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煉獄世界の死神  作者: 敗北の貴公子
第2章 安寧への道のり
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第四十二話:恩売




朝となった。


一睡もしていないが眠くはない。

覚醒状態は維持できている。



なかなか寝なかったレイタ以外はスッキリした寝覚めである。


そして…


「ん…う…」


「「リリ!!!」」


リリが目を覚ました。ジルは抱きついて泣き、ジグは後ろを向いて目頭を押さえて泣いている。


さらにピコだ。


「う…」


「「ピコぉ!!」」

セイラとレイタがピコの小さな胸に飛び込む。ピコもセイラもワンワンと泣いている。



ちょっともらい泣きしそうになった。

よかったよかった。


「ありがとうございます。」

「ありがと、ふぁろいどおにいちゃん…」


いいってことよ。




さて、感傷に浸っている暇はない。


いつもの様に朝食のパンをお裾分けしてもらい、皆に配る。


昨日の再確認。


ジグは俺と一緒に王宮へ。他は留守番。リリとピコは今日も休んでもらい、ジルとセイラも疲れが残っているだろうから交代で休憩していてもらうこととした。だがレイタ、てめーはダメだ。


『レイタは滅菌と洗濯な。』


『なんでやねぇぇえん!!!』


まぁ皆手伝ってくれるだろう。



また、リリやピコに急変があった場合はジルを伝達役、サポートにレイタを当てた。テレパシーは残念ながら「距離」の制限があった。目と目が合う距離でしか発動できない。流石に衛星携帯電話並みの性能とはいかなかったか。通信情報世界で生きてきた俺たち現代人にとってはかなり心許(こころもと)ないが、仕方がない。



王宮へ向けて出発する。


雨は上がり、今朝は朝から晴れているというのに、大通りに朝市の出店を構えている商人は1人もいない。それどころか、殆ど誰も外出していなかった。不気味な静けさが町の中心街を包む。

町の至るところに吐瀉物(ゲロ)がある。なるべく吸い込まないように、近付かないようにとジグには伝えた。



二人いるはずの門番は一人しかいなかった。

国の中央機関ですらこのザマだ。

殆ど崩壊しているといっても過言ではない。

王への謁見(えっけん)許可はすぐに通った。

王もこちらを待っていたのだ。


だが王も玉座には不在だった。

王は既に病に感染し、嘔吐などの第一段階の症状に加え、既に浮腫(むくみ)などの症状が出ているようだ。すぐに見せるよう護衛兵に伝え、病床の王の元へ向かう。


王の寝床はまさしく豪華絢爛(ごうかけんらん)だった。

あー、まさしくRPG(ロールプレイング)で出てくるような。

そこで王は多くの官女に囲まれている。

王は俺の顔を見ると


「お…おお!ファロイド!待っておったぞ!すぐ来て話を聞かせてくれ!!」


と言ってきた。



なんだ…

まだ話せる元気はあるじゃないか。

脅し文句を言いたいところをグッと堪える。

ジグとの約束だ。


『恩を売る』そのために来たのだ。



「はっ、王よ!この度参ったのは他でもありません。不確定要素は多く残っていますが、この不治の病を治癒もしくは症状を緩和することに成功しました。そのご報告にと。」


「おおお!!よくやったぞ!ファロイド!!」

王とその周囲が歓喜の声を上げる。


「ですが病というものは時間が経ってから再発する危険もございます。私が成功した魔法は、確かに症状は消失しましたが、それは一時凌ぎかもしれません。何卒、ご理解を。」


「構わん、それでは早速ワシに…と言いたいところじゃが、まずはコイツを治してやってくれぬか…。」


王は隣のベッドに寝ている女性を指差す。

美しい女性だ。

だがその顔や手足は大きく浮腫(むく)み、顔は黄土色をしている。脇には大量の吐血の跡。第三段階、終末期の症状だ。

そして、お腹がふくれている。

これは浮腫(むくみ)の症状ではない。



「我が妻だ。…腹に子を宿していての…。」



「申し訳ありませんが、王よ。お子様は諦めて下さい。」



数人の兵士が俺に罵声を浴びせるのを王が制止する。


「よいのだ…。見抜いていたか。ファロイド。つい昨日はまだ動きがあったのだが、妻が血を吐き始めてから、もはや腹の子はピクリとも動かなくなってしまった。宮廷医師に診てもらったが絶望的とのことだ…。残念ながらこの世界に蘇生術はない。子を生き返らせろとは言わぬ。せめて妻だけでも救ってくれ…。頼む…。」



