第四十五話:真実
「全ての責任は自分にある、だと?」
王の表情が曇る。
「はい…。此度の判断は全て私が決めたこと。助けを求めるべきでした…。弁えもせず、限界を考えず、新たに手に入れた自分の力に自惚れておりました…。」
本心だ。
そして、浅はかだった。
俺は……
「……その考えこそ自惚れであるということが何故分からぬ!!」
突然の王の叱責。
背筋が凍る。
「最早、貴様の首一つで済む問題ではないのだ……。見よ!!」
王がカーテンを開ける。
ベッドからも見える大きな窓の眼下には。
絨毯かと思うほどの、大勢の群衆。
看板を掲げている。文字は読めないが、歓迎でない雰囲気であることは一目で分かった。
そう、これは…。
国へのデモだ。
「貴様は確かに千の民を救ったやも知れぬ。たが残された民はこの道を選んだ。……貴様には何故だか分かるか。」
生き永らえた事への感謝ではない。
その表情は怒りと憎しみ、悲しみに恨み。
何が悪かったのだろうか。
何処で間違ったのだろうか。
……いや、それは分かっている。
人々は、俺に期待したのだ。
俺を、それはそれは神様だと思って。
この恐怖から自分を救ってくれると。
この苦しみから自分を解放してくれると。
全ての人を平等に助けてくれるものだと。
それに対し、俺がやったことは何だったか。
個人的な『価値観』のもと、女子供を分別して勝手に救い、俺に救いを求めた人を篩にかけた。俺に助けてくれとすがる手遅れの患者や男は、その価値観のもと隔離して鉄格子の中に閉じ込めた。
全ての人を救うなんてことはできない。
そんなことは分かっていた。
だから取捨選択して、優先順位をつけ。
自分に出来る最善を尽くした。
全ては効率よく、より多くの人を救うため。
俺の救いを待っていたのに、俺に取り入って貰えず、鉄格子の中に閉じ込められ、失意の中、死んでいった者たちの事など考えもせず……。
………。
「……ファロイドよ。本日午後より関係各国を巻き込んでの大法廷が開かれる。そこでワシは裁きを受け、責任追求されるであろう。ソナタもそれに出席するのだ。よいな。」
「……はい。」
「……ではワシは一足先に行っておるぞ。」
そう言うと、王は部屋から出ていった。
身体を起こし、改めて窓の外を眺める。
デモは暴徒と化し、所々煙が上がっている。
王宮兵士は沈静化しようとはしない。
門を固く閉め、王宮内で沈黙している。
自分の犯した罪、その結果の光景。
「………壮観だな。」
「……~なーにが壮観だ。このバカタレが。」
…一番見たくない顔がきた。
…いや、俺が顔を見せたくなかった顔だ。
老婆ヴェレリウス。通称べリス。
フジの村の名医で、俺の命の恩人……。
「しでかした事の大きさは理解しているね?」
「はい…。すみませんでした……。」
「フン!謝って済む問題じゃないよ!…まぁいい。エメティカや。ちょっと部屋から暇しておくれ。そこで聞き耳を立ててる輩はとっちめちまいな!」
「分かりましたヴェレリウス先生。」
エメティカさんは部屋から出ていき…、数名の兵士の悲鳴が聞こえた。笑うところだろうか。笑いすら出ない。
「さて、ファロイド。オマエさん、1つ聞かせておくれ。……その白い光とやらは、何なんだい?」
べリス婆さんでは出せない白い光。
べリス婆さんでは知りもしなかった白い光。
特殊な能力であることは間違いない。
べリス婆さんは自分の手首をナイフで切る。
べリス婆さん自ら被検体になるというのだ。
全く、この婆さんは……。
実演し、反動などの説明をした。
みるみる傷口はふさがり、跡形もない。
「ほう……こいつは…なるほどねぇ。」
そう、この眩い白光は…。
「こいつはイイものじゃないね。呪いの類だ。」
………。
「そうだね…。確かにこの光には“結果として”回復や治癒、滅菌などの効果が含まれるんだろう。だが普通の回復魔法や治癒魔法は、どんなにキレイに傷口を治しても、どこかしら、ごく薄く、小さく、傷跡が残るものなんだよ。だがこいつは…。傷跡はその痕跡すらなく消えている……。いやはや、恐ろしいもんだねぇ。」
「おそらく『時間逆行』『因果逆転』『都合操作』『未来確変』『事象の拒絶』のような、『人智を超越した何か』なんかじゃないかね。…そしてそのような魔法は、魔法とは言わない。神をも畏れぬ『呪術』っていうんだよ。」
………。
そうか。そんな立派な能力だったのか…。
…でも…もう……俺には…。
「行使した結果、どんな『呪い』や『反動』があるかも知らずにポンポン使いおって……。全くこのバカは……。」
………。
「まぁいい。アタシは一つ話をしに来たんだよ……。いいかい?この世にゃね。『天秤の法則』っていうのがあるんだよ。…何だか分かるかい?死ぬ魂と生まれる魂は自然と釣り合っていて、医者が救った命や魂は『不自然』となる。つまり『医者は本来は皆、罪深い』って話さ。」
……………。
「…だがね。オマエは、『意図せずとして』、いいや?オマエは最後まで気付かなかったんだろうねぇ。最初から釣り合っていたんだよ。不自然も何も、なかったって事さ。」
…………え?
「オマエの血液を調べさせて貰った。そしたらね。」
「死んでった奴ら全員の体から、吐き出した物から、ケツから出てきた物から、ある毒物が出てきた。その毒物とオマエの血液は、そっくりそのまま、同じ成分で構成されていたんだよ。」
「最初に死んだのは、アンタが王宮内で処刑されて、その時に飛び散った血を処分した王宮兵士だそうだ。その兵士が街で飲んで食べて、吐いて、下して…。それに触れるか、それを吸い込んで……。そうやって広がったんだろうね。」
………………嘘だ。
全ての原因は………俺………?
「まぁ今となっては過ぎた話さ。……その様子だと、やはり全く知らなかったようだね。オマエさんがこの病気を容易く治せたのも当たり前。オマエさんが病原体そのものなんだから、沈静化させることも出来るわけだ。無意識だったようだけどね。」
…………俺が…結局……。
全ての元凶……?
「この事は勿論、王は知っているよ。他にはカトラ皇国のモロカイって婆さんと、カトラの国王くらいだがね。そこでガヤしてる国民共は知りもしないだろうが。」
………やはり、俺が悪かったのだろうか……。
「知らぬが仏、ってこともあると思うんだけどねぇ。でも知らなければ成仏出来ないこともあるだろう?オマエさんはもう終いだよ。この世界は子供だろうが容赦しない。ましてや誰かの御家でもない孤児の命なんて、軽い命さ。」
……じゃあ…ジルやセイラたちは……。
ジルやリリ、セイラたちを救おうとして俺は……。
「じゃあね。まぁ、残された時間を有意義に使うことさね。アタシは滅菌の任務で忙しいから暇させてもらうよ。」
「ありがとう…ございます…。お世話に…なりました…。お身体に…気を付けて…。」
「フン!言われなくても死にゃしないよ。アタシゃ特別、死ににくいんだ。」
べリスが部屋を出ていく。
……………くそっ。
俺はただ…救いたかっただけだった…。
こんな事になるなんて…。
俺は再びベッドへ沈む。
このまま眠るように死んでしまえたら、どんなに楽だろうと。どんなに幸せだろうと。そう思ったのだった。




