第四十話:考察
「リリたちを瀕死の状態から回復させた、この白い光は回復魔法ではない、と?」
ジグの疑問に答える。
長年護衛兵を勤めた経歴のあるジグだ。
医療魔法は当然知っており、病に陥ったこともあるし、深手を負ったこともある。
それでも、自分の処置に当たった医師の誰もが「緑色・黄色・赤色の光」それから「青色」の光を放つ医療魔法だったとのことだ。この三色の光は俺も受けたことがある。
予想の通り、この三色の魔法は、その人の体調や傷、病理を調べる「解析」と、傷の治癒や病気の治療をする「治癒・回復」の2つを兼ねる『超高等魔法』。傷が深いほど、病が重いほど、患部に翳した手から発される光は赤くなり、回復に向かうにつれ、黄色、緑色に変化する。
だが、これだけでは、例えば「病原菌」の殺菌は出来ない。殺菌や消毒には青色の光の魔法、つまり『浄化魔法』を使うようだ。やはり手を翳した部分の浄化を行うことができ、例えば毒が塗ってある刀で傷を受けた時はこの二つの魔法を同時に使う必要があるらしい。
恐らくは赤黄色緑の魔法の原理は、翳した部分を限定的・局所的に、細胞の自己再生力・自己治癒力を高め、新陳代謝を活発化させるということだろう。
そして、青色の浄化魔法と三色の治癒魔法の2つの魔法を同時に使って、所謂『回復魔法』と言うのだろう。
一人前の医師とは、その患者の状態から、どこの位置に病理があるか悟り、その患部をピンポイントで治していく治療が普通のようだ。
そしてこの病気、王国きっての医師を以てしても「手に負えない」ということは、『回復魔法』でも治療できる「限界」があるようだ。「限界」というのは、恐らく「患部の上に手を翳し、局所的に治療する」という、この魔法の欠点にある。
赤痢やノロウイルスなど消化器系に限定された毒ならまだしも、例えば天然痘や黒死病、毒矢など、一気に全身に廻る毒は手に終えないのかもしれない。また、人間の免疫構造そのものを変えてしまう「HIVウイルス」、DNA構造に由来した障害などには効果が薄そうだ。
それに対してこの白い光。
全く不明。全てが不明。
発動した俺が言うのも何だが、未だにこの病気が何なのか分からず、治療法や病原体が消滅する原理も分からない。それにも関わらず、リリもピコも、浮腫や黄疸など目に見える病気の症状は消え、呼吸も穏やかになっている。
回復魔法の一種なのか…?
少なくとも害や代償はみられないが…。
そしてその反動。恐らくあの感覚は「頭の血管が切れた」感覚なのだろう。くも膜下出血だったかもしれない。頭に翳したセイラの手もびっくりするくらい赤い光だった。命の危険だったわけだ。
そして、俺はレモンイエローの光る髪、通称『エマージェンシーモード』へ覚醒した。覚醒してからはノーリスクで負担や疲労を感じることなく魔法を発動でき、しかも規模も大きく、より強い光を放てるようになった。
全くの謎である。
今は考えるだけ、無駄か。
…さて、改めてこの病気を整理する。
恐らく嘔吐物や下痢や体液に接触感染、もしくは飛沫感染により広がる感染症の様相を呈していること。おおまかな病様は激しい嘔吐・下痢をした後、一時的にケロッと回復し、数刻の後に激しい吐血・下血をし、死に至るという流れであること。
病名、病原体の名前、対処法は一切分からない。
だが…嘔吐、下痢の初期段階なら通常の『治癒魔法』や『浄化魔法』でも回復できるかも知れないな…。
ジグと残ったレイタを治療し、セイラに全員の身体状況の「解析」をさせる。全員、全身緑色の光であることを確認し、嘔吐跡やトイレに向かって白い光を放つ。青い光の浄化魔法は使えないが、一応は除菌のつもりである。これでこの部屋の「清潔」は確保できたと信じたい。
さて、この後は…
「皆、聞いてくれ。これからの事について話がある。」
寝ているリリとピコを除いたメンバーに、予測や見解も含め知り得たことを話す。皆真剣に聞いており…いや、ジルとセイラは目を丸くして口を空いている。まぁ子供に理解しろって言っても無理か。
「まぁ…なんだ。つまりヤバい病気ってことだ。」
そして今後のこと。