王の涙。

最愛の妻にかかった不治の病。

これから生まれてくる筈だった跡取りの死。


これもまた、悲劇だな……



王妃の脇に立ち、大きく息を吸う。

丹田で気を練り、息をゆっくり吐き出すと共に。

丹田から胸へ、胸から腕へ、腕から右の掌へ…。


王妃の身体を包み込むほどの白く(まばゆ)い光が掌から発せられる。しっかり集中している分、今までで一番状態がいい。



誰もが見たことない白い光に驚きの声をあげる。

誰もが見たことない白い光に目を丸くする。



さらに集中。

左の掌から小さい光を出す。小さいが、右手から出ている全身を包む光よりさらに強い光だ。右手の光を天井の蛍光灯とするなら、ヘッドライトくらいの強さはあるだろう。その左手で、王妃の肝臓や腎臓、脳、心臓、胃、腸、膵臓(すいぞう)など各器官を照らしていく。

十数分のうちに、みるみるうちに浮腫(むくみ)黄疸(おうだん)が取れていき、肌は血色を取り戻していった。虫の息だった呼吸も、今は既に穏やかになっている。

そして、最後は…。




「これで、治療は終わりです。次は貴方の番です。王よ。」


その場の全員が呆気に取られている。

誰も何一つ発言できず、誰も動けない。


そんな中、王に寝てもらい、治療を開始する。

第一段階に毛が生えた程度の王なんて数分だ。

治療は完了。


全員がポカーンと呆気に取られている。

棒立ちのカカシが並んでいる。

いい光景だ。



一休みする暇はない。

吐血跡や吐瀉物、下痢の跡に向かって白い光を放って浄化。床も満遍なく浄化。そして大サービスだ。


「ここにいる全員が、病に感染しています。今すぐこちらへ一列に並んでください。」

全員を並ばせ、全員に白い光を放つ。

抵抗した者もいたが、無理矢理白い光を浴びせた。


その後宮廷医師を呼び、対応策の再確認。

王宮内全ての部分に青い光の浄化魔法をかけ、浄化させることとした。その間全員この場に隔離。再発されたらたまらない。


「さて、以上になります。」



そう言ったとき、王妃が苦痛の声を上げる。

全員が駆け寄り、心配の目を向ける。


そして……


「オギャァアアア!!!」




良かったな。王よ。

絶望的、だったんだろう?


この混沌の世の中に生まれ落ちた不幸を呪うがいい、新たなる王子よ、とか心の中で中二病っぽい台詞が浮かんだのは内緒だ。



しばらくして王妃が目を醒ます。

「あなた…ただいま……」



王は王妃の寝ているベッドに突っ伏して泣いた。

長いこと泣いた。

付き人も、いや、その場にいた俺以外の全員。

ある人は座り込んで。ある人は包み隠すこともせず。

王宮内は涙に包まれた。




俺はさっさとその場を後にした。

単純なハッピーエンドとは思わなかった。

俺ら家族をあっさり見捨てたあの仕打ち。

忘れてなるものか。



玉間を出た後は、王宮内の全てのトイレと洗面場所、汚れたシーツの保管場所、食堂、厨房など感染拡大が懸念される箇所を、俺が自ら出向いて浄化した。昨日の警告が役立ったのだろうか。嘔吐で汚れたシーツは一ヶ所にまとめられ、山のように積み上げられて隔離されている。少しは危機感が芽生えたのだろうか。廊下など他の場所は宮廷医師に浄化させることにした。



玉間に戻るも、依然として皆涙に包まれており、話しかけられる雰囲気でもなかったので、ジグをつれて城を出る。

ジグには再度白い光を放った。

どこに病魔が潜んでいるか分からないからな。



次は…病院だ。

俺を汚いガキとかいって蹴飛ばしてくれた病院…。



せいぜい恩を売るとしよう。



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