第四十七話:処刑
王の処刑が終わり、いよいよ大詰め。
最後の処刑が始まる。
さて、俺の番か。
名前を呼ばれ、手を前にし、手枷を付けられたまま兵士に連れられて処刑台へ向かう。
「おい見ろ子供だぞ!」
「やだ…本当に子供じゃない…。」
「見て!あんな小さい女の子よ!」
「バカ!あれは男だよ!」
「何て美しい子なの…!?」
「あんな小さい子が騒動の元凶!?」
「本当にそうなのか!?でも異様な雰囲気だ…。きっとあいつが病気を広めたんだ!」
「私のパパは病気になって、病院行ったんだけど、治して貰えず、アイツに閉じ込められて死んだの!」
「アイツは子供の皮を被った悪魔だ!」
アルマン王のお祭り騒ぎはどこへやら。
会場全体が動揺でざわめく。
台座に乗り、磔用に組まれた柱に鎖で磔にされる。
台座は木々が何重かに組まれ藁束がどっさりと敷かれており、油で光っている。並大抵のことでは死なないと思ったのだろうか。これでは骨すら残らず灰になるだろう。その撤退ぶりが伺える。
罪状が読み上げられる。
若干、いやなかなか大袈裟に盛っている。
それはそれは悪魔のように誇張して。
呆れを通り越して、もはや滑稽だ。
恐怖、疑念、歓喜、期待、複雑…
処刑台からは様々な表情が見える。
だが、この景色ももうすぐ…終わる。
「何か言い残すことはあるか!」
「ありま………」
そう言いかけた時だった。
「ファロイドぉぉおおおお!!!!」
人混みをかき分け、何かやってくる。
大人の体格ではない……子供……?
まさか!
「ファロイド!!お前!!どういうことだよ!!!」
「そうよ!どうしてそんなとこにいるのよ!!」
ジル…セイラ……みんな!
「お前……!なんでみんなを救ったお前が処刑されなきゃならねぇんだよ!!どう考えてもおかしいだろ!!!」
「ジル…。」
ジル達は兵士に拘束され地べたに押さえつけられる。
手足を捻られ、縛られ苦悶の表情を浮かべるジル。
突然の出来事に、観衆は不気味に静まり返る。
「ジル。よく覚えとけ。物事には『やりすぎ』って言葉がある。俺が病気の人々を救ったのは、確かに『正義』だがな。方法が間違っていたり、『やりすぎ』たりすると、『正義』は『悪』になるんだよ。そして俺は間違えた。それだけだ。」
「だったとしても!!お前が救った人すらお前を恨むのはおかしいだろぉおお!!!」
「それが『人の心』というものだ。ジル。リリ。セイラ。ピコ。レイタ。お前らは生きて、それを勉強しろ。……じゃあな。」
俺の口に布が巻かれる。
舌を噛まないようにするためだ。
そして俺の足元の藁束に火がくべられる。
たっぷり油を含んだ藁や木材は、すぐに黒煙を上げ、豪炎となって天に昇るほど燃え盛り、俺の身体を包み込む。熱さではない。痛さだ。肌が焼けていく激痛。髪や肌が焼けていく匂い。俺はあまりの痛みに思わず絶叫を上げるが、口に縛られた布と業火の音で絶叫は響かない。
程無くして意識が薄れていく。超回復による再生が始まっているようだが、この業火による傷は回復力を上回り、足元から皮膚が溶け落ち、血は沸騰し、肉は弾けて骨となっていく。
目を瞑る。
瞼の裏側のオレンジ色の世界が広がる。
……ああ、酷い…酷い人生だった…
頑張って、頑張って…俺なりに頑張った…
もし来世があるのなら、今度こそ……
今度こそ…
〈コンドコソ?〉
今度こそ…幸せを…
〈幸セッテ、ナニ?〉
幸せって…なんだっけ……。
突如世界が漆黒に変わる。
つまり、完全に気を失ったということ。
そして、その漆黒の世界に金髪赤目の幼女が立っている。
お前は…。
〈マタ、説明ガ、ヒツヨウ?〉
そうだ。お前はオレだ。俺はオマエ。
王に処刑された時以来だったかな?
今回も俺を許してはくれないのか?
〈ダメ。ユルサナイ。〉
そうか。
まだ、許されていない、か…。
……また生き返るのか。
俺は子供の時、壮絶なイジメが辛くて辛くて、死にたいと願って、自らの手で自らの人生に幕を降ろそうと、衝動的に学校の4階の窓から飛び降りた。
でも、落ちていく最中、生きたいと思ってしまった。
願い叶って俺はたまたま落下地点にあった植木にひっかかり、一命を取り止めた。
親から貰った命を粗末にした罪。
死にたいと願い、死ぬ寸前で生きたいと願った罪。
死に損なった罪。
その罰は『不死不滅』。
『死にたくても死ねない』能力。
異世界転生。
新たなる命。新たなる身体。
背負った『原罪』。
そして『不死不滅』という『原罰』の姿。
それが目の前にいる金髪赤目の幼女の『オレ』。
生きることが背負いし『罰』。
…………。
全く、憎たらしい姿だ……。
……………。
目の前の『オレ』は消え、
世界が再び暗闇に包まれていく。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
火炙りの処刑台は天高く炎と黒煙を上げ燃え盛る。
あまりの熱量に処刑台を取り巻くようにして見守っていた観客は数メートル後退り、中には早々と帰宅する観客も出てきた。
油をかけすぎたか?
薪をくべすぎたか?
処刑執行部の面々は「やりすぎた」という感想だ。
ファロイドは今や骨となり身体は崩れて炎の中だ。
天高く昇る豪炎は、包まれた木々やファロイドを炭すら残さず灰にしていく。
ファロイドをくくりつけていた柱が倒れ、処刑は終了。
あとは火が自然に消えていくのを待つのみである。
各国重鎮と処刑されなかったシンクバトラ王国の重役は処刑場所を離れ、王宮内で今後の協議に入るため移動を開始した。
観衆もまた解散し、日常生活へ戻っていく。
ジルたちは解放され、最初その場を動こうとはしなかったが、ジグに説得され宿に戻った。明日からカトラ皇国で新しい生活が始まる。全てファロイドのお陰だ。最早炭と灰になりチロチロと燃える処刑台に向け、皆で深くお辞儀をする。出来れば、ファロイドと一緒に行きたかったと、皆泣きながら、深く深く頭を下げた。
「さようなら。ファロイド…。」




