ。」


ラキとしても気を遣われるのは嫌なようだ。不敬罪にすることはないからとフォローを入れてくれている。

ラキは俺の事を友か弟として見てくれているようだ。

こちらも気を使わずに接する。


しかし読心の能力、か…。

俺からすれば喉から手が出るほど欲しい能力なのだが、実際に目の当たりにすると、かなりストレスになるものらしい。


「全く、たまったものじゃない。これでも少しは能力に慣れてきたのだが…。どんな高尚な事を口にする聖人も、この能力を以てすれば、その言葉の裏の欲や下心が見えるというのは、夢も希望も持てないものでな…。」


「心中お察しします。また皇宮に着いたらお話をお聞かせください。…どうやら出発のようですよ。」



兵士たちの号令がかかり、子供達や大臣達が続々と集まって来ていた。ラキが読心能力を持っていることを他の人間に知られるわけにはいかない。トップシークレットなのだ。




ラキも元いた馬車に戻り、旅は再開する。

馬を飛ばしてもシンクバトラ王国との往復に1週間かかる旅路。皇太子を乗せた馬車の車列は片道でも5日はかかる長旅。寝ていた俺の記憶にはなかったが、この4日間、その殆どが“タイガ”と呼ばれる深い針葉樹の森の中を走っており、ずっと森の中で夜を明かしてきたらしい。


異世界と現世の最大の違い。それは利便性である。

電気もガスもなく、お湯を沸かすにも一苦労。

夜は真っ暗で松明と月明かりが頼り。

こうして遠出をするにも数日あるいは数ヶ月ががかり。

ましてやこの大陸は中国大陸くらいあるのだ。

カトラ皇国からシンクバトラ王国へ行くにも、時速20km程度の馬車で5日。1日9時間馬を走らせる走るとして、900kmの道のり。東京から博多までの距離としても、新幹線で数時間で行ける距離でも大変なことだ。



当然、子供達は飽きる。

いや、子供でなくとも飽きる。

子供達は時々「つまんなーい」と言っては馬の背中に乗せて貰ったりしている。ゲーム機は勿論オモチャもない異世界。それくらいしか暇潰しがないのだ。


「ジグはどう暇を潰してるんだ?」


横で目を閉じてじっとしているジグに話しかけるが、全く動かない。寝ているわけではないようだが…。


「ジグ?」


「…ん?ああ、ファロイドか。」


「何してるんだ?」


「こういう暇な時は、瞑想に限るのさ。」


「瞑想?」


「そう。正確に言えば『動の瞑想』ってところだな。瞑想には『動の瞑想』と『静の瞑想』とあってな。『動の瞑想』というのは、自分が培ってきた戦闘経験を頭の中で再生して、回避や防御、反撃を頭の中で想像することだ。」


「イメージトレーニングみたいなものか。」


「その、イメージなんとやらというのは分からないが、まぁ一介の兵士はこうやって戦闘を思い描くのも鍛錬の1つだ。そうやって思い描いた身体の動きに近付けるように鍛練をする。人によって思い描く理想は違うから、当然鍛練の方法も異なるのさ。」


なるほど…。

深いな。とても深い。

恐らくジグの中では数々の死線を越えてきたその映像がシュミレートされているのだろう。斬りかかってくる敵にどう対応するかを頭の中で練っていたのだ。

俺は戦闘経験がない。

まぁフジの村で子供同士のケンカをしたくらいかな。

だからまだ意味を成さないが…。



だが、異世界に来てつくづく思った。

強くなければ生き残れない、と。

この中世程度の文明社会では個人の強さは揺るぎない価値だ。それだけで周囲は個人を認め、社会的に優位になる。

世渡り下手な俺だ。考えても空回りして失敗する俺だ。

『強くならなければ。』

そう心から誓った。

あとはどう強くなるかだが……。



そう考えているだけでもあっという間に時は過ぎ、いつしか日が傾いており、馬車は停まって本日の野営準備に取り掛かっていた。

子供達も薪集めや水汲みに行ったり、天幕が飛ばない様に石を並べたり、焚き火用に石を組んだり、衣類の洗濯など自分に出来ることを率先してやっている。

大したものだ。いや、正直に凄いと思う。


ラキも子供達を評価しているようだった。



……さて、俺もサバイバル技術を披露するとしよう。



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