「まず王宮に行き、この魔法を使って病気を治したことを王に見せる。その上で俺たち6人のカトラ皇国への旅費及び関係費の全額負担、カトラ皇国での身分の保証、カトラ皇国にある孤児院及び学園への入園、ジグの身分の保証を書面に落とす形で確約させ、それをカトラ皇国に承認してもらい、承認が通り次第、王族の治療を行う。その約束が守れない場合、もしくは我々に手を出すような強行手段に出た場合は、王族のみならず国民全てを見捨ててこの王国を出ていく。」
というのが俺の提案だ。
あの王は信用できない。
その提案にジグは「待った」をかける。
「王との交渉はそれではダメだ。」
曰く、恩を売り下手に出る、ということ。
王にもメンツがあり、プライドがある。
それは『恩赦』に関しても同じ。
貢献した者に恩赦を与えなければ、部下に示しがつかず、貴族など投資家からの信用も失うことになる。
なるほど。
悔しいが俺の提案よりはるかにリスクが少ない。
貢献している人間の家族を襲うことはしないだろう。
そうと決まれば即行動。
…と行きたいところだが、もう夜更けだ。
時刻にして3時といったところだろう。
俺はともかく、ジルやセイラ、病み上がりのジグにはキツいだろう。レイタ?知らん。転生者だし何とかなるだろ。
『酷すぎワロタw』
などとレイタは言っているが、まぁスルーでいいか。
「今日は少し狭いがこの部屋で休む。各自疲れを取って明日に備えてくれ。活動は明日からだ。」
皆を休ませることにした。
消灯して、1時間。
日の出まで残り3時間。
皆スヤスヤグウグウ寝ている。
俺は眠くないし、眠る必要もない。そして眠ってしまったら、この覚醒状態は解けてしまう可能性が高い。
かといって無駄に動くのも消耗…か?
肝心なときにこの能力が使えないのは頂けない。
この世界に来て、色々あったな…
前途多難もいいところだ。
異世界に転生したかと思ったら子供の姿で。
真っ白な服を着せられ。
その白い服が元で迫害の目で見られ。
王国から招待されて。
迎えに来た大臣が凄く好い人で。
やっと軌道に乗ったかと思ったら
その道中殺されて。なんか生き返って。
頑張って歩いて王国行こうとしたら
要人殺害容疑で尋問を受けて。
王国で孤児奴隷の悲惨な生活を見て
その父親が要人殺害の犯人で。
好い人と思ってた大臣が鬼畜外道で。
孤児奴隷はそいつの子供で。
情から庇おうとしたら代わりに殺されて。
でもやっぱり生き返って。
その後頑張ってお金を稼ぐため働いて。
協力者と家族がタチの悪い疫病にかかって。
治すために頑張って……
無理したらまた死にかけて。
はぁ…。
ため息しかでない。
この間およそ2週間である。
濃密過ぎる。勿論悪い意味で。
いや、悪くはないか。
思い描いていた異世界転生ではなかったけど。
充実してる。とても。凄く。
そんな事を考えながら、夜は更けていく。
人物紹介
○ファロイド
この物語の主人公。
だいたい年齢は6歳くらい。
金色の長い髪と、赤い瞳を持つ美少女(♂)
今はレモンイエローの髪をした美少女。
元介護職。医療知識に興味あり。
医療魔法なのか謎の白い光が掌から出るようになる。
覚醒後はより強く大きい光を放てるようになった。
○ジル
シンクバトラ王国の路地裏で出会った孤児奴隷。
責任感と正義感が強い男の子。7、8歳くらい。
路地裏の子供奴隷ではリーダー格。
妹達の介抱に奔走。
◯リリ
ジルの妹。5歳くらい。心優しき女の子。
疫病が進行し非常に危険な状態だったが、ファロイドにより一命を取り止め、今は静かに眠っている。
◯セイラ
赤毛ツインテールのキリッとした女の子。
年齢7、8歳くらい。身体を売り、生計を立てている。
ピコを救いたい一心で医療魔法が開花。
◯ピコ
赤毛ポニーテールのおっとりとした女の子。
セイラの双子の妹。年齢7、8歳くらい
姉同様、性的接待をしてお金を稼いでいる。
疫病にかかるが、なんとか一命を取り止める。
◯レイタ
セイラとピコの弟。砂色の髪の毛。年齢5、6歳。
生まれつき言葉が喋れない…が、テレパシーを使うことができ、テレパシーの中では凄くおしゃべりな性格だった。
実はファロイドと同じ日本人の転生者。
本名「霧島 嶺太」
◯ジグ
ファロイド専属の犯罪奴隷。
ジルとリリの父親。30台半ば。
心配性で義理堅い。真面目すぎるのがタマに傷。
元護衛騎士、元盗賊。
流行り病にかかるも気力で任務を遂行する。




