第四十六話:報い
時はあっという間に過ぎ、午後となり、運命の審判が行われる時間となった。
その服装からこのシンクバトラ王国ではない、他の国の兵士に拘束され、行政や会議を行っている玉座の間へ移動する。
玉間は模様を変え、今回の事件で協力した関係各国の大臣十数名や、おそらく王であろう威厳のある人物が何名か、中央に空けられた空間を囲むように座っていた。その中にはべリス婆さんの姿も見える。
そして、その中央には椅子が1つ。
被告人の座る椅子だ。
その後ろには待機用の椅子がいくつ列を成しており、この国の大臣各員、そして王が座っている。王は両手を縛られ、目を瞑って「その時」を待っている。
俺は待機列の一番最後尾へ。
俺の審判は一番最後のようだ。
「これより、4大列強によるシンクバトラ王国悪病蔓延責任追求委員会会議を開催する!!」
裁判が始まった。
今回の会議開催の目的など、色々と説明している。この会議はカトラ皇国と肩を並べる列強の国々が参加しているようだ。
…正直、あまり、聞いていなかった。
「シンクバトラ王国国王アルマン・バトラ、前へ!」
王は名を呼ばれ、中央の椅子へ。
罪状が述べられる。
そして……。
「…よって、シンクバトラ国王アルマン・バトラを、ギロチンによる公開斬首の刑とする!!」
…………。
アルマン王の処刑が決定した。本来ならば一族諸とも処刑が妥当であるが、国民を救おうとした正義感、蔓延防止に尽力した功績からの情状酌量の余地があると判断され、王妃と産まれたばかりの皇太子は、平民としてカトラ皇国の国民となることに決まった。
「深き御慈悲、恐悦至極。」
王は深く頭を下げる。
長く、長く頭を下げる…。
…………。
他の大臣は、全財産・資産・土地没収に加え公開投石、公開鞭打ちなどの刑が殆どだった。中にはその政治手腕を買われ、刑を受けた後に「生きていれば」他国に引き取られる契約を交わした者もいた。
…………そして、俺の番が来る。
中央の椅子へ。
会場からどよめきが起こる。
「子供じゃないか…」
「あれが奇跡の子か…」
「男の子だと聞いていたが……」
椅子に座り、目を瞑る。
「静粛に!!では最後に『ファロイド』という出生不明の少年の審判を開始する!!ファロイドは1ヶ月ほど前に空から降ってきて……」
略歴の説明。
ここに至った経緯の説明。
異世界の知識に関すること。
俺の考えるこの世界の推測と真理。
不死の能力。
そして、奇跡の白い光…。
最後に、俺の犯した罪。
『国家転覆罪』。国に対し甚大な損害を生んだ事。
『差別的殺人罪』。平等に助けなかった事。
『殺人罪』。助けを求める人を見捨てて殺した事。
『蘇生罪』。自然に反し人を生き返らせた事。
………。
罪状の説明が終わった後は質疑応答。
異例のことだそうだ。
各国代表から様々な質問が飛び交う。
俺は…今さら躊躇うことはない。
この世界に関しては、推測や推察も含め、知り得たこと、現段階で考えられること全てを話す。
今回の事件に関しては、その当時の心境、感情、心の動き、行動などの全てを正直に話す。
ただ、自分の能力だけは、白い光の実演に留めた。
今この場で不死の能力を披露することもできる。
いや、ここに集まった全ての人間は、その世にも奇妙な不死の能力を見にきたのだ。例えば実演したとして、この場で俺の心臓を穿ったとしよう。べリス婆さんの見解が正しければ、その時点でこの場にいる多くの人間に感染する可能性がある。
それは本意ではなかった。
それらを説明し終え、ある程度質問が終わったところで関係各国に於ける俺の処遇の話し合いが始まる。
1時間に及ぶ話し合いの末、結論が出た。
俺の処刑方法。
それは『火炙りの刑』だ。
………。
ただ、不死の能力を以て火炙りから生還する事が出来たのなら、俺は保護され、行く行くは『戦略兵器』として生かされることになる、とのことだ。シンクバトラはカトラ皇国の属国。俺の所有権はカトラ皇国にあり、カトラ皇国に引き取られるとのことだ。
そして、情状酌量の余地に関してである。
俺の功績。6日6晩、不眠不休、飲まず食わずで延千人余りを治療した実績。守るべき者に対する強い信念と行動力。膨大な異世界の知識、サバイバルの知識。この世界の真理追求の知識。
それらの事を踏まえ…。
「ファロイド少年の保護していた5人の孤児奴隷、及び犯罪奴隷ジグを、6人全員、カトラ皇国にて保護することとする。また、全員に平民の身分を与え、子供達5人はジグを当主とした家族としてその地位を認める。子供達5人のカトラ皇国国立学園への入学を許可し、卒園までの費用全額をカトラ皇国が負担するものとする。」
涙が、溢れた。
熱く、静かな涙…。
溢れて止まらない。
よかった…。
俺が必死で守ったモノは、無事、守られた。
報われないものだと思っていた。
だが、確かに。
俺の血ヘドを吐く努力は確かに。
誰かに評価されていた……。
「深き御慈悲に、厚く御礼申し上げます…。そして…今回の騒動を、深く御詫び申し上げます…。」
地面に這いつくばり、手を着き、頭を深く下げる。
人生初めてであろう。
心からの、感謝と謝罪の土下座だった。
会議は閉幕した。
刑の執行は明日朝。
今日は王宮内の自室にて待機することとなった。
その日の夜。
この王国の最上級の料理が出される。
「最後の晩餐」というヤツだ。
味は、しなかった。
その日は一睡も出来ず、広場に作られていく観客席や断頭台、俺専用の、火炙り用に組まれた木々と磔用の木造十字架が設営されていく様子を見ていた。
朝。
今日は朝御飯はでない。
まぁ食べられるような気持ちでもない。
髪を解かし、トイレを充分に済ませた後、手を前で固定され、兵士に連れられて処刑場所へ向かう。
大通りから処刑場所まで大勢の観客で賑わっていた。
中央広場にはコロッセオの様に円形の段々に組まれた処刑会場が作られている。出店も出ていて、まるで今夜花火大会でもするんじゃないかというようなお祭り騒ぎだ。
そうか。
皆、俺の死を歓迎しているのか。
列を成す椅子へ座る。
俺はやはり最後尾だ。
隣にはシンクバトラの国王アルマン。
程無くして、処刑ショーが開催される。
公衆の面前で鞭打ちの刑に処され絶叫を上げる大臣。
無様に許しを乞い踏みつけられる大臣。
棒で顔をボコボコに殴られ豚のようになった大臣。
奴隷や低所得層からすれば、さぞかし痛快だろう。
階級の垣根なく集まった観客は大盛り上がりだ。
一方で顔を反らしたり、静かに泣くものもいる。
その者の身内だったり。
その者に恩ある恩ある人間だったり。
次から次へと淡々と処刑されていく。
1時間も経たないうちに、俺の隣、つまり俺の一人前、シンクバトラ国王の処刑の時が来た。
処刑会場のボルテージは頂点に達し、指笛を吹く者やまでいる。いや、正式には8割ほどか喜んでいる顔をしていて、残り2割が悲しんでいる顔をしている。
王宮兵士や王の近親の者たちだ。
そう、この者たちは、この国の崩壊と消滅により、必然的に職を失い、地位を失った者たちである。誉高き王宮兵士。憧れのエリート。勝ち組。安泰の人生。そういった幸せが一瞬のうちに崩れ去った者たちなのである。
仕方がないとは言え、少し可哀想だ。
王は断頭台の壇上に上げられ、罪状がツラツラと読み上げられる。その罪状は今回の騒動の件だけではない。賄賂や違法賭博、そして反社会的行為の一部容認…これは恐らく、ジグの妻を襲って殺害した大臣との関係を指すのだろう、全て洗いざらい述べられていく。
俺からすれば、この王は最後まで、よく分からない人間だったな……。王に恩はある。感謝もしている。だが、何故か信頼できないのだ。どことなく恐ろしいというか、何を考えているのか分からないというか。そういった恐怖があった。
そして、罪状の読み上げが終わり…
「ではアルマン王よ。何か言い残す事はあるか!」
「改めて!国民の皆々様に、今回の騒動に関して深く御詫び申し上げる!全ては私の至らなさ故の結果!私の首を以て、この騒動の贖罪とさせて頂く!!」
潔し、か。
王を回復させた甲斐があった。恐らく王は、処刑されるために病からの回復を望んだのだろう。その顔に無念はなかった。
王は四つん這いの格好になり、首を固定される。
ギロチンを固定している縄が斧で絶ち斬られる。
一瞬だった。
声にならない叫び。
遅れて、地鳴りのような歓声。
シンクバトラ王国の歴史に幕が下ろされた。